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主人公を“よそ者扱い”…朝ドラ『虎に翼』で描かれる“田舎コミュニティ”のリアルとは

  • 2024.7.20

新潟で新たな“土台作り”に勤しむ寅子(伊藤沙莉)。新潟地家裁三条支部に配属となり、忙しく働く日々に変わりはないが、娘・優未(竹澤咲子)との距離をなんとか縮めようと努力している。そんななか、田舎特有の、明言されない“圧力”に頭を悩ませる場面も……。

「なあなあ」「穏便」に済ませたがる田舎コミュニティ

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『虎に翼』第16週(C)NHK

寅子が新しく配属された新潟地家裁三条支部の面々も、バラエティに富んでいる。弁護士の杉田太郎(高橋克実)、杉田次郎(田口浩正)、書記官の高瀬(望月歩)など、人の良さそうな顔をしている者ばかりだが、どこか腹に一物を抱えているようにも見える。

案の定、いきなりやってきた寅子をどこか“ヨソ者扱い”し、田舎特有の閉鎖的な価値観をさりげなく押し付けてくるような言動が目立つ。日頃から、頼んでいない食物を融通され、いつの間にか恩を着せられている構図を作られているのも、寅子にとってはやりにくさ満点だろう。

あくまで法律に則ったうえで判決をすべき、と考えている寅子にとって、過剰な親切はときに足枷となる。寅子が三条支部の面々を「親切にしてもらって」と評したところ、それを聞いた航一(岡田将生)は「親切……」と、皆まで言わないまでも、違和感をあらわにしていた。

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『虎に翼』第16週(C)NHK

連続テレビ小説で描かれる、田舎コミュニティの良い面と悪い面。現代では、コロナ禍を経てますます地方移住の機運が高まっている節がある。都会の喧騒から離れ、競争社会から距離を置き、自分らしい暮らしをしながら理想の人間関係を構築すること。言葉でいうのは簡単だが、あらためて三条支部の面々の言動を追っていると、行うは難しと思わざるを得ない。

一人娘との距離は縮まるか?

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『虎に翼』第16週(C)NHK

救いなのは、毅然とした態度を崩さず物事に向き合う寅子を、受け入れてくれる人間もいるということだ。書記官の高瀬は、最初こそ何事にも我関せずで、人生に波風を立たせたくないタイプの人間に見えた。しかし、戦死した兄のことをあげつらわれ、申立人との間にトラブルを起こしてしまう。

その一件に関して、寅子は「身内の人間だから」となあなあで済ませず、しっかり処分した。本音で高瀬と向き合ったことで、彼は寅子の人間性を理解し、自身の腹のなかも見せてくれるようになったのだ。

花江(森田望智)や直明(三山凌輝)たち、家族が密かに抱えていたことに長らく気付けず、蟠りをつくってしまった寅子とは違う。この調子で、優未との距離も少しずつ縮めてほしい。そう思いながら、親子の会話を見守ってしまう。

高瀬からもらったキャラメルを、夜な夜な二人で食べながら、寅子はようやく優未に対して優三(仲野太賀)の話をすることができた。高瀬が兄の死を受け入れようとしている過程を見て、寅子も徐々に夫の死を受け入れる準備ができつつあるのかもしれない

優未に夫の話を聞かせることで、優三の存在はどんどん思い出になっていく。しかし、それは寂しさを増幅させる営みではない。娘と共有することで、むしろ思い出は豊かになっていくのだ。夜にひっそりとキャラメルを分け合いながら、今しかできない話を、今だからこそできる話を、親子でたくさんする。そうすれば、時間はかかっても、空いた距離は少しずつ埋まっていくに違いない。



NHK  連続テレビ小説『虎に翼』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_