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臓器移植患者の9割が「性格変化」を報告していた!臓器で心は移るのか?

  • 2024.5.23
ドナーが音楽家だと音楽好きになる⁈ 臓器移植で「性格」が乗り移る理由とは
ドナーが音楽家だと音楽好きになる⁈ 臓器移植で「性格」が乗り移る理由とは / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

臓器移植では「ドナーの心」が移るという話を聞くことがあります。しかしこれは科学的にあり得ることなのでしょうか?

1963年に世界初の臓器移植(心臓移植は1967年)が行われて以来、患者たちは自分の性格の不気味な変化を頻繁に経験してきました。

しかも中には、ドナー本人の性格や記憶が乗り移るような不可思議な現象まで報告されているのです。

米コロラド大学(University of Colorado)による最新の研究では、臓器提供を受けた患者のおよそ9割が何らかの性格変化を経験していることが判明しています。

どうしてこのような現象が起こるのでしょうか?

研究の詳細は2024年1月17日付で医学雑誌『Transplantology』に掲載されています。

目次

  • 臓器移植で性格が変わった経験談
  • なぜ臓器移植で性格が変わってしまうのか?

臓器移植で性格が変わった経験談

臓器提供で性格が変化したケースはこれまでに数多く報告されています(Integrative Medicine, 2000)。

例えば、47歳の白人男性の患者は、バイオリン教室に向かう途中で車にはねられて亡くなった17歳の黒人学生から心臓提供を受けました。

男性はそれまでクラシック音楽が大嫌いだったのに、術後から急に音楽の好みが変わって、積極的にクラシックを聴くようになったのです。

また他にも、9歳の少年がプールで溺死してしまった3歳の少女から心臓提供を受けたケースのこと。

少年はそれまでプールで泳ぐのが大好きだったのですが、術後から水をひどく怖がってプールに近づかなくなったといいます。

さらに56歳の大学教授が、勤務中に殉職した34歳の警察官から心臓を受け取ったケースによると、男性患者は術後から「顔に強い光が差し込んで、ひどく熱くなるのを感じる夢」を頻繁に見るようになりました。

ドナーの家族に話を聞くと、殉職した警察官は麻薬密売人の取引を阻止しようとして、顔に銃弾を受けて亡くなっていたことがわかったのです。

臓器提供で性格が変わる謎
臓器提供で性格が変わる謎 / Credit: canva

こうした例は他にも枚挙にいとまがありません。

臓器提供を受けた患者は、食や芸術、性衝動、仕事に対する好みが変わったり、自分の経験にはないはずの「記憶」が頭に浮かんだりしているのです。

こうした変化が起こるのは何も心臓の提供を受けたときだけではありません。

コロラド大学が最近、心臓の移植を受けた患者23名と他の臓器の移植を受けた患者24名にインタビューしたところ、臓器の部位に関係なく、約90%の患者が何らかの「性格の変化」や「記憶の植え付け」を経験していたことがわかったのです。

もちろん、そのすべてが良い方向に変化するのではなく、中には急に短気になったり、情緒が不安定になるケースもありました。

しかしいずれにせよ、臓器移植でドナーの性格や記憶が乗り移るとは、一見するとオカルティックで信じがたい現象です。

どうしてこのような不可思議な現象が起こるのでしょうか?

なぜ臓器移植で性格が変わってしまうのか?

研究者によると、この現象にはいくつかの科学的な要因が考えられるといいます。

1つは「プラセボ効果」です。

これは最も単純な理由で、新しい臓器を受け取ることで人生をリスタートできる喜びが患者を以前より明るくさせると説明されます。

しかし、これだけでは性格変化の一部をしか説明できません。

もう1つの重大な要因として、研究者は「臓器移植による生物学的な要因が関わっている」と指摘します。

例えば、移植された臓器は生命維持に欠かせない正常な機能を果たす一方で、患者本人の臓器とは異なるホルモンやシグナル分子を放出し始めます。

これらの化学物質はそれまでとは違う形で脳内の神経系に作用し、患者の気分や性格を変える可能性があるのです。

ドナー臓器のホルモンやシグナル分子が患者の神経系に影響する可能性
ドナー臓器のホルモンやシグナル分子が患者の神経系に影響する可能性 / Credit: canva

こうした理由から患者の性格が変わるのは納得できます。

しかしながら、これだけではドナーの性格や経験が乗り移るように見える現象を完全には説明し切れません。

これについては研究者たちも確かな答えを持っておらず、臓器の一つ一つにドナーの性格や経験の記憶が刻印されているように見えると話しました。

実際に「システミック記憶仮説(Systemic Memory Hypothesis)」という説を提唱する研究者もいます。

これは本人の記憶が脳という単一の場所にだけ保存されるのではなく、すべての生きている細胞に何らかの形で記憶が保持されるというものです。

ただこの説を裏付ける証拠は見つかっておらず、細胞がどのようにしてドナーの特定の経験や性格を保持するのか、そして臓器提供を受けた患者の中でいかに発現するのかは不明です。

ただこれだけ広範に、臓器移植を通じて「ドナーの心」が乗り移ったかのように見える現象が確認されているということは、まだ未発見の複雑な要因が臓器移植に存在していることは確かなようです。

参考文献

Eerie Personality Changes Sometimes Happen After Organ Transplants
https://www.sciencealert.com/eerie-personality-changes-sometimes-happen-after-organ-transplants

Can an organ transplant really change someone’s personality?
https://theconversation.com/can-an-organ-transplant-really-change-someones-personality-228923

元論文

Personality Changes Associated with Organ Transplants
https://doi.org/10.3390/transplantology5010002

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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