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若葉竜也&岡山天音の“シンプル芝居”はなぜ胸を打つのか? 映画ファン必見のワケ。ドラマ『アンメット』第6話考察レビュー

  • 2024.5.23
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『アンメット』第6話より ©カンテレ

杉咲花主演の月10ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)。本作は、“記憶障害の脳外科医”が主人公の、新たな医療ヒューマンドラマ。今回は、難易度の高い脳手術を執刀することになったミヤビと、仲間達の絆が深まる第5話のレビューをお届けする。 (文・苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価】
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【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。

『アンメット』第6話より ©カンテレ
アンメット第6話より ©カンテレ

てんかん発作を起こした患者が丘陵セントラル病院に運び込まれてくる。患者の名前は山本健太郎(鈴之助)。過去に同病院で脳出血で治療を受けており、今回の発作はその後遺症と見られた。

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てんかん発作とは、脳にある神経細胞の異常な電気活動により意識消失やけいれんなどの発作を起こす慢性的な脳の病気で、脳に何らかの障害が起きたり、脳の一部が傷ついたことで起こる「症候性てんかん」と、原因が見当たらない「特発性てんかん」に分けられる。一度発作が起きると今後も繰り返す可能性が高いことから、山本には抗てんかん薬が処方されることになった。

一方、抗てんかん薬は一度も発作を起こしたことがない患者への予防投与は推奨されていないが、ミヤビ(杉咲花)は予防投与として、大迫(井浦新)からこの薬を処方されていることが明らかに。抗てんかん薬の予防投与に否定的な立場を取る大迫が、なぜミヤビには処方しているのか。

違和感を持った三瓶(若葉竜也)は、ミヤビが過去にてんかん発作を起こしたことがあるという仮説をもとに脳波を調べるが、それらしい反応は見当たらない。だが、もしその仮説が正しければ、大迫はミヤビに対して嘘をついていたことになる。何らかの目的を持って。

そんな中、大迫が自分に嘘をつくなどにわかには信じられないミヤビは大胆な行動に出る。『アンメット』第6話では、ミヤビの記憶障害に関する驚きの事実が明らかとなった。

『アンメット』第6話より ©カンテレ
アンメット第6話より ©カンテレ

抗てんかん薬の服用を中断すれば、てんかん再発のリスクがある。ミヤビはそれを分かった上で断薬し、夜勤中にてんかん発作を起こした。夢遊病者のような歩行自動症に加え、発作性発語が現れた後に、全身けいれんを発症したミヤビ。それらの症状から、ミヤビは側頭葉てんかんを患っている可能性が高かった。

同期の星前(千葉雄大)から事情を聞いた綾野(岡山天音)も三瓶に協力する。綾野がなぜか消されていた脳波室の動画データを復元すると、そこには睡眠脳波を取っている最中にてんかん発作を起こすミヤビが映し出されていた。つまり、大迫はミヤビに嘘をついていたことになる。

「川内先生のてんかん発作を伏せていたのはどうしてですか?川内先生の記憶障害を治したくなかったからですよね?」と大迫に迫る三瓶。さらに“てんかん性健忘”についての論文を提示し、側頭葉てんかんが記憶障害を引き起こす可能性について指摘する。大迫は何度もミヤビの脳波を調べた上で、記憶障害だけが残る血中濃度の低い抗てんかん薬を処方していた。

事実が明らかになっても、大迫は一切顔色を変えない。高濃度の抗てんかん薬が認知機能を低下させるという理由で最小限度の服用量を決めたと説明する。それが真実なのか、それとも嘘なのか。嘘だとしたら、なぜ大迫はミヤビの記憶障害を残そうとするのか。麻衣(生田絵梨花)は大迫について、いつも全体を見て最善を考える人間であり、その大迫がすることには何か意味があるという。

だが、三瓶が納得できないのはそこだ。大迫は全体の利益を優先し、個人の犠牲に目を向けない。同じ頃、ミヤビは、十分な睡眠をとるため夜勤を減らしたいと申し出たところ上層部から休職を勧められた山本の職場を訪れた。ミヤビが丁寧に山本の抱える障害について説明し、合理的配慮を求めても、特別扱いはできないとして突っぱねる上層部の態度は大迫のそれと重なる。

たしかに夜勤を減らしてほしいという山本の要求を呑めば、他の社員から不満が出る可能性はある。障害のある人が働きやすい環境を整えてほしいと言われても、それだけの余裕が会社にあるとは限らない。

だからといって、彼らを追い出していたら社会は成り立たなくなる。院長の藤堂(安井順平)が言ったように、求めているのは特別扱いではなく理解。各々が抱える病気や障害について正しい知識を持ち、一緒に最善策を模索していく。それは長期的に見れば、必ず社会全体の利益になる。誰だって事故や病気で障害を負うリスクを抱えているのだから。たとえ、そうなったとしても居場所のある社会にしたい。

『アンメット』第6話より ©カンテレ
アンメット第6話より ©カンテレ

ミヤビが山本のために職場まで訪れたのは、自身が記憶障害を抱えているからというのもあるが、それ以前から彼女は人に寄り添う優しさを持っていた。てんかん発作を起こした時、発作性発語で「こうすると影が消えます」と口にしたミヤビ。三瓶は以前にもその言葉を聞いたことがあった。

本作のタイトルである「アンメット」には、直訳すると「満たされない」という意味がある。できた影に光を当てても、また新しい影ができて、満たされない人が生まれてしまう。「どうすれば隈なく照らして、アンメットをなくせるのか。その答えを探してます」と言った三瓶に対し、ミヤビは寄り添いながら「こうすると影が消えます」と言った。

そんなミヤビが、大迫がどこかに当てている光の影に覆われている。「それの何が問題なのかな?」という大迫の一言で、三瓶の張り詰めていた糸が切れた。怒りで唇が震え、感情の高ぶりとともに目からは涙が溢れる。引き算の美学を感じる演出によってフォーカスされる若葉竜也の演技からひと時も目を離すことができない。

てんかん発作を起こしたミヤビの頭を守りながら、「大丈夫大丈夫……」と声をかける三瓶の柔らかい口調。ミヤビとの写真を見ながら、溢れ出てくる涙。2人の過去を何一つ知らなくても、どれだけ三瓶がミヤビを愛していたかが伝わってくる。

そしてミヤビもまた、全ての人を満たしたいという、多くの人が理想論だと吐き捨てるような願いを持つ三瓶の純粋さを愛していたのだろう。その記憶は確かにミヤビの中にあるのに、取り出すことができない。

あまりに切ないが、抗てんかん薬を増やしたミヤビが前日に食べた豚足を覚えていたことで少し希望が見えた。嬉しそうに報告するミヤビに、三瓶が向けた優しい笑顔にまた涙が出てくる。

『アンメット』第6話より ©カンテレ
アンメット第6話より ©カンテレ

そして今回、もう一つ嬉しかったのは綾野が自分の立場を顧みずに三瓶に協力したことだ。

大迫が嘘をついている可能性を知り、ミヤビが心配で麻衣の言葉もまともに入ってこない綾野。口元においた指先や、前髪のかかった瞳から無意識に発露される色気が半端じゃない。おそらく政略結婚と口では言いながら、本気で綾野を愛しているであろう麻衣がヤキモキするのも分かる気がする。

これまではどちらかといえば、腹に一物を抱えたキャラか人畜無害感のある友達ポジションの役を演じることが多かった岡山天音。そうした要素も兼ね備えながら、憂いを帯びた色気のある大人の男性像を体現している。

このドラマを観ていて不思議なのは、次回が待ち遠しいという感覚にならないこと。それは一話一話に映画1本観終わったくらいの満足感があり、その余韻に浸ってる間に一週間がすぐ過ぎ去ってしまうからだ。その満足感を作り出しているのが、無駄なものをそぎ落とした演出であり、シンプルに映し出される役者陣の名演である。

中でも作品を牽引しているのが、多くの映画関係者・ファンを惹きつけてやまない若葉と岡山の繊細な演技。そんな二人が、同じく化け物級の演技者である杉咲を巡って火花を散らしているのがたまらないのである。

(文・苫とり子)

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