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牛襲うヒグマ「OSO18」の死では終わらない…「子牛がクマに襲われ、4頭死んでいる」いま振り返りたい教訓

  • 2024.5.22
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2019年から去年までに、66頭の牛を襲ったヒグマ「OSO18(オソジュウハチ)」。
去年7月に駆除されましたが、ことしもその影を思い出す被害が起きてしまいました。

「子牛がクマに襲われ、4頭死んでいる」…
2024年5月、道東の牧場で、子牛8頭が襲われました。
発見時、すでに4頭が死んでいて、4頭がけがをしていたといいます。

ただ、「OSO18」に向き合ってきた地元のハンターや専門家らは、以前から「OSO18だけが特別ではない」と、次の被害への警鐘を鳴らしていました。

今、改めて「OSO18」の4年間を振り返り、なぜ被害が長期化していたのかなど、教訓を見直します。

Sitakke

連載「クマさん、ここまでよ」

【この記事の内容】
・「子牛がクマに襲われ、4頭死んでいる」
・「OSO18」の4年間…なぜ長期化したのか
・「OSO18以上のクマがいる」## 2024年5月21日 新たな被害

警察などによりますと、5月21日午前8時ごろ、北海道東部の別海町の牧場で、小屋の中で飼育していた子牛12頭のうち、4頭が死に、4頭がけがをしているのが見つかりました。

8頭にはいずれもクマに襲われた痕があり、近くには幅約17センチのクマの足跡が複数残されていました。

牧場の専務は、「ひっかきとかみ傷と、柔らかいところをかまれて亡くなっていた。内臓を狙ってだと思う。ちょっと衝撃、『まさか』と思った」と話します。

死んだ4頭のうち、3頭は「ハッチ」というケージから引きずり出されていました。

牛舎の入口は、ビニールで閉じられていたものの、ドアなどの施錠はなく、前日の20日午後4時半までは異常がありませんでした。

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クマの生態に詳しい酪農学園大学の佐藤喜和教授は、襲ったクマはオスの成獣の可能性が高いと指摘します。
「(オスの成獣は)繁殖期ということもあり、通常にない行動をとるのは、この時期よくあることだが、牛をつないで飼っているような場所にまで入ってきてくることはあまりなかった」

近くの住宅までは100メートルほどで、別海町は、牧場の敷地内に箱わな1基を設置しました。

牧場によりますと、22日朝までに新たな被害やクマの痕跡は確認されていないということです。

別海町や警察などは、クマが再び現場に戻ってくる可能性もあるとして注意を呼びかけています。

「OSO18」の4年間…最初の1年で28頭の牛が襲われる

4年間にもわたった「OSO18」による被害。
今後の対策を考えるため、改めて振り返ります。

牛が初めて襲われたのは、2019年7月、道東の標茶町のオソツベツ地区。
放牧中の1頭が、背中を引き裂かれていました。

現場の地名と、足跡の幅が18センチだったことから、このクマは、コードネーム「OSO18」と呼ばれるようになりました。

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標茶町が設置したカメラに写った「OSO18」とみられるクマ(2019年8月)

出没1年目の2019年、標茶町で、あわせて28頭の牛が襲われました。

なぜ長期化したのか

地元は、駆除に向けて「OSO18」の行動の把握に乗り出します。

しかし、監視カメラに姿が映るのは、わずか数回。
しかも、決まって銃を使えない夜の時間帯でした。

夜間や住宅地での発砲は、法律で禁止されているのです。

「OSO18」は、牛の襲撃を重ねるうちに、捕獲の網をすり抜ける術を学習していました。

深夜から明け方にかけて、放牧中の牛だけをねらい、沢などを移動し、足跡をほとんど残さないのです。

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初めてのカラー画像は2023年6月末になって撮影された(標茶町提供)

地元のハンターは、2022年8月の取材で「多くのクマは『自分の餌だから』と普通はそこから逃げないでいるけど、OSO18は関係なしに食べては逃げていなくなってしまう。われわれハンターは、ここが餌場だから寄って来るだろうと待ち構えるが寄って来ない。それだけ利口だということ」と話していました。

道東の広い酪農地帯を縦横に移動し、出没3年目の2021年以降は、隣の厚岸町にも被害が広がりました。

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厚岸町の町営牧場の電気柵(2023年撮影)

地域の酪農家は、クマの侵入を防ぐ電気柵を設置するなど、対策にあたります。

厚岸町の町営牧場では、2022年、周囲23キロにわたり電気柵を設置。 2023年はさらに5.5キロ増設しました。

牧場長は、「牧場全部を囲うのはそもそも無理。標茶町との境界のほうを重点的に、全放牧地の約4分の1を囲えば、何とかディフェンスできるかな」と話していました。

標茶町は「OSO18」の行方を追うため、町有林の16か所にセンサーカメラやヘアトラップを設置しました。

最後の被害から駆除まで

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24日に見つかった死んだ乳牛。釧路総合振興局提供

しかし、2023年6月にも、標茶町の牧場の敷地内で、乳牛1頭が死んでいるのを牧場主が見つけました。

乳牛は右の前足が折れ、腹部が裂かれていて、背中と肩の一部に食べられた痕跡がありました。

現場に残されたクマの体毛を鑑定した結果、「OSO18」による被害と確認されました。

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初めてのカラー画像は2023年6月末になって撮影された。この木についた体毛で「OSO18」と確認(標茶町提供)

2019年以降、確認されているOSO18による被害は、66頭目となり、32頭が死んだことになります。

自治体の担当者や専門家らは、対策会議を開いて、周辺に「くくりわな」を設置、捕獲する対策を試みることとしました。

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ハンターが駆除したクマ…「OSO18」だった

7月末、道東の釧路市の隣の釧路町で、ハンターがクマ1頭を駆除しました。

駆除されたクマは、体長が2メートル10センチ、前足の幅が20センチ、推定体重は330キロほどあり、手足に皮膚病がありました。

駆除の報告を受けた釧路町は、念のためDNA鑑定を道に依頼し、その結果、「OSO18」であることが判明しました。

このときの取材で、クマの生態にくわしい、北海道大学大学院獣医学研究院の坪田敏男教授は、「人に対してどう対応すればいいか、十分に学習しているクマ。ちょっと変わったクマだった」と話していました。

クマはドングリなどの木の実が主食で、牛を襲うのは、珍しいケースです。
なぜ「OSO18」は、牛に執着したのか。

坪田教授は、「厚岸町や標茶町はクマが生息するにはいい環境ではない。食べ物がたくさんある森林ではなくて平地が広がっている。OSO18はかなり放浪して、自分の餌を食べられる場所を学習して、『牛を襲う』という新たな戦略を獲得してうまく生き残ってきた」と分析します。

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初めてのカラー画像は2023年6月末になって撮影された(標茶町提供)

第2の「OSO18」を生み出さないためには、どうしたらいいのか。
坪田教授は、「すべての放牧地を電気柵で囲うのは難しい。牛の放牧管理をきちんとするということで、何日かに1回は牛舎に収容するとか、毎日カウントするとか、きめ細かい対応は必要になると思います」と話していました。

追い続けてきたハンターは…「OSO18以上のクマがいる」

警戒心が強く、人前に姿を現さなかった「OSO18」。

駆除されたとき、顔に傷があったことから、4年間「OSO18」を追い続けてきた地元・標茶町のハンターは、「OSO18」よりも強くさらに危険なクマがいるのではないかと危惧しています。

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「違うクマと争ってけがをして、そのけががもとで弱ったんじゃないかと。裏を返すとまだまだOSO18以上のクマがいるということを認識しなければいけない」

「OSO18」を駆除したことで、釧路町役場には、「これで安心できる」「ありがとう」など激励、感謝の声が10件ほど寄せられたといいます。
一方で、「なぜ殺したのか」「共存できなかったのか?」「捕まえて森に放すほうが良かったのでは?」など、主に北海道外から苦情が数十件寄せられました。

現場を知るハンターは、「クマとの共存」に高いハードルを感じています。
「1回住んでみてください、現場見てくれと言いたい。われわれだって面白半分でクマを追っているわけじゃない。共存なんてできるわけない」

簡単には実現しない、人とクマの共存。
だからこそ、第2、第3の「OSO18」を生まないために、早急な対策が求められています。

しかし、ことしもクマが牛を襲う被害が起きてしまいました。

クマの被害は道東だけ、酪農家だけの問題ではありません。
北海道全体、全国で、地域にあった対策を実行することが必要です。

この連載と紐付くまとめサイト「クマここ」では、電気柵など、クマの出没・被害を防ぐための方法をご紹介しています。

たとえば札幌では、電気柵の無料貸出や購入補助の申し込み受付が始まっていて、電気柵についての講習会も予定されています。
【参考記事:クマを寄せ付けない!無料で試せる対策スタート 「自分も、地域の人も守るために」】

「OSO18」だけが特別ではなかった
その教訓を意識して、対策を急ぐべきときが来ています。

連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部IKU

※掲載の情報は取材時(2019年~2024年5月)の情報に基づきます。

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