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何でも話してきた大好きな母親に、もう何でも話さないと決めた

  • 2024.5.22
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母親にはなんでも話せた。
小学生の時からずっと、その日に学校であったことを母親に話していた。

大学1年の時、彼氏とセックスをしていたらコンドームが破れた話もした。家に帰って「妊娠したらどうしよう」と涙ながらに母親に話した。妊娠は奇跡に近いから大丈夫と母親が言ったとおり、3日後に生理がきた。

所属しているインカレサークルでは、彼氏とか彼女以外に「セックスフレンド」という関係の人たちがいた。「〇〇先輩のセフレを△△先輩が誘惑して襲っちゃって~」という、処女ではなかったものの純粋な私の脳内では考えられない噂を聞いたので、そのまま母親に話した。母親も「ドロドロだねえ。大学生って感じするわ」と感心しながら聞いていた。

母親は私の話を聞いているときいつも楽しそうだった。専業主婦の母親にとって、毎日はただの繰り返しで、私の話を聞くことで非日常を感じることができたのだろう。そんな母親を喜ばせたいという気持ちもあり、時には大げさに事を盛りながら話した。母親はニコニコしながら聞いていた。
母親は優しい。社会人になってもお弁当をつくってくれる。洗濯もしてくれる。携帯代も払ってくれる……。何不自由なく過ごしていた社会人5年目、ぽっきり私の心が折れてしまった。

◎ ◎

あの時期、仕事関連で大きな目標に挑戦することになり、プレッシャーを抱えていた。急にテンションが上がり、職場で笑い出したり、誰彼かまわず話しかけたりした。

「自分は無敵だ」「何でも出来る」という気持ちになり、気持ちが良かった。睡眠もできなかったが、「寝なくても私なら大丈夫!」と本気で思っていた。

「桃乃さん、大丈夫じゃないよね?」

管理職に突然呼び出されて話しかけられた。その時、猛烈な怒りがこみ上げてきたのだが、管理職の話し方がうまかったのか、自然と落ち着いてきて「大丈夫じゃないです。自分じゃないみたいでずっと怖かったです」と答えることができた。

プレッシャーから、躁うつ状態という精神状態になってしまった、というのは後になって分かった話で、その日は管理職の勧めもあり早退して家に帰った。そして母親に最近異常にテンションが上がり辛かった話、「ゆっくり休んで」と管理職に言われた話をした。

「なんでゆっくりしているの?準備しなさい。頑張りなさい。あんたならできるでしょ」

母親は、クマでぼろぼろのやつれた顔の私を見て怒り気味に言った。「私の娘なんだからできるでしょ」とも言っていた。

信じられなかった。母親なら分かってくれると思った。母親にとって励ましのつもりだったのかもしれないが、今かけてほしいのはその言葉じゃない。もう充分頑張っているよ……。
悲しい気持ちで眠りにつこうとしたら、布団が敷かれていなかった。母親に布団を撤収されていたので、自分の部屋の座布団を並べて寝た。

◎ ◎

そこから、母親には内緒で何かをすることが増えた。
まず、内緒で心療内科に行った。もらった薬を隠れて飲んで、薬のごみは職場で捨てた。
管理職や同僚に話を聞いてもらった。「お母さん、毒親じゃない?」と同僚に言われた。そんな話を母親に言えなかった。
1人暮らししたいなぁ。とぼんやり思うようになり、母親にそのことを伝えたら猛反対された。離れて暮らす父親に説得を頼み、どうにか1人暮らしすることになった。
何でも母親にやってもらっていたので不安もあったが、料理や洗濯は失敗を繰り返しながら、徐々に上達していった。掃除スキルだけ身につかないが、どうにか生活はできている状態が2年半ほど続いている。

毒親だとは思わない。思いたくない。大好きな母親だ。

「結婚しても仕事続けたかったなぁ」

昔、母がぽつりと言ったことがある。本当は仕事を辞めたくなかったけど、時代的に続けるのが難しかったのだろう。
私に自分を重ねて、一緒に大学に通ったり、仕事をしていた気分になっていたのだろう。

だから、母は「自分だったらもっと頑張れるのに」という気持ちでプレッシャーで押しつぶされている私に「頑張りなさい」と言ったのだと思う。
仕方ないね。母親に怒りはない。

でも、もう何でも話さない。たまに電話で話すときは、当たり障りのない、母親が喜んで私も傷つかない話を、母親にする。母親は寂しがっている。「また一緒に住まない?」と何度聞かれたことか。その度に私は首を横に振る。
私は私で、母親とは別の人間だから。私と母は、顔も、体型も、心の感じ方も、違うから。私が決めた私の道を、しっかり歩いていく。

■桃乃はなのプロフィール
書くことと、ミニスカート大好き人間。 老後は、ミニスカートの似合うおばあちゃんになりたい。 それまでに、自分が書いた本を出せたらいいなという野望がある。 私よ、大志を抱け。

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