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明墨にとっての“真の敵”とは? 「江越」とはいったい何者なのか? 日曜劇場『アンチヒーロー』第6話徹底考察&解説レビュー

  • 2024.5.22
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『アンチヒーロー』第6話より ©TBS
アンチヒーロー第6話より ©TBS

明墨正樹(長谷川博己)の元に、かつて、殺人事件の容疑者でありながら、無罪判決を勝ち取った緋山啓太(岩田剛典)が訪れ、「例の物は手に入りましたか?」「では、そろそろ始めましょうか」と明墨が告げる衝撃的シーンで幕を閉じた第5話。

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明墨と緋山の“密会”の現場を赤峰柊斗(北村匠海)は偶然、目撃してしまう。

その“例の物”とは何なのか。緋山を利用して、明墨は何を始めようとしているのか。そして、明らかに検事正の伊達原泰輔(野村萬斎)が裏から手を回したと思われる、紫ノ宮飛鳥(堀田真由)の父にして、千葉県警の刑事課長だった倉田功(藤木直人)の不自然なまでに早過ぎる逮捕劇…。紫ノ宮は父の弁護を志願するが、父は罪を被る決意を娘に語る。

すべては、12年前の糸井一家殺害事件、そして、無実を訴えながらも、検事時代の明墨から死刑判決を受け、静かに執行の日を待つ志水裕策(緒形直人)に繋がっているのか…。あらゆる登場人物が謎や闇を抱え、混沌となっていく。

緋山が明墨を訪れる現場は、伊達原の命を受けた検事の菊池(山下幸輝)に目撃されており、伊達原に電話で報告する。伊達原は、「やっぱりねぇ~あの事件につながっているんだねぇ~ふーん」と不気味につぶやく。

さらにそれを知った赤峰と紫ノ宮は「もしかしたら、先生が緋山を無罪にしたのにも理由が…?」と疑心暗鬼に陥る。紫ノ宮は自らが明墨に利用されていることを悟っており、赤峰でさえも、自分も利用されているのではないかと感じるようになる。

「明墨法律事務所」の所属弁護士は、もともと一枚岩とはいえない間柄だったものの、その関係性に、わずかながら綻びが生じ始める。

『アンチヒーロー』第6話より ©TBS
アンチヒーロー第6話より ©TBS

明墨の素性について、赤峰が「(緋山と会ったことを)知ってしまった以上、僕は引き下がれない」と覚悟を決める。紫ノ宮も、「父が何を隠しているのか知りたい」と倉田の逮捕と糸井一家殺害事件との関連を探り始める。

一方、明墨にとっては、そんな些末なことはどこ吹く風で、自らの信念に従う。

そんな明墨が今回、引き受けた案件は、政治家のスキャンダルを追う「週刊大洋」の女性副編集長・沢原麻希(珠城りょう)の個人情報流出事件の弁護だ。沢原は元上司で、沢原の出世によって部下となってしまった上田其一(河内大和)という男の犯行を疑う。沢原の失脚によって、上田は副編集長の座に就いていた。

上田は、法務副大臣を務める政界の大物・加崎達也(相島一之)とズブズブの関係にあり、上田の副編集長就任後、加崎にとって都合のいい記事ばかりが誌面に掲載されていたのだ。

明墨は「証拠がすべて物語っている。まるで逮捕してといわんばかりに」「彼女は無罪を主張している。誰かに陥れられたと」と語り、“国策逮捕”という読みを立てる。ついに明墨は政界をも敵に回す腹積もりだ。

もちろんそこには、怨敵の伊達原の影が見え隠れし、「明墨はしぶといですよ。しっぽをつかまれないようお気をつけを」と周囲に注意を喚起をするが、明墨は「これで奴らのつながりがはっきりした」「あいつの闇をあぶり出す」と、巨悪に対し、敢然と闘う姿勢を見せる。

一方、政治家の息子の富田正一郎(田島亮)が起こした傷害事件において、証人買収の犠牲となり“身代わり”として有罪判決を受けたコンビニ店員・松永理人(細田善彦)の再審も動き出す。二の足を踏む松永に対し、赤峰は「必ず新証拠を見つけ出す」と宣言する。

『アンチヒーロー』第6話より ©TBS
アンチヒーロー第6話より ©TBS

裁判を前に明墨は、紗耶(近藤華)が育った児童養護施設でボランティア活動をする裁判官の瀬古成美(神野三鈴)と接触していた。そしてその瀬古が、沢原の事件を担当することになる。

公判で証言台に立った上田は、GPS発信器を取り付けられていたことを語り、それは赤峰の仕業であると主張する。そして裁判長の瀬古は、このような手法で入手した証拠を全て却下する。それを知った伊達原は高笑いだ。

紫ノ宮は司法修習生の同期で検察官の森尾(沢村玲)との会話で、伊達原が糸井一家殺害事件に裏で関わっていたことを知る。その実績が買われ、伊達原は異例の出世を果たしていたのだ。また、紗耶についても調べていた紫ノ宮は、紗耶は志水の娘なのではないかという仮説を立てる。

赤峰と紫ノ宮は、これまでの裁判を整理し、明墨にとっての“真の敵”を探る。その人物こそ、最高裁判事の座を狙う瀬古であり、あろうことか瀬古と伊達原は裏で繋がっていたのだ。狙い通りに事が進み、2人は祝杯を上げるが、伊達原の闇を暴くことを最終目的とする明墨は、その前に瀬古を倒すことを心に誓うのだった。

日本の司法における裁判官と検察官の密接過ぎる関係性は、現実の世界でも度々、問題とされるが、無実の人間に死刑判決を下し、それぞれが自分の出世のために利用し合う、司法界の醜悪さを描いたリアリティー溢れるシーンといえる。

『アンチヒーロー』第6話より ©TBS
アンチヒーロー第6話より ©TBS

本作を通じて明墨は、自らの目的を実現するためには手段を選ばず、町工場の社長・羽木朝雄(山本浩司)殺害事件では、検察の証拠捏造を鋭く指摘し、緋山の無罪に繋げ、富田による傷害事件では、逆に父親の衆議院議員・富田誠司(山崎銀之丞)の証言買収を、検察に明らかにするように仕向け、敗訴を受け入れつつ、権力者に鉄槌を下すことに成功した。

明墨の敵は常に巨悪だ。逆に、依頼人や社会的弱者に対しては、とことん寄り添う弁護士でもある。第2話で証言台に立ち、難聴であることを明かされ、緋山の無罪判決に一役買った尾形仁史(一ノ瀬ワタル)に対し、別れ際、怒り狂う尾形をたしなめながらも、尾形の難病には同情し、それまで彼をクビにしてきた会社を訴え、概算で1000万円にも上る賠償金を取るために裁判に訴えることを勧め、その弁護を買って出る言葉を残す。しかも「無償」でだ。こんなところに明墨正樹の人間臭さを伺うことができる。

この巨大すぎる悪に対抗すると誓った明墨だが、どういう手法で闘いを挑んでいくのか。さらに明墨と緋山との会話でよく出てくる「江越」とはいったい何者なのか…。いよいよクライマックスに向かって、物語は予測不能の展開を見せている。

(文・寺島武志)

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