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毎日頑張っている人は共感必至! まるで異世界の着ぐるみスナックが、日々の悩みやコンプレックスを抱えた大人たちの心を癒す

  • 2024.5.21
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ダ・ヴィンチWeb
『くるまれてクリスチナ』(玖保キリコ/自由国民社)

『シニカル・ヒステリー・アワー』(白泉社)や『いまどきのこども』(小学館)など、ポップかつシニカルな視点で描く人間ドラマが魅力の漫画家・玖保キリコ氏。特に『いまどきのこども』は、大人も子どもも笑える物語に加えてキャラクターグッズも人気で、1980~90年代に小学生だった世代にとっては、絵を見るだけで童心に返れるほど馴染み深い作品だろう。そんな、『いまどきのこども』で育ち、今は大人の世界で日々頑張る人たちの心に刺さるのが、本作『くるまれてクリスチナ』(自由国民社)だ。

資生堂「花椿」のウェブサイトの連載をまとめた1冊で、自分に自信がなく、ささいなことで悩んでしまう会社員の宇佐美美恵子が主人公。彼女はある日、豪快だが心は乙女のママが切り盛りするスナック「クリスチナ」に迷い込む。そこは「店内では着ぐるみを着る」「ここだけの“クリスチナ名”で呼び合う」などの独特のルールを持つ「異世界スナック」だった。

ウサギの着ぐるみを選び、とっさに「うさみみ」と名乗った美恵子だったが、思いがけず心地よい時間を過ごす。

スナックに通い始めたうさみみ。店に集まるのは、いつも明るく場を盛り上げる「シャチョー」、ゴージャズなメイクと堂々とした振る舞いの「アレキサンドラ」、鶏のくちばしで顔を隠す「ル・コック」などのユニークな常連たちだ。彼らも、うさみみと同じように、仕事や私生活で悩みを抱えている。着ぐるみを着ることでいつもと違う自分になったり、コンプレックスを隠したりしながら、クリスチナで傷付いた心を癒していた。何かと敵やトラブルが多い日常とは一線を画す非日常的な着ぐるみ姿の空間で彼らと言葉を交わすうちに、うさみみは少しずつ、自分らしさを見出していく。

気弱な性格や自己肯定感の低さ、細かいことにこだわってしまう癖など、うさみみの性質は社会生活を破綻させるほどではないものの、確実に本人の心を削っている。そのままでもなんとか生きられるけれども、抜け出せない密かな苦しみに、共感する大人は多いのではないだろうか。クリスチナで過ごす時間は、そんな問題を抜本的に解決してくれるわけではないが、それぞれ悩みながら生きる仲間たちの言葉が、わずかな一歩を踏み出す勇気をくれる。かわいい着ぐるみたちのゆるい会話に笑いながらも、悩める大人たちの決断の数々に、ホロリとしてしまう。

わがままで周辺の店を出禁になった御曹司の「デ・キング」や、うさみみに何かとつっかかってくる美人の同僚「エルタ」など、クセのある人物たちにもそれぞれのドラマがあって面白い。シニカルだが人間への深い愛に満ちた作風の著者らしく、本作は、悩みながら頑張って生きているすべての人への優しさに溢れている。自分にもクリスチナのような居場所があったらなあと夢想しつつ、うさみみと一緒に、自分も少しだけ変わってみようと思わせてくれる作品だ。

文=川辺美希

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