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失恋がきっかけで、OLから外資系CAに転職した23歳女。ドバイに移住し待ち受けていたのは…

  • 2024.5.21

麻布には麻布台ヒルズ。銀座には、GINZA SIX。表参道には、東急プラザ表参道「オモカド」…。

東京を彩る様々な街は、それぞれその街を象徴する場所がある。

洗練されたビルや流行の店、心癒やされる憩いの場から生み出される、街の魅力。

これは、そんな街に集う大人の男女のストーリー。

▶前回:38歳バツイチの外銀男。年収4000万円でも15歳年下女に突然フラレた理由

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Vol.14 『カラフルな世界/東急プラザ表参道「オモカド」』アカリ(23歳)


「この季節って、本当に気持ちいいな〜」

街路樹の緑あふれる表参道。

東急プラザ6階にあるカフェのテラス席に着いたアカリは、屋上庭園から吹き込む初夏の風を全身で受け止める。

この春に夢だったCAとしての一歩をドバイで踏み出して、2ヶ月。生活はようやく軌道に乗りつつある。

けれど、アカリの新たな拠点となったドバイは、年中真夏のような気候だ。こうしてたまに帰国して四季の鮮やかさに触れると、やはり日本に生まれた喜びを実感するのだった。

― ドバイの都市開発を日々目の当たりにしているけれど…。日本を離れた今、慣れ親しんだ東京の街が変わりゆく様子も、この目で見ておきたいのよね。

今日ここに来たのも、表参道が進化していると聞いたからだ。

今年4月。原宿・表参道エリアの開発により、「ハラカド」誕生と共に、東急プラザ表参道が「オモカド」として生まれ変わった。

日本フライトのタイミングで一日休暇をもらったアカリは、オモカドでブランチを楽しむためにいとこの美香と待ち合わせをしているのだった。

― 美香ちゃん、恋人の麻人さんを紹介してくれるって言ってたな。一体どんな人なんだろう。

時間がきたので待ち合わせの『bills』に向かう。

『bills』は東京に4店舗あるが、こちらの店舗からは庭園の緑と表参道の街が見下ろせるという。

めずらしいブレックファストのコースを予約したうえで、アカリはこの日を楽しみにしていたのだ。

しかし、期待を胸に階段を上がると、そこに美香の姿は見当たらない。入店待ちと思しき男性が、ひとり立っているだけだ。

― 美香ちゃん、まだ来てないのかな。

そう思ってスマホに手をかけた時、入り口の前に立っていた男性が、おそるおそるといった様子でアカリに会釈をしてきた。

「こんにちは。アカリちゃん…ですか?」

「は、はい…もしかして美香ちゃんの」

「初めまして、麻人です。びっくりさせてごめんね、美香から先に行っててと頼まれて」

手にしたスマホを見ると、美香からのLINEが来ている。

『アカリちゃん、ごめん!!マンションの水道管の故障で、部屋が水浸しになっちゃって…。業者さんを呼んだらすぐに家を出るから、麻人と先に合流してて』

「美香ちゃん、朝から大変だ…」

事態を把握したアカリに、麻人は同調するように眉尻を下げる。

「美香、かなり慌てていて。俺もとりあえず待ち合わせに向かわなきゃって…。ひとまず、中に入ろうか」

「はい…」

言われるままに麻人と入店したアカリだが、どこか落ち着かない。

― 美香ちゃんの彼とはいえ、初対面の男性とふたりきりなんて気まずいよ…。何を話せばいいの?

アカリの目は泳ぎ、身体がこわばっていく。

この数ヶ月は、CAの研修で女性に囲まれていたため平穏な生活を送っていたが、アカリは男性に対してトラウマがあるのだ。

昨年、半年ほど付き合っていた孝一との苦い思い出が、吐き気のように込み上げてくる。信頼していた彼に婚約者がいたと知った時の、あの苦しみ。

孝一が狡猾だったのか、アカリの経験が浅かったのかはわからない。けれどとにかくアカリは、婚約者の存在に一切気づかずに、孝一と関係を深めてしまった。

彼の裏切りを知って以来、男性が何を考えているのかわからず、無条件で怖いと感じてしまう。

― 孝一さんと麻人さんは、全くの別人。そんなことわかってるのに…。

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「アカリちゃん、大丈夫?」

様子がおかしいことを悟った麻人に、アカリは声をかけられる。

「あ、いえ。ごめんなさい…元気です。ちょっと緊張してしまって」

「でも、顔色が…」

「あの…私、男性とふたりきりになると落ち着かなくて。実は…」

初対面の人に話すことではない、と思う。

しかし、ほかに話題も見当たらない。

覚悟を決めたアカリは、麻人にドバイに渡るまでに経験した出来事について説明し、今はそれゆえに男性不信気味なのだと告白した。

「そっか…。それは辛かったね」

時折うなずきながらアカリの話を聞いていた麻人は、アカリが徐々に落ち着いてきたのを確認してから、ゆっくりと口を開いた。

「実は、俺の身近にもあったよ。不倫未遂のような話」

「え…?不倫の話って、そんなに身近にあるものなんですか?」

「俺は直接巻き込まれたわけではないから、アカリちゃんの気持ちは計り知れないけど…。信頼している人が不倫に手を染めようとしていたのを知って。裏切られたというか、すごくがっかりした」

「ああ、わかります。がっかり…ですよね。こんな人に関わっていたという、自分にも失望しました」

「アカリちゃんは、自分を責める必要はないよ」

アカリは、ぎゅっと目を閉じて言葉を振り絞る。

「でも…もう私、男性が怖いんです。それに、そんな男女が蔓延する東京の街も」

話をしている間じゅう、アカリが緊張しないようにとさりげなく目線を外していた麻人が、初めてアカリの目を見据える。

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そして、あくまでも優しいトーンで、しかしはっきりと告げた。

「アカリちゃん。酷なようだけど…それは東京だけじゃない。地方の街でも海外でも、男女が存在し結婚制度がある以上、不倫や裏切りはどこにでも存在する」

「…」

突きつけられた現実に、アカリは言葉を失う。

大人になるとは、こういうことなのだろうか?

男女の様々な関係を許容できない自分が、子どもじみているのだろうか?

でも…。

― 麻人さんは、美香ちゃんのことは裏切らないよね?

確認したいが、怖くて言葉にできない。

その時、聞き慣れた明るい声が沈黙を破った。

「アカリちゃん、麻人!ごめんね〜!お待たせしました。早く合流したくて走ってきちゃった。さあ食べよ!」

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明るくなった場の空気に、アカリはホッとする。

美香が合流してメニュー選びを始めたために、喉まで出かかっていた麻人への質問は、飲み込んだままになってしまった。

「ところで、なんの話してたの?アカリちゃんのドバイの話聞いた?」

無邪気に笑う美香に笑顔を返すと、麻人はアカリに正面を向けて座り直す。

麻人と向き合う形になったアカリは思わず目を伏せてしまうものの、そんなアカリを尊重する様子で、麻人はゆっくりと話し始めた。

「うん。料理が来るまで、ちょっとだけ話の続きね。ここからは俺の持論だけど…」

不倫や浮気をする人は、自分を変えることができない。

成長することを諦めてしまったからこそ、外に刺激を求めて、あやまちを繰り返すのではないか──。

「あくまで俺の考えだけどね」と前提を置いた上で、麻人は不貞行為を働く男女についての持論をのべた。

肯定とも否定とも違う、麻人の淡々とした物言い…。その言い方にアカリは、不思議と励まされる。

孝一のような人を、「別の生き方をしている哀れむべき人なんだ」と、割り切れるような気がしたのだ。

「変化して成長を続けていれば、見える景色も変わる。毎日が刺激的なはずだよ。

ふたりでいることで、お互いが成長して変化していける。それを一緒に楽しみたいと思えるパートナーと、アカリちゃんも出会えるといいね」

アカリが顔を上げて麻人を見ると、麻人は穏やかな笑顔を浮かべている。

「あの、いったい何の話…?」

美香は。初対面のはずのふたりが思いがけず深い話をしている様子に、戸惑っているようだ。

目を白黒させながら、麻人とアカリを交互に見ていた。

麻人は「この話は終わり」とアカリに目配せで合図をすると、美香に向きなおり、声のトーンを上げた。

「と言うわけで、美香。これを機会に一緒に住もうか」

「え、ええ…!?これを機にって?」

「美香の部屋、いま水浸しなんでしょ。まずはうちにおいでよ。それからゆっくり素敵な部屋を探そう」

「そんな、急に…」

「急じゃないよ。毎日美香のそばにいたいし、互いに変化や成長を楽しみながら、新しい景色を一緒に見たい。俺はずっとそう思ってた」

探り合うように視線を交差させながら、華やかに顔を綻ばせるふたり。気持ちは同じ方向を向いているようだ。

― 変化と成長。…変わりゆく景色を、一緒に楽しみたい、と思える人かぁ。

先ほどまで気にしていた、「麻人が美香を裏切らないか」などという心配は、とうに消えた。

アカリはふたりの将来を祝福すると共に、今日ここにきて麻人の話を聞けてよかった、と思う。

― 今日みたいに、思わぬ出会いがあって、新たな価値観に触れて…。成長しながら、トラウマを克服できたらいいなぁ。

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食事を終えたあと麻人は先に帰宅し、アカリと美香は表参道に出た。

交差点には『オモカド』と『ハラカド』が向かい合い、アカリが見慣れていたはずの表参道の景観は大きく変わっている。

「知り尽くしたと思っていたけれど…。東京って、未知の魅力がどんどん出てくる街だねぇ」

「わかる!あの、アカリちゃん。さっきの話…詳しくは聞けなかったけど。私も、自分に変化を感じられなくて、パートナーもできなくて、悩んでた時期があったの」

「知ってるよ。美香ちゃん、ずっと彼氏いなかったじゃん」

「そうそう。それでね、東京から逃げたくなって」

「えっ…」

― 私と一緒だ…。

そう、東京の街は底知れない。

良い意味でも悪い意味でもエネルギーが渦巻いていて、時に疲れてしまうのだ。

「でも、麻人に出会って、視点が変わって。東京にだっていろいろな街があるし、出会う人にもそれぞれの価値観があるよね。

それを受け入れて、自分が変わっていくことも楽しめるようになって、世界がカラフルになった」

「そっか…」

「アカリちゃんも、ドバイで楽しんで。東京から応援してる」

美香のエールを受けて、アカリは心からワクワクした。

― ようやく、あの日に刺さった心の棘を抜くことができた。

小さく畳んでしまっていた地図を、大きく広げよう。そして、前に進もう。

これからの自分の成長と、共に見えてくるであろう新たな景色を見よう──。

自分も街も、どんどん変わっていく。

変化を怖がらずに、受け入れて楽しむ。

そうすれば、私たちはそれぞれの街で…きっと、カラフルな景色を楽しめる。

「ありがとう。じゃあ…また東京でね!」

明日への期待を胸に、アカリは変わりゆく東京の街をあとにした。


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