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「いい人」でいることが心身の健康に与える影響

  • 2024.5.19
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人と対立するのを避けたくて、ついつい相手の要求を飲み込んでしまう? 自分の気持ちを押し殺してしまう人は女性に多く、健康面での問題を抱えやすいのだとか。イギリス版ウィメンズヘルスから詳しく見ていこう。

ハンガリー系カナダ人のガボール・マテ医師は、複雑な心の病に関する書籍を多数発表してきたベストセラー作家。緩和ケアセンターおよび依存症やメンタルヘルス疾患の治療を行うアウトリーチセンターで、人生のどん底にいる人々-自分の置かれた残酷な状況によってボロボロになり、その痛みを和らげるために取った手段によって一段とボロボロになった人々と向き合ってきた。でも、最新の自著『The Myth Of Normal: Trauma, Illness And Healing In A Toxic Culture』が焦点を当てているのは、ヘロインやフェンタニルに依存している痛ましい人ではなく、俗に言う“いい人”である。

俗に言う“いい人”とは、相手の要求を飲むことで対立を避けようとする平和主義者。その場の状況に自分を合わせるカメレオンみたいな人。世渡り上手ではあるけれど、人のために頑張りすぎて疲れてしまう人。こういう人は女性に多く、他人の感情的なニーズを気にかけすぎて自分の感情的なニーズを無視してしまう。そのため健康面で今後の見通しが暗く、多発性硬化症や認知症といった慢性的な問題を非常に抱えやすい。

感情を押し殺しすことの弊害

マテ医師は、複雑な感情の抑圧と抑制(前者は無意識のうちに起こることで後者は意識的に行うこと)は複数の疾患に関連するという研究結果に言及した。このつながりの存在を裏付けた1993年の研究では、嫌悪感を抱かせる目的で作られた映像を見た参加者が2つのグループ(感情を表すことが許されるグループと許されないグループ)に分けられた。すると「感情を抑制したグループでは、ストレス反応の典型である交感神経系(闘争・逃走反応)が活発になりました」とマテ医師は言う。

もちろん、作り笑顔やニュートラルな表情が求められるときはあるけれど、「それを習慣や強迫観念でしているときは有害となる可能性が高いです」と指摘するマテ博士は、24名の不幸せな既婚女性を対象とし、2013年に発表された10年に及ぶ調査結果を引き合いに出す。この調査では、パートナーに自分の気持ちを話さなかった人が調査期間中に亡くなる確率が話した人の4倍も高かった。「ストレスや健全な怒りを出さずにいると、人間の生理学的な機能が甚大な被害を受けます」とマテ医師。

「健全な怒りは境界線を守るための防御機能です。『ここは私のスペースだから出て行って。あなたには立ち入らせない』と言っているわけですね」。免疫系も防御機能で「この2つの機能は切っても切り離せない関係にあるので、あなたが怒りを長期間抑制すると、免疫系も抑制されてしまいます」

免疫系と感情系の相互作用(情動的免疫学と呼ばれる分野)に関する世界屈指の専門家で、英ローハンプトン大学の免疫学教授および心理療法士のファルヴィオ・ダクイスト博士は次のように語る。

「記憶する能力を持つ身体組織は、脳と免疫系の2つだけです」とダクイスト博士。「私たちが意識下で経験する脅威の記憶は脳、それ以外の目に見えない脅威の記憶は免疫系に蓄えられます」。病気がなければ健康であるということにはならない。病気を引き起こす細菌はいつだって私たちの体内にいるけれど、それでも元気でいられるのは知らぬ間に作られている生理学的な機能のおかげ。人間の肌が生まれつき弱酸性なのも、感染症を引き起こす病原体から体内の組織を守る生理学的な機能の1つ。ダクイスト博士によると、これは“受動免疫”と呼ばれる仕組み。

皮肉なことに「あなたが普段からダラダラしていると、体もダラけて受動免疫が減少します」とダクイスト博士。「その仕組みを知っていると言う人は勝手にそう思い込んでいるだけで、私たちにはアスピリンが効く仕組みさえちゃんと分かっていないんですよ」。受動免疫が減ることの問題点は、その人の体が細菌から見て感染しやすい体になること。ダクイスト博士は、この状態を「親や友達に止められても危険な恋に走ってしまう人」に例える。

「そういう人は数年のうちに自己免疫疾患を発症するかもしれません。自己免疫疾患は、その人の思考の癖に合わせて免疫細胞が自分の機能を調節し、自分自身の細胞を攻撃してしまう病気です」とダクイスト博士。「これは『あなたがしていることをやめてください。私には言葉が使えないので、事実(体の不調)をもって説得にあたらせてもらいます』という体からのメッセージです」

思考と体のつながり

53歳のレイチェル・クレア・ファーンズワースは、何年も自称“いい人”を演じてきた。「私は感情的虐待になるような恋愛ばかりしてきて、紛争地帯で生きているような感覚に慣れていました。起きた瞬間から1日ずっと不安でも、私はもともとそういう人間なんだと思っていました」

2005年、甲状腺(心拍数や体温などを調節する超重要な首の腺)に呼吸を邪魔するほど大きなしこりが見つかった。そのしこりを切除してからは毎日のサプリメントで甲状腺ホルモンを補っている。市役所の職員から催眠療法士に転向したレイチェルによると、この甲状腺の問題や局所的な問題(頻発する扁桃炎など)を引き起こしたのは、間違いなく抑制された感情だった。この抑制された感情とは、出生自体がトラウマ的だった自分は生きているべきではないという思い込み。

「物心ついた頃から、私は人が自分より優れていると信じていたので、自分の力を人にあげてしまいました。そのままでは人に愛される資格がないと思っていたので、“いい子”でいる努力をしました」レイチェルは思考と体のつながりを信じており、催眠療法をはじめとする補完療法でトラウマを乗り越えることが身体的な問題の治癒につながると考えている。

病気の発現に思考と性格が深く関わるという理論には、とげとげしい側面がある。マテ医師は自著の中でこの問題を堂々と取り上げ、このような理論が暗に患者を非難する(病気を患者の思考や性格のせいにする)傾向にあることを指摘した米国の生命倫理学者マーシャ・エンジェル博士の言葉を引用している。「すでに病気で苦しんでいる患者が(病気という)結果に対する責任を負わされて二重苦を強いられるのは間違っている」

子宮内膜症やクローン病といった幅広い慢性疾患の患者を持つ健康心理学者のスラ・ウィントガッセン博士も、エンジェル博士の意見を支持する。精神的なストレスが人間の生理学的な機能に与える影響を否定するつもりはない。実際に、母親が感じている精神的なストレスは胎児の脳と腸内細菌叢の発達に影響する。でも、ウィントガッセン博士には、問題の原因が100%患者の思考や性格にあるという決定論的な考え方が理解できない。

「社会は、女性が抱える問題の責任を女性に押し付けたがります」と話すウィントガッセン博士によると、体調不良の原因は幅広く、遺伝の可能性もあれば、幼少期の経験や現在の生活の可能性もある。また、自分の性格のせいにすると、他の要素(睡眠や食生活)がないがしろにされるだけでなく、病気を克服することが一層不可能に思えてしまう。

「人の性格は固定されているわけでも、常に安定しているわけでも、一生変わらないわけでもありません」とウィントガッセン博士。「自分の性格のせいにすれば楽と思う人がいる一方で、その性格を理由に自分を責めるという悪循環に陥ってしまう人もいます」

八方美人とトラウマの関係性

マテ医師によると、女性が不健康なまでに自分の性格を責めてしまうのは、主に女性が課せられた「あらゆる衝撃を吸収して自己を抑制する」という社会的役割のせい。でも、女性は巨大な一枚岩みたいに強くない。むしろ、マテ医師が言うように、幼少期の大きなトラウマ(暴力、性的虐待、貧困等)や小さなトラウマ(話を聞いてもらえない/愛されていない/受け入れてもらえないと感じる、一緒にいると安心できて信頼のおける家族がいない等)がある女性は、自己非難の道に進む確率が高くなる。

男性は「か弱い」「女々しい」と思われることを恐れて自分の感情を隠す傾向にあるけれど、女性のように社会から「自分の怒りを抑え込め」と言われているわけではない。マテ医師いわく「本来、感情を見せるのは人間の対処メカニズム」。にもかかわらず感情を押し殺すことが習慣になると、いつもそうせずにはいられなくなることがある。でも「中毒者がドラッグを使った直後に感じる高揚感と同じで、偽りの強さで得た安心感は長続きしません。だから、もっともっと、何度も何度も欲しくなります」

米スタンフォード大学の精神医学・行動科学部臨床助教授ケイティ・フラカランザ博士は、慢性八方美人向けのオンラインコースを提供しており、そのコースの参加者にいくつかの身体的な併存症が見られると言う。

「現代人のほとんどは、極度の疲労がある状態か免疫が抑制された状態で生きています」と語るフラカランザ博士の顧客には女性が圧倒的に多い。トラウマという言葉を多用したいわけじゃないけれど、自分のニーズを犠牲にしてまで人のニーズを優先させる行動が成り立つ過程や、その行動を食い止める方法には興味があるそう。「八方美人は感情を回避するための行動です」とフラカランザ博士。「彼女たちは『いい人でいよう』とか『みんなを幸せにしよう』と思っているのではなく、自分の意見を言うことで人と対峙したときに湧くであろう感情が怖いから人のニーズを優先するのです」

でも、フラカランザ博士によると、この状態から脱したいなら、八方美人を“やさしさ”ではなく“感情を回避するための策”として見るようにすればいい。

何事もやってみないと分からない

フラカランザ博士の「八方美人の反射回路書き換えコース」はキャンセル待ちが発生するほど大人気。このコースは4つのフェーズで構成されており、①まずは自分に興味を持って(私はどうしてこういうことをするのだろう?)、②「NO」と言うことで生じる不安感に対処する方法を学び(リスクの少ない状況で小さな境界線を引くことから始める)、③自己主張のスキルを身に付け(効果的な「NO」の言い方をリサーチする)、④最後に自分を思いやることにフォーカスする。

「このコースの目標は拒絶を恐れず、思いのままに生きられるようになることです。心身の健康には、思いのままに生きることが絶対不可欠ですからね」。シンプルで分かりやすい目標だ。

「八方美人になることであなたには何の得がありますか? まったく意味のないことは誰もしません。だから、あなたも何らかの理由があって協力的かつ思いやりのある人間でいるはずです。あなたは何を失いたくないのでしょう? 八方美人になることで、あなたが何を補おうしているかも知りたいですね」

「万事は善でも悪でもなく、あるがままですだからこそ何かに対する反応ひとつで、自分を含む人の価値を判断するべきではないのです。むしろ大事なのは『これは私の正直な気持ちかな?』と自分の胸に聞くことです」

いい人でいることが自分の害になっている5つのサイン&八方美人の反射回路を書き換える方法

人のニーズを優先しすぎて自分の健康が損なわれているときは、フラカランザ博士のアドバイスに従って有害なマインドセットを変えていこう。

サイン:いつも人のニーズを優先してしまう。

対処法:人と関わったあとは特に自分の気持ちや反応をチェックして。エネルギーを使い切った感じがする? それとも逆に充電できた感じがする? 自分の感情に注意を向ければ、自分のニーズと人のニーズのバランスが取りやすくなる。

サイン:自分の社会的役割を完璧に果たそうとしている

対処法:あえて手を抜く練習を。完璧な母親/娘/従業員になろうとしても不可能だし、疲れるだけ。良しとする基準を100%から80%に下げて、できるだけ自分を思いやってあげよう。

サイン:人の意見で自分を価値を決めている

対処法:人が自分をどう思うかはコントロールできないし、万人に一年中好かれている人はいない。また、誰かに嫌われているような感じがするときは自分を売り込もうとせず、一旦引いてみるといい。

サイン:自然な怒りを押し殺している

対処法:自分の中に怒りという感情があることを認識して受け入れよう。そうすれば、健全な方法で自分のために立ち上がるためのエネルギーが湧いてくる。逆に、その怒りを無視すると自分が無力に思えてくるし、抑え切れなくなった怒りが何の役にも立たない形で表出することもある。

サイン:人をガッカリさせたくない

対処法:仮に人をガッカリさせても自分を許す練習を。最初のうちはスケールを小さくして、レストランを探してくれた友人に「他のレストランのほうがいい」と言ってみるくらいにしてみよう。2人の立場が逆転したら、あなたはどんな反応をすると思う?

まずは「気づく」ことが大事。未来の自分の健康を守るためにも、できることから始めてみよう。

※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Roisin Dervish-O'Kane Translation: Ai Igamoto

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