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息子ジギーや監督、主役が語る、ボブ・マーリーの映画

  • 2024.5.20
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ミュージシャンの伝記映画で、これほどまでに家族や当時の関係者が協力した作品はあっただろうか。それゆえ、『ボブ・マーリー:ONE LOVE』は、全編にわたって心の温もりを感じる作品になっている。

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フィガロジャポン(ボブ・マーリー役を熱演したキングズリー・ベン=アディル。)

ボブ・マーリーは「レゲエの神様」と呼ばれるミュージシャンであり、活動家である。彼はレゲエ・ミュージックを通して、愛、平和、連帯、平等の権利といったことの大切さを訴え続けてきた。そして、母国ジャマイカ内での政治的抗争を終結させるために、1978年4月22日に首都キングストンで行われた「ワン・ラブ・ピース・コンサート」で敵対するJLPとPNPの両党首をステージに上げ、ふたりを握手させて和解へと導き、音楽の力を実証した。

こう書くと政治色の強い映画のようだが、ボブのことやレゲエについて知らなくても、この映画を観ると心が広く、豊かになるはずだ。見どころをあえてふたつあげるとするなら、ひとつはロンドンで名盤『エクソダス』を完成させていく場面。このアルバムはアメリカのTIME誌で「20世紀最高の音楽アルバム」に選出されたほどの大傑作で、信念を貫いて音楽を創っていく姿勢やそのクリエイティビティには大いに刺激を受けるし、ボブが当時クラッシュのギグを観に行ったシーンも盛り込まれている。ふたつ目は、後述するけれど、妻リタとの関係の描かれ方に非常に惹きつけられた。さらには当時のボブ・マーリーのバンドメンバーのその息子たちが、映画では自分の父親役を演じていること、次男のスティーブン・マーリーが音楽のスーパーバイザーとなって、今回のために2曲録音し直したという意気込みにも感動した。ボブ・マーリーの曲は非常に多くのミュージシャンにカバーされているので、誰でもいちどは聞いたことがあると思う。そこもこの映画を親しみやすいものにしている。脚本と監督を担当したレイナルド・マーカス・グリーン、製作に参加したボブの長男のジギー・マーリー、ボブ役のキングズリー・ベン=アディルにインタビューした。

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(写真左から)キングズリー・ベン=アディル、ジギー・マーリー、レイナルド・マーカス・グリーン監督 Photo: Yuu Kamimaki

「母と姉が、母の強さ、女性の強さをしっかり描くよう指示してくれた」

――この映画は36年というボブの短い人生の中でも、ボブが1976年12月5日のフリーコンサート「スマイル・ジャマイカ・コンサート」の2日前のリハーサル中に襲撃された場面から、1978年4月22日の歴史的な「ワン・ラブ・ピース・コンサート」までという、ボブにとってもジャマイカにとっても非常に重要な時期を描いています。製作しているどの時点で、これは素晴らしい映画になるという確信を得ましたか?

グリーン:もちろん素晴らしい作品になるという確信がなければ、映画を作ろうとしないわけで、自分の中で確固たる確信を持って作り始めたよ。今回は特にボブ・マーリーの音楽を全面的に使えるということと、彼の家族が全面的にサポートしてくれるという土台が揃っていた。あとはキャスティングで決まるという時に、キングズリー・ベン=アディルという素晴らしいアーティストが見つかったので、これは絶対にいい映画になると最初から確信できたね。

マーリー:最初にキングズリーを見た時、これはいいものになるなと感じた。そこから撮影が進むごとに手応えを感じるようになり、編集を仕上げる段階になって、凄くいい作品になると確信した。とにかく俳優やキャストも素晴らしかったし、我々仲間の絆もあったから、最高の作品になるための全条件が揃ったと感じていたよ。

――そうですよね。私は既に2回拝見しました。なかでも妻のリタや夫婦の関係の描き方がとても丁寧で共感できるものでした。ボブの立場から感じたリサだけではなく、自分のことを蔑ろにされた時のリサの心情や真意など各場面で対等に描いていて、この点もこの映画を素晴らしいものにしていると思います。リタから実際にアドバイスはありましたか?

マーリー:僕の母リタを演じたラシャーナ・リンチが、実際にリタに会って彼女と触れ合い、話したことが役作りに反映されていると思う。同時に、姉のセデラも母と同様この映画の製作に携わっていて、僕も感じていた部分ではあるんだけど、ヒロインは単なる被害者とか、かわいそうな目に遭っているだけではなく、強いキャラクターとして描きたいというのがあった。脚本を書いていたのは男性ばかりなんだけど(笑)、そのなかで母の強さ、女性の強さをしっかり描くよう指示してくれたのが母と姉だった。ふたりは大きな存在だったよ。

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(写真右)妻のリタ役を好演したラシャーナ・リンチ。

ジャマイカの女性が男性と同じように活躍するのはグラニー・ナニーの系譜から

――リタは妻であり、歌手であり、ボブと同じ平和の戦士であり、自分の子どもたちに加えて、ボブと他の女性との間に生まれた子どもたちの世話もするという八面六臂な働きぶりをしてきました。当時の彼女のパワーの源は何だったと思いますか?

マーリー :信頼や信仰、愛があったからだよね。というのも、ふたりは何もないところから苦労を一緒に乗り越えてきたので、お互いを信じ合う絆も愛ものすごく深く、簡単に崩れることはなかった。普通に考えるような夫婦の関係を超越するような関係だと思う。父があのように成長できたのも、彼女が重要な存在だからだ。映画の中でもキングズリーとラシャーナに化学反応が生じて、尊敬し合うという僕の両親の関係性をしっかり捉えていたし、それがまた自然に出てきているのがとても良かったと思う。

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ジギー・マーリー。数多の音楽賞をはじめ、ジャック・ジョンソンやアラニス・モリセット他、ジャンルを超えたコラボ作品も注目される。また教育や医療など慈善活動にも積極的である。Photo: Yuu Kamimaki

 

――ジャマイカは日本と同じように家父長制があったそうですが、いまでは政治家、企業のトップ、教育者などで、女性が男性と同じくらい活躍していると聞きました。それは何故なのでしょう? 日本はまだ男女格差の大きい国なので、気になります。

マーリー:家父長制......。いまは、う〜ん、どうだろう。

――リタもそうですが、では、なぜそんなに女性が強いのですか?

マーリー:ジャマイカの女だからさ(笑)。ジャマイカには奴隷時代に人権に対して戦ったグラニー・ナニー(1686〜1733年)という女性のリーダーが存在していて、みんなの模範となり、そういう系譜になっていったんじゃないかな。ジャマイカには強い女性がすごく多いんだ(笑)。

 

「今回撮った素材で、監督は7本くらい映画を作ることができたと思う」

――そうなんですね(笑)。キングズリーは、歴史的な偉人マルコムXに続き、ボブ・マーリーを演じました。ボブを演じる時に、自分なりに表現したい部分など、意識した点があれば教えてください。

ベン=アディル:当時は自分の生死をかけて、この役に100パーセント没入するつもりでいた。いま思い返すと、「自分って誰だったんだろう」「何をやっていたんだろう」と思うし、みんなも「それおかしいんじゃない?」って、大笑いしていたけどね(笑)。僕がボブをリスペクトしているからこそ、とにかく捧げられるもの全てを捧げようと、撮影の1年前からその思いをどんどん上げていった。アーティストとしてできることって、それが唯一だと思うからね。

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ボブ・マーリー・アンド・ザ・ウェイラーズと女性コーラス隊アイ・スリーズの演奏シーンの再現も多い。

――映画の中で、どのシーンがいちばんチャレンジングでしたか?

ベン=アディル:わからないな。自慢するわけではないけど、本当に監督と編集のおかげで可能になったシーン、観客から見ていると偶然のように感じる素晴らしい瞬間がたくさんある。現場はいろんなことが起きているから狂乱状態だけど、そういうなかから監督たちの手によって素晴らしい一瞬一瞬が作られていった。今回撮った素材で監督は7本くらい映画を作ることができたと思う。だから完成版を見るまで、この瞬間がこの場面と繋がるとか思わずにそれぞれに集中していたから、全てがチャレンジングだったよ。

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キングズリー・ベン=アディルは『バービー』(23)にバスケットボール・ケン役で出演、『あの夜、マイアミで』(20)では公民権運動の指導者マルコムXを演じた。シェイクスピア作品など舞台での活躍も目覚しい。Photo: Yuu Kamimaki

 

「ボブは人種差別を気にしなかったし、差別する人でもなかった」

――ジャマイカという国の歴史は複雑で、さまざまな人種が混在していますが、アメリカのような肌の色による人種差別は今もあるのでしょうか? 映画の中で、ボブは自分の肌の色が白いことを気にしているように描かれていました。

マーリー:アメリカほど酷くはないけれど、ボブの場合はボブの父親(ジャマイカを統治する側の英国陸軍大尉)が混血を完全に受け入れたわけではなかったし、人々はボブの明るい肌の色を笑ったりした。でも酷い扱いではなかった。というのも、彼は強い人だったので、人種差別を気にすることなくのし上がったし、彼自身が人を差別するような人ではなかったからね。

グリーン:ジャマイカにおいても差別はある。それは人種というより、たとえば(ラスタの象徴であるヘアスタイルの)ドレッドロックを切って、昔の日本のさらし首のようにそれを道端に晒すなど、別の理由でラスタファリアンが酷い差別を受けていた。そういう部分を一瞬映画に入れようかなと思っていたんだけど、結果的にそれはやり過ぎなのではないかと思ってカットしたんだ。

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レイナルド・マーカス・グリーン。今回は他の3名と共に脚本も担当。ウィル・スミス主演の『ドリームプラン』(2021)の監督として名を馳せた。母はプエルトリコ人、父はアフリカ人だという。Photo: Yuu Kamimaki

――レゲエミュージシャンから見て、アメリカのストリート、そしてアフリカ系アメリカ人から発信されたヒップホップ・ミュージックをどう感じますか?メッセージ性という点からも、ヒップホップはブラック・ライヴズ・マター運動に欠かせないものになっています。

マーリー:どちらかというと、彼(グリーン)の方がヒップホップに詳しいんだ。

グリーン:抑圧された人間というのは、自分が抑圧された立場、苦しみや痛みから解放されるために、何らかの芸術という手段を通して、自分のメッセージや傷、感情を知ってもらいたいという思いがある。音楽や映画は世界的な共通言語といった形で、伝えるのにとてもわかりやすいやり方だと思う。そういう意味で、世界各地でいろいろな運動の一環として音楽のジャンルが生まれてくるんだと思う。これで答えになっているかな。

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ボブ・マーリーが乗り移ったかのようなパフォーマンスも話題。

――わかります。レゲエの場合、特にボブの曲はいろいろな形でカヴァーされ、愛され続けているので、世界中に浸透しているのかもしれないですね。今日はどうもありがとうございました。

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仲良しで、終始笑いの絶えなかった3人。30年ほど前にジャマイカのレゲエフェスでライヴを観たことのあるジギー・マーリーが、すっかりいい親父になっていたのが微笑ましかった。Photo: Yuu Kamimaki

『ボブ・マーリー:ONE LOVE』
●監督/レイナルド・マーカス・グリーン
●脚本/テレンス・ウィンター、フランク・E・フラワーズ、ザック・ベイリン、レイナルド・マーカス・グリーン
●製作総指揮/ブラッド・ピット
●製作/テデ・ガードナー、ジェレミー・クライナー、ロバート・テイテル、ジギー・マーリー、リタ・マーリー、セデラ・マーリー
●出演/キングズリー・ベン=アディル、ラシャーナ・リンチ、ジェームズ・ノートンほか
●2024年、アメリカ映画、107分
●PG-12
●配給/東和ピクチャーズ
© 2024 PARAMOUNT PICTURES

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