草を食べているのでしょうか。カメラのほうを振り返ったクマがいるのは、住宅から30メートルほどの場所です。
北海道南部の乙部町。3月にクマの目撃が相次ぎました。
春になり、道内各地で出没が続いています。
札幌市も例外ではありませんが、近年、対策にも力を入れてきました。
クマが住宅地に出ないようにする対策を、市民と協力しているのが特徴です。
そのひとつが、「草刈り」。
クマは背の高い草や、川沿いの茂みなど、体を隠せる場所を好んで移動するため、「草刈り」をして、クマの通り道を遮るのです。
見晴らしを良くすることで、クマと人がお互いを見つけやすくなり、ばったり出会って事故にあうリスクを減らせます。
札幌市は、2023年、町内会や学校などと協力して、7か所で草刈りをしました。
「常連」の地域が増えてきたようです。
そこには、今後の対策のヒントもあります。
2024年のクマ対策を考えるため、改めて振り返ります。
連載「クマさん、ここまでよ」
【この記事の内容】
・2023年に草刈りを実施した7か所を振り返る
・効果はあったのか?
・今後の対策のヒント## ①2023年5月28日:札幌・南区簾舞
・参加者:地域の町内会、札幌市
・場所:簾舞川沿い
毎年、クマの出没が多い簾舞地区。
2019年には、人慣れしたクマが毎日のように現れ、庭や家庭菜園の作物を荒らす被害もありました。
2019年、札幌・南区藤野/簾舞地区に現れたクマ
だからこそ、地域の人も、行動しています。
2020年に、5月と10月の2回にわたって、町内会が草刈りを実施。
それからも毎年5月に草刈りを継続しています。
②2023年6月19日:札幌・南区南沢
・参加者:地域の町内会、東海大学、NPO、札幌市
・場所:スワン公園の茂み
広大なみどりと接するスワン公園。
地域の町内会と、近くの東海大学、NPOが協力して、草刈りを行いました。
この場所ではおととしも草刈りをしています。
③2023年7月12日:札幌・南区藻南公園
・参加者:みなみの杜高等支援学校、札幌市
・場所:藻南公園の豊平川沿いの茂み
住宅地に挟まれた藻南公園。
真駒内にある「みなみの杜高等支援学校」は、地域とのかかわりを大切にしていて、2021年には南区藤野の野々沢川、真駒内南町の南町みどり公園の草刈りも行っています。
藻南公園では、おととしも草刈りをしました。
④2023年7月21日:東区・石狩川
・参加者:福移学園、札幌市
・場所:学園の近くの石狩川河川敷
札幌の義務教育学校福移学園は、学園近くの石狩川河川敷で草刈りをしました。
福移学園の前身にあたる福移中学校では、2021年から2年間は、北区篠路町の伏籠川沿いの茂みで草刈りをしています。
去年の草刈り実施地点
2021年6月、札幌市東区の住宅地にクマが現れ、4人がけがをした事故。
最初の通報は、午前2時すぎ、「黒っぽい動物がいる」というものでしたが、その場所が、この北区篠路町でした。
人身事故の20日ほど前に、茨戸川緑地で1件、クマの目撃があったことから、札幌市は、クマは石狩川~茨戸川~伏籠川と、川をつたって東区の住宅地へと迷い込んだと見ています。そのため、この場所で草刈りをしていました。
2023年は、札幌市が6月に、予算をかけて業者に発注し、丘珠周辺の川や水路沿いでおよそ5キロにわたって草刈りを行いました。
⑤2023年7月22日:札幌・南区真駒内幸町
・参加者:困ったくま(札幌藻岩高校発のクマ対策グループ)、ほか札幌藻岩高校の生徒や教員、札幌市など
・場所:真駒内川沿いの茂み
地下鉄南北線・真駒内駅からもほど近い場所で、近くには住宅地が広がっています。
川に沿って、南のほうからずっとつながってきた茂みは、真駒内公園へと続いています。
駅や学校、スーパーマーケットなども近く、川沿いでランニングや犬の散歩をする人も多いため、クマとばったり出会って事故にあうリスクを減らすためには、重要な地点です。
主催した「困ったくま」は、高校で「ヒグマとの共生」をテーマにした授業を受けたことをきっかけに、主体的にクマ対策に取り組んできたグループです。
2023年3月に高校を卒業しましたが、クマ対策へのかかわりを続けています。
おととしもこの場所で草刈りを主催しましたが、去年は藻岩高校の在校生を中心に、前年の倍近い約40人が参加しました。
⑥2023年8月6日:札幌・南区石山
・参加者:石山地区まちづくり協議会まちおこし部会、浦幌ヒグマ調査会(酪農学園大学の学生らが所属)、札幌市など
・場所:石山1条3丁目(豊平川沿い、石山大橋あたりの茂み)
草刈りの市民運動の先駆けと言える地域です。
2014年から毎年8月に草刈りをしていて、2023年で10年目の開催でした。
石山地区でクマの出没があったことを受けて、クマの生態にくわしい酪農学園大学の佐藤喜和教授や、札幌市が協力して始めた取り組みですが、地域住民が主体的に、楽しんで企画しているのが特徴です。
ビンゴ大会は誰かが当たるとみんなで拍手するあたたかい雰囲気
酪農学園大学の学生によるクマの生態のレクチャーや、ビンゴ大会まであり、地域で毎年恒例の行事となっています。
⑦2023年8月11日:札幌・南区藤野
・参加者:地域の町内会、猟友会、NPO、札幌市など
・場所:野々沢川沿い
2019年夏に連日クマが出没した南区藤野/簾舞地区。
そのクマが駆除された、2週間ほど後、札幌市は、ここ野々沢川で札幌藻岩高校と協力して草刈りをしました。
翌年2020年には市民ボランティアが、2021年にはみなみの杜高等支援学校が、2022年は町内会やボランティアなどが実施しました。
いろいろな人が関わりながら、対策を継続しています。
効果は?
地域ごとの事情に合わせて、いろいろな立場の人が関わって広がっている、草刈り。
ここで紹介した7か所は、札幌市が協力して行ったものですが、ほかにもアウトドアレストランなどで自ら企画して行っている場所もあります。
では、実際に効果はあったのか?
札幌市によると、この7か所では、それぞれ草刈りを実施した後、2023年秋までにこの場所を通ったクマの出没は確認されていないということです。
⑦の石山地区では、2014年の草刈り開始以来10年にわたって、クマがこの場所を利用した痕跡が確認されていません。
ただ、草刈りをすることで、たしかに効果はありますが、その一か所だけで、広い範囲での出没すべてを防げるわけではありません。放棄果樹やごみ、シカの死がいなど、クマを引き寄せるものを放置しないなどの対策も、合わせて行うことが重要です。
また、川沿いのすべてを刈ってしまえばいいということではなく、石山地区では生物多様性や景観にも配慮して、草を刈る場所を決めています。
ことしからも、継続と、拡大を
草は毎年伸びてきます。
これらの地域のように、毎年恒例で対策を続けていくのが大切です。
また、おととしも去年も、南区以外で行われた草刈りが1件のみでした。
たしかにクマの出没は南区で例年多いですが、ほかの区でも、年々目撃が相次いでいます。
クマとの共存は、いまや、南区だけが向き合うべきテーマではありません。
札幌市内で、じぶんの住む地域でも草刈りをしてみたい…と感じた方は、札幌市環境共生担当課(011−211−2879)に連絡してほしいということです。
いつ・どこを草刈りしたらいいか、地域の説明はどうしたらいいかや、場所の使用許可、道具の貸し出しについて相談を受け付けています。
連載「クマさん、ここまでよ」
暮らしを守る知恵のほか、かわいいクマグッズなど番外編も。連携するまとめサイト「クマここ」では、「クマに出会ったら?」「出会わないためには?」など、専門家監修の基本の知恵や、道内のクマのニュースなどをお伝えしています。
文:Sitakke編集部IKU
※掲載の内容は取材時(2023年9月20日)の情報に基づきます。