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GWの映画館は『名探偵コナン』のひとり勝ちだったのか。アニメ映画の観客を「他作品」に呼び込む重要性

  • 2024.5.11
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『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の興行収入が、120億円を超える超大ヒット記録を更新中。まさにGWで「ひとり勝ち」ともいえる状況ですが、それを踏まえた上での未来への期待を語ります。(※サムネイル画像出典:(C)2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会)
『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の興行収入が、120億円を超える超大ヒット記録を更新中。まさにGWで「ひとり勝ち」ともいえる状況ですが、それを踏まえた上での未来への期待を語ります。(※サムネイル画像出典:(C)2024 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会)

『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』が公開22日目の5月3日の時点で、興行収入105億円を突破したと発表されました。 シリーズアニメが2作連続で100億円を突破したのは邦画史上初とのこと。永岡智佳が女性で初めて日本で興行収入100億円を達成した監督となったことも話題になりました。

さらに、公開25日目の5月6日までの累計成績は興行収入120.99億円に。前作超えはもちろん、最終150億円超えもあり得る、ゴールデンウイーク(以下、GW)の文句なしの覇者となっています。

しかも、同じく青山剛昌の漫画が原作、『名探偵コナン』の世界観とキャラクターがクロスオーバーしている『YAIBA』のアニメ化が発表。こちらと合わせて、さらに国民的なコンテンツとしての人気を不動のものにするかもしれません。

まさに「コナン一強」、それでも『ハイキュー!!』が大記録を達成

2023年のGWは、最終の興行収入138.8億円の記録を打ち立てた『名探偵コナン 黒鉄の魚影(サブマリン)』に加えて、最終140.2億円の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』がぶつかりあったこともあり、映画館は日本史上最高の大盛況となりました。

対して、2024年のGWは『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の「ひとり勝ち」ともいえる状態。2位以下の映画を大きく引き離して、4週連続で1位を記録したのですから。

しかし、2月に公開された『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦』もこのGWに大記録を達成しました。4月30日までの75日間で興行収入は100億円を見事突破。さらに5月6日までの81日間の累計の興行収入は103.34億円となったのです。 『ハイキュー!!』の熱心なファンの母数がとてつもなく多く、さらには入場者特典が第6弾まで配布されていた(5月18日より第7弾も配布予定)ことも、たくさんのリピーターの獲得につながったのは間違いありません。100億円達成を記念してWeb公開された、屋外広告を再構成した動画も大好評を博しています。

100億円突破の連続で感覚がマヒしている?

さらに、『ハイキュー!!』と同じくスポーツを題材としたアニメ映画『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』は公開3週目で12億円を突破するヒットとなっています。 『ハイキュー!!』や『名探偵コナン』が何しろ100億円を突破しているので、12億円という数字も少なく思えるかもしれませんが、それはもう感覚のマヒといっていいかもしれません。

そもそも、日本の映画の興行収入の歴史上、100億円を超えた日本のアニメ映画は、その『ハイキュー!!』や『名探偵コナン』を含めて16本のみ。実写映画を含めると19本しかありません。

さらには、2020年のご存じ『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』における400億円超の大ヒット以降、2021年の『劇場版 呪術廻戦 0』、2022年の『ONE PIECE FILM RED』『THE FIRST SLAM DUNK』と、国民的な人気を誇る作品のアニメ映画の100億円超えの超大ヒットは、この4年ほどで勢いを増しています。

日本の映画が「興行収入10億円を突破すればヒット」と呼ばれていたこととはあまりにギャップのある、その数字の異次元ぶりに観客が慣れつつあることも、またとんでもないと思うのです。

多くの人が「信頼」を寄せている

『名探偵コナン』と『ハイキュー‼︎』がなぜここまでの大ヒットとなるのか。もちろん国民的な人気を獲得したコンテンツであることはもちろん、「見たいものを見せてくれる」という「信頼」も大きいと思います。

映画『名探偵コナン』は謎解きやアクションといった万人が楽しめる要素がそろっており、近年では個性豊かでかっこよくて愛され続ける多くのキャラクターたちをメインの物語上に配置させ、活躍させることが実にうまく、長年のファンはもちろん新規のファンも加速度的に増やしているのでしょう。その甲斐あって、「GWの風物詩」「一種のお祭り」にもなっていると思います。

『ハイキュー‼︎』で描かれるのは原作漫画における屈指の人気エピソード。テレビアニメ版の評価も高く、その放送終了から3年余りがたち、「やっと続きが見られる」からこそ、ファンが公開後すぐに駆けつけて超ロケットスタートを切ったこと、その後のリピーターを生んだことは間違いないですし、その圧倒的なファンの熱量や口コミでの称賛が、原作ファン以外にも「信頼できる作品であると証明」されたのでしょう。

やはり気になるのは格差?

そんなふうに『名探偵コナン』と『ハイキュー‼︎』の大ヒットが喜ばしいと思える2024年のGWですが、その上でやはり気になるのは、ほかの映画作品との「二極化」「格差」が広がっているように思えること。「映画館に居場所がないように思える」「アニメばかりで洋画離れが進んでいる」など、映画ファンから嘆きにも似た言葉が聞こえてきました。

これは、ある程度は致し方ないとは思います。わざわざ映画館まで足を運び、一般料金では2000円を払うことになる劇場鑑賞では、失敗をしたくないという心理が働いて、誰もが見る、「信頼」がおける映画にさらに人が殺到するのも、当然といえば当然でしょう。

また、『名探偵コナン』と『ハイキュー‼︎』が映画館にたくさんの人を呼び、映画館の経営および映画産業を支えていることも事実。

作品の圧倒的な人気による「まるで時刻表」な上映回数のために、他作品の上映規模や回数が制限されるのは、確かに映画ファンとして心苦しくありますが、それほどに人気作に観客が詰めかけている現状では、それもまた正しい判断だと思うのです。

コナンとコラボ中の『ゴジラxコング』にも期待

これから重要になってくるのは、「ほかの作品にも観客を呼ぶ」ことでしょう。『名探偵コナン』や『ハイキュー!!』を見にくる人に向けて、洋画や他作品を「こっちもいいよ!」とアピールをしてこそ、希望を持ちたいとも思うのです。

映画配給会社にも、その意識があることは間違いありません。例えば、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』と『ゴジラxコング 新たなる帝国』が「禁断の共闘」というつながりで、コラボ動画やポスターが作られていたりもします。
なお『ゴジラxコング』は、公開2週目の5月6日までに12億円を突破するヒットに。ただ、同作は全世界の興行収入が5週目で約850億円とゴジラ映画史上でも屈指の大ヒットをしているので、日本ではやや盛り上がり不足といえるかもしれません。

『ゴジラ -1.0』が劇場公開中&Amazonプライムビデオの配信中ということもありますし、今後の伸びを期待したいところです。

『あぶない刑事』との納得のコラボも

さらに注目なのが、『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』と、5月24日公開の『帰ってきた あぶない刑事(デカ)』がコラボしていること。前者は東宝、後者は東映と、配給会社の垣根も超えているのです。 筆者は実際に試写で『帰ってきた あぶない刑事』を見たのですが、なるほど両者は共通しているところが多くありました。どちらも「探偵もの」であり、日本を舞台にしながらも銃撃戦やアクションがあり、依頼人との関係性が物語をけん引しているのですから。さらには、他シリーズを知らなくても問題なく楽しめる作りになっていることも同じです。

思えば、日本の実写映画では大規模なアクションの撮影そのものが難しく、その楽しさや迫力をアニメを持って提示してくれる『名探偵コナン』の映画は貴重な存在ともいえます。その難しい中でも、現状で最もそちらに近いアクションやエンタメ性を、実写で提示してくれる『帰ってきた あぶない刑事』も、やはり多くの人に見てほしいのです。

日本の実写映画にも注目してほしい

その他の大ヒット作で目立つのは、やはり日本の実写ホラー映画『変な家』。3月に公開され春休みに多数の若者を動員した上に、上映回数が少なくなったGWに入っても高稼働が続き、8週目で興行収入は47億円を突破したのです。「大きなブームを作るのは若者である」ことの証明といえるでしょう。

個人的に注目して欲しいのは、その『変な家』以外にも優れた日本映画が公開されているということ。特に推したいのは『バジーノイズ』と『青春18×2 君へと続く道』。前者は「孤独」と「関わり」の両方を肯定し、後者はかけがえのない青春の日々を美しく描く、絶賛の声も納得の、若者にこそ推したい名作になっていました。
結論としては、『名探偵コナン』も『ハイキュー!!』も素晴らしい、でもほかの映画にももっと注目が集まってほしいと、映画ファンの1人として願ってやまない、ということです。

そのためには、「知らない作品の良さ」を知らしめるための、見た人それぞれの口コミが重要になってくるでしょう。『金曜ロードショー』で『名探偵コナン』やジブリ作品以外の映画が地上波放送するなど、より多くの映画が見られる機会も増えてほしいものです。

また、ミニシアターではやはり苦境は続いているのものの、『悪は存在しない』『あまろっく』『辰巳』といった、公開規模が大きくはない日本の実写映画にも観客が多く入っているという声も耳にします。

そして、人気作と、そうではない映画との「二極化」「格差」が広がっていることをネガティブに捉えすぎず、『名探偵コナン』や『ハイキュー!!』のために多くの人が映画館に訪れている、映画館に映画を見に行く人の絶対数が確実に増えていることは、ピンチではなくチャンスでもあると、前向きに考えたいのです。その上で、これからの映画業界が多様化し、さらに盛り上がることも祈っています。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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