1. トップ
  2. エンタメ
  3. 【渡辺三津子が語る】KバレエとTOMO KOIZUMIのコラボレーション。

【渡辺三津子が語る】KバレエとTOMO KOIZUMIのコラボレーション。

  • 2024.5.11

文/渡辺三津子(ファッションジャーナリスト)

今年3月24日、雨の赤坂の夜に華やかな"花"が咲き誇った。色とりどりの"花"たちはステージの上に可憐に現れ、ステップを踏み、跳躍し、集まって円を描いたり、単独でその美しさを存分に披露しながら、喜びを分かち合っていた。

熊川哲也率いる日本屈指のバレエカンパニー、Kバレエ トウキョウと世界的に注目されるドレスデザイナー、TOMO KOIZUMIがコラボレーションして生まれた作品が、TBS赤坂 BLITZ STUDIOで一夜限りの公演として披露された。日本最大級のファッション&クリエイティヴィティのイベント「東京クリエイティブ・サロン(TCS)」のクロージングナイトを飾ったのだ。

©Yoshitomo Okuda

今年で5回目を迎える「東京クリエイティブ・サロン」に初参加となるTBSが、赤坂の街から新しいクリエイションを発信するために、Kバレエ トウキョウ(TBSと2022年に資本業務提携)とファッションデザイナーとのコラボレーションを試みたい、という心踊る計画を聞いたとき、私のイメージには何人かの作品が瞬時に浮かんだ。それぞれの個性によって方向性はまったく違うものになり、いずれも素晴らしいコラボレーションになることは想像できたが、そのなかでも最も彩り豊かな楽しさが目に浮かぶようだったのがTOMO KOIZUMIのデザイナー、小泉智貴さんのクリエイションだった。

制作期間は年末年始などを勘案すると、3ヶ月弱。小泉さんが、バレエの衣裳製作だけでなく演出やビジュアルディレクションにも「初めての挑戦」ができるとして興味を抱き、積極的に向き合ったからこそ実現できたプロジェクトだったと想像する。もちろん、Kバレエ トウキョウにとっても「初めての挑戦」で、だからこそ極めてスペシャルで、どんなものが生まれるのか待ち遠しい思いが高まった。

年が明けると、ファッション界のカレンダーは、秋冬コレクションのショーがメンズ、ウィメンズと慌ただしくスタートし、私がパリコレクションから帰ると程なく東京のファッションウィークが始まった。TCSもそのオープニングを飾る特別イベントを企画しており、東京のファッションに近年にない熱気を感じるシーズンとなった。そして、3月最後の日曜日、TCSのフィナーレを飾る公演がお披露目となったのだ。

©Yoshitomo Okuda

この数ヶ月の間に、小泉さんはKバレエ トウキョウの堀内將平さんとともに初体験の衣裳創作とステージ演出を作り上げていたわけだが、その「苦労話」を聞く前に目の前に現れたバレエダンサーたちを見て、私は冒頭に述べたように、まるで花や妖精が舞うかのようなファンタジーの世界にいきなり引き込まれた。TOMO KOIZUMIのアイコンであるフリルのボリュームと鮮やかな色彩たちが、卓越した身体能力を持つバレエダンサーたちの、この上なく鮮やかで美しい動きと重なるとき、現実感が遠ざかり、どこか夢のような異世界に誘われてゆくのを感じた。

公演のテーマは「LA FETE(祝祭)」。「踊るドレス」が「喜び」そのものを表しているようだった。当日配布されたメッセージによれば、揺れるフリルが舞台演出の役割も果たし、なびくスカートや袖さえも振付の一部として取り入れられているという。まさに「共創」(TCSの今年のテーマ)の蕾が大輪の花びらを開いたようだった。

©Yoshitomo Okuda

実は公演の数日前、私は小泉さんと今回の作品についてのトークイベントを行い、デザイナーを目指したエピソードから、TOMO KOIZUMIの現在までの幅広い活動やファッション界での特別な存在感などについて話す機会があった(トークの内容はTBSの新しい取り組みを紹介するサイト TBS Innovation Landに掲載)。バレエ公演を観る前だったので、その点についてはアウトライン的なことしかお聞きできなかったのだが、小泉さんはバレエとの初コラボの難しさと成果をこう語っていた。「デザインしたものを実際に着てもらったら全然良くなくて、作り直すという作業の繰り返しでした。既存のバレエ衣裳を越えるという観点ではなく、自分の美学とバレエの美学や身体性のバランスをとりながら、ベストなものを作れたかなと思います」

このコラボレーションの興味深い製作の舞台裏はずっとカメラで追われていて、5月11日、12日に「Kバレエ×小泉智貴 ~密着90日!色彩が躍る舞台への挑戦」と題して、BS-TBSで放送されることになっている。映像では、Kバレエ トウキョウ最高位ダンサー・プリンシパル、堀内將平さんとの、才能に溢れた者同士が悩みながらも真剣に向き合う、貴重な"クリエイションの裏側"を見ることができるという。違うジャンル、初めて出会う世界観がぶつかり合うその火花が、華やかな花火となって打ち上がったことは、あの夜、公演を見た人々の熱気と喜びに溢れた拍手が証明していた。小泉さんと堀内さんの、クリエイターとしての感性にきっと大きな影響を残したことであろうと感じる。

©Yoshitomo Okuda

TOMO KOIZUMIは既存のファッションシステムにあえてはまらずに、独自の方法でファッションの可能性を押し広げてゆくデザイナーである。彼の後ろ姿を追って、未来を枠に嵌めずに夢見る次世代のデザイナーたちがぜひ現れてほしいと感じる。トークイベントでも語っていた「続けることが何より大切」という小泉さんの言葉が、いちばんのお守りになるのではないかと思う。

「Kバレエ×小泉智貴 ~密着90日!色彩が躍る舞台への挑戦」5月11日(土)・5月12日(日)2日連続、17時30分〜18時にBS-TBSにて放送。https://bs.tbs.co.jp/entertainment/kballetstage/

渡辺三津子ファッションジャーナリスト大学卒業後、資生堂『花椿』で編集のキャリアをスタートし、、『フィガロ ジャポン』『エル ジャポン』を経て2000年に『VOGUE NIPPON』(のちに『VOGUE JAPAN』に改称)へ。2008年より2021年まで同誌編集長を務める。ウエブサイトやデジタルコンテンツ強化も推進。現在はコンサルティングをはじめ、ファッションジャーナリストやエディターとして活動。X:@mitsuko_wtnb IG:@mitsuko_wtnb

元記事で読む
の記事をもっとみる