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アイドルを卒業した高山一実さん、デビュー小説「トラペジウム」がアニメ映画化。夢を抱き、叶って、手放した今

  • 2024.5.9

乃木坂46の1期生・高山一実さんのデビュー小説をアニメーション映画化した『トラペジウム』が、5月10日(金)より公開されます。原作は、自分の力で仲間を集め、アイドルを目指す高校生を主人公にした共感性の高い物語や、現役トップアイドルが描くリアルな描写が話題を呼び、累計30万部を売り上げました。映画化にあたっては、高山さんもシナリオなど映画制作に深く関わったといいます。映画制作の裏側、そして「夢を見ること」についての考えを高山さんに聞きました。

執筆時のイメージとすり合わせて

――2018年に単行本を発売。それから6年を経て、ついにアニメ映画が公開されます。

高山一実さん(以下、高山): もう、本当に嬉しくて! 小説を発売してから1年も経たずに、映画化のお話をいただいたんですよ。それがようやく実現しました。本を書いて出版できるだけで幸せだし、それが書店に並んでたくさんの方に読んでいただけるなんて奇跡、と思ってきたのに、映画にもなるなんて信じられない気持ちです。

――映画化にあたっては脚本や音楽、声優キャスティングなど制作に深く関わられたそうですね。

高山: 制作に入る前に、監督の篠原正寛さんが、映画化にあたって私の希望はないかと聞いてくださったんです。原作の発売から少し時間が経っていて、読者の方々から感想が届いていたので、それも反映して「こんなシーンも追加してはどうか」といったことをお話しました。また、作品中に登場する音楽についての相談や、キャストオーディションにも立ち会わせてもらいました。

朝日新聞telling,(テリング)

アニメーションにするには、髪型や服装といったキャラクター造形から、そのシーンの場所や風景まで、具体的に決めていく必要があります。執筆時にどんなイメージを持っていたかと聞いてくださったので、丁寧にすり合わせしていきました。小説に登場する喫茶店や学校がどんな雰囲気なのか、など。具体的なイメージがある場合は、参考になるような写真をお送りしました。

――ご自身が書いた登場人物たちが動いているのを見たときは、どんな心境でしたか。

高山: 自分が考えた世界や「こうあったらいいな」と話したことが、たくさんの方たちの手によって映像の形になっていて……本当にありがたいことだなと。この映画で初めて『トラペジウム』に触れる方も多いと思うので、どんな感想を抱いてくださるのかとドキドキする気持ちもあります。

それに、アイドル時代に応援してくださっていたファンの方々が、映画化をとても喜んでくださっているみたいなんですよ。私もアイドルオタクだったのでわかるのですが、やっぱりファンの方は「現場」に行きたいんですよね。グッズとかを身につけて。卒業以来、なかなかお呼びできる場がなかったので、ファンの方にも楽しんでいただけたらと思います。

朝日新聞telling,(テリング)

人間は本当に「光る」のだと知った

――『トラペジウム』の主人公である東ゆうは、高校生ながら自分の力で仲間を集め、アイドルを目指していきます。したたかで打算的な面もある彼女に訪れるのは、意外な結末です。いわゆる「アイドルを夢見た女の子が、頑張っていろいろ乗り越えて成功する」という王道のストーリーにしなかったのはなぜですか?

高山: 一度、大きな失敗を味わう主人公を書きたかったんです。当初は、もっと性格に難のある子にしようと思っていたんですよ。でも書いていると愛着も湧いてくるし、性格の悪い子だと実際にはアイドルとして大成しない。当時アイドルグループに所属していたので、周りの子たちも観察しながら、ただ頑張るだけではない、しかし裏では夢にまっすぐな人の物語を書きたいと思いました。

――高山さん自身と主人公には、共通する部分も多いのですか。

高山: うーん。夢に向かって頑張るという意思が明確なところは似ているかな。でも彼女の取る行動は、私にはそこまでできないと思うものばかりです。

あと小説では、主人公のモノローグに私らしさが出ているんじゃないかと。普段こっそり思っていることが何気ない表現に反映されています。読み返すと「私、口悪いな」と思うところもたくさんある(笑)。主人公たちが城案内のボランティアをするシーンがあるんですけど、そこに登場するおじいさん2人に、心の中で「チャーミング爺さん」と「軍ヲタ老人」とあだ名をつけているところとか(笑)。嫌な人だなと思っているわけではなくて、むしろ素敵だなと思う人に対してちょっといじるようなネーミングをつけちゃう。

朝日新聞telling,(テリング)

――原作には「初めてアイドルを見た時思ったの。人間って光るんだって」という印象的な言葉があります。高山さんも実際のアイドルを見て「光る」と思ったことがありますか?

高山: あります。あれは私が感じたままの言葉です。

高校生のとき深夜にテレビをつけたら、ハロー!プロジェクトに所属するアイドルの方たちのライブ映像が流れていたことがありました。ステージ上には大人数のアイドルたち。客席にはいろいろな色のサイリウム。会場で歌って踊るアイドルたちが、きらきら光って見えたんです。なんだこれはと衝撃を受けました。

アイドルって本当にすごい職業だと思います。だから渋谷とかを歩いていても、かわいい人とすれ違うたびに「アイドルをやっていないのかな? もったいないなあ」なんて、つい思ってしまうんです。

アイドルという夢が終わって

――2021年に乃木坂46を卒業されました。単行本を発売したときとは人生が大きく変わったのではないかと思いますが、この物語で描かれる、夢を追いかけることについて考えは変わりましたか?

高山: あまり変わらないですね。やっぱり夢に向かって頑張る時間は素晴らしいと思います。ただ、今の私には、アイドルをしていたときほどの明確な夢がないんです。かつて自分が書いた物語から「夢を持つのは素晴らしい」と全力で主張されたら、後ろめたい気持ちになるのではないかなと不安もありました。

朝日新聞telling,(テリング)

でも実際に映画を見たら、そんなふうには感じませんでした。むしろアイドルになりたいという夢を抱き、叶って、手放した自分を丸ごと肯定したくなりました。

アイドルほど情熱をかけられる夢を抱くことは、もうないかもしれない。それは少し悲しいことでもあるけれど、それだけ好きだったアイドルをやりきったんだと今は思っています。

映画制作と並行して絵本も執筆していて、今年2月に発売になりました(『がっぴちゃん』)。私にとって、ものづくりは楽しいことばかりの仕事ではなくて、不安や自信のなさもあります。でも制作を通じて人生が分厚くなっていく感覚があるし、つくったものが認められたときには、楽しいだけの仕事の何倍もの価値を感じられます。

アイドルという夢が終わって、今は人生の第2期に入ったと思っています。今後も、ものづくりを続けていきたいです。

ヘアメイク:入江美雪希 スタイリスト:Toriyama悦代(One8tokyo)

■塚田智恵美のプロフィール
ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。

■北原千恵美のプロフィール
長野県生まれ。東京都在住。ポートレート、ライフスタイルを中心にフリーランスで活動中。 ライフワークで森や自然の中へ赴き作品を制作している。

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