教えてくれたのは……
シーアイディビーテック代表取締役
伊達 朗さん
工学博士、医学修士、薬学士、薬剤師。20年以上、発酵と肌の研究と化粧品開発に従事。昨年デビューした発酵コスメFASに携わる。
\そもそも発酵って、どういうこと?/
実は……【発酵=腐敗】だった!?
発酵とは乳酸菌や麹菌、酵母といった微生物の働きによって食物などの素材が変化した結果、人体にとって有益なものができることを指す。同じ現象でも、人体にとって有害なものとなる場合を腐敗と呼んで区別する。
- 発酵…人によい効果をもたらすもの
- 腐敗…人に悪い影響があるもの
【発酵の進化】
◆伝統発酵(紀元前500年ほど前)
白菜と乳酸菌でキムチ、大豆と納豆菌で納豆、大豆と麹(こうじ)で味噌をつくるという、人間が生活の中で得た知恵と経験だけでつくる発酵。地域の風土や気候に合わせた保存食が多い。
◆近代発酵
微生物の存在が発見され、その後20世紀前半に発酵の仕組みが解明され始め、発酵技術の工業化が進む。アミノ酸を増やす発酵技術により、うま味調味料、味の素が誕生。
◆最新発酵(ここ40~50年)
【化粧品】
杜氏の手の白さに着目し、生まれたSK-II。特定の酵母を一定の条件下で発酵させたエキスを美肌成分に。発酵をコントロールすることで求める成分を作れる時代の幕開けに。
\これからの発展に期待!/
◆精密発酵
使用する微生物をゲノム編集し、作りたい成分を効率よく生み出せるよう、より精密なコントロールが可能になってきた最新の発酵。黒米やハチミツなど発酵させづらいものを発酵させ、機能成分(高純度)や希少成分の開発に成功。薬品などへの発展も期待される。
発酵に使用される微生物の代表は次の4つ
【1】酵母
糖をアルコールと炭酸ガスに分解する働きをもつ微生物。ビール酵母やワイン酵母、パン作りに欠かせないイーストも酵母の一種。酵母は種類が多く、どれを使うかによって味や香りが決まる。
- 代表的な食品/パン・ビールなど
【2】酢酸(さくさん)菌
アルコールを酢酸に変える細菌の総称。アルコールから酢酸を生むことでpHを低下させ、他の微生物を近寄らせない環境を作り、防腐や静菌・殺菌に働く。美容成分ではPHAが酢酸菌由来。
- 代表的な食品/お酢全般、ナタデココなど
【3】麹(こうじ)菌
日本特有の微生物。カビの一種で麹をつくるための糸状菌の総称。代謝される際にビタミンB群を豊富に生み出す。麹とは麹菌を米や麦など穀物に混ぜて培養したものを指し、酵素を大量に含む。
- 代表的な食品/味噌・醤油など
【4】乳酸菌
ビフィズス菌やガセリ菌など発酵によって糖から乳酸をつくる微生物の総称。腸内環境を酸性にし、悪玉菌の増殖を抑えるほか、肌表面では、美肌菌と呼ばれる表皮ブドウ球菌のいる環境を整える。
- 代表的な食品/ヨーグルト・キムチ・チーズなど
コスメで使用されるのは主に酵母・乳酸菌・麹菌の3つ! 酢酸菌は今後コスメに使用されていく可能性大!
意外と知らない! 発酵に関するギモンに答えます!
Q. 発酵すると何が良いの?
A. 肌にとって有益な成分が新たに生み出される
有機物が菌によって分解される過程でビタミンやアミノ酸、アミノ酸が複数個組み合わさったペプチドやミネラル、ポリフェノールを新たに生み出したり増やしたりします。肌やからだにとって吸収しやすいサイズに分解されているので、効率よく取り入れられます。
Q. 発酵臭や刺激が苦手で躊躇しています
A. 刺激となりやすいアルコールを産生しない発酵コスメも
発酵の過程で生まれる酸やアルコールが時に肌への刺激となったり、独特の発酵臭を生むことも。発酵に使う微生物の種類によって生み出されるものを解析できるようになった現代の発酵技術では、アルコールを産生しない微生物の特定もできています。
Q. 発酵コスメは高いイメージです
A. 多種多様な有効成分が配合されているのでむしろコスパ良し
合成でつくるビタミンCが一種に限られるのに対し、発酵の場合は数種類のビタミンCが得られることも。また1つのペプチドは金1gよりも高価と言われているので、配合されている有用成分の機能性や純度、種類の数を考えるとむしろコスパが良いと言えるかも。
Q. 酵素と発酵の違いは?
A. 発酵は微生物が起こす現象、酵素は消化分解を促すタンパク質
酵素は生き物ではないものの、人間や動物、植物などが生きていくうえで欠かせない消化・吸収・分解といった化学反応を促す働きをもつタンパク質の総称。炭水化物を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼなど。化粧品では脂質を分解するリパーゼを配合した酵素洗顔料などが有名だ。
Q. 発酵で得られる成分は自然任せ?
A. 温度・湿度・期間を最適化することで作りたい成分を設計
発酵に使用する微生物と有機物の組み合わせにより、発酵に要する期間や温度や湿度など環境は異なります。過去の研究データから何万通りとシミュレーションして最適化するのが、現在の発酵技術。自然任せではなく、作りたい成分を設計・製造することが可能に。
撮影/山口恵史 イラスト/二階堂ちはる 取材・文/平輝乃 構成/河津美咲