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「女性だけ愛嬌まで求められるのはなぜ?」 高学歴女子の生きづらさを描く『東大の三姉妹』 漫画家・磯谷友紀さん

  • 2024.5.6

『王女の条件』『ながたんと青と』など、自立した女性を描いてきた漫画家・磯谷友紀さんの最新刊は『東大の三姉妹』。外資金融勤めの長女・世利子(34歳)、ドラマプロデューサーの次女・比成子(32歳)、現役東大生の三女・実地子(22歳)の東大三姉妹と、東大に落ちた末っ子長男・一理(18歳)の4きょうだいの姿を通して、高学歴女子の生きづらさを描いた野心作だ。どうしてこのテーマに挑んだのか、その思いを聞いた。

合コンで学歴を隠す女性たち

――『東大の三姉妹』はタイトル通り、東大卒&在学中の三姉妹の物語。なぜこのモチーフを選んだのですか。

磯谷友紀さん(以下、磯谷): 女性の生きづらさについて、ずっと書きたいと思っていました。東大とまではいかなくても、高学歴であったり、ハイキャリアであることを隠した経験のある女性は多いと思います。編集さんたちと話をしていても、例えば合コンへ行くと、学歴をひた隠しにする人がいるとも聞きます。私も前職は編集者で、そのときに東大卒の女性タレントさんと仕事したことがあったのですが、その方が、優秀過ぎないように、フレンドリーに見えるようにと気を使っていたのが印象的でした。高学歴男性は不愛想でも許されることも多いのに、なぜ女性は愛嬌を求められてしまうのだろう、と引っかかっていました。

――漫画でも、長女・世利子が一番先に答えがわかっても手を挙げるのをやめるシーンがありますね。能力ある女性が自ら、その力を隠してしまう。その背景にはなにがあると思いますか。

磯谷: 根深い問題だと思います。「女の子が勉強出来てもしょうがない」と親に言われてきた世代が今度は親になって、同じことを子どもに言ってしまう。私の周りには、さすがにこんなことを言う人はいませんが、それでもまだ、「女の子は勉強をしたうえで、かわいげもあったほうがいい」というムードは感じます。今の日本ではまだまだその方が生きやすいから、大人たちも処世術としてアドバイスするのでしょうが、だとしたら社会がもっと進化しないとだめだと思うのです。

『東大の三姉妹』©︎磯谷友紀/小学館

この漫画は、長女の世利子と次女の比成子が30代で、三女の実地子と末っ子の一理が22歳、18歳と、いわゆるZ世代なんです。私はそこには希望を込めていて、実地子と一理には、上の二人がこれまでの価値観に縛られているところを壊してほしいと思っています。

高学歴女子の複雑な母娘関係

――ガリ勉の世利子(34)、世渡り上手で仕事熱心な比成子(32)、マイペースな研究者の実地子(22)と、同じ東大卒で同じ母に育てられた同性であっても性格はばらばら。これは、世代の違いや、生まれ順の違いからくるのでしょうか。

磯谷: この漫画を描くにあたって、ドラマプロデューサーの佐野亜裕美さんや文筆家のひらりささんをはじめ、複数の東大卒の女性に取材しました。本当に十人十色でした。その取材での経験から、東大卒というだけで一括りにしたくない、という思いが生まれ、みなさんの要素を混ぜ合わせて三姉妹のキャラを考えていきました。

また、実は私の母が三姉妹の末っ子で。同じ祖母に育てられたのに、三姉妹の性格が全然違うんです。それはやっぱり、その時々で母親の育て方が違うからではないかと思っています。たとえば、第一子は母親も慎重になって、あれこれ口出しをしてしまいがち、第二子の時には、時間の余裕がそれまでよりなくなり、第一子に比較すると放任主義になり、第三子はただただ可愛がるというように……。星座や血液型より、生まれ順が性格を左右することが多いのではないかと思います。

――漫画では、三姉妹の母も登場しますが、三人それぞれ母と距離があるように描かれています。高学歴の子どもとその母だからこその難しさはあると思いますか。

磯谷: あると思います。自分を含め、やっぱり娘というものは、良くも悪くも母親にすごく影響を受けるんですよね。取材した東大卒の女性の中には、お母さんから勉強しなさいと口うるさく言われていた方もいらっしゃいました。おそらくその反動からか、自分の子どもは自由にさせたいと考えているそうです。

漫画ではこの後、世利子が精子バンクで授かった子どもを育てる予定です。自分が母親となったとき、実母との関係があぶりだされるのではないかと思います。

『東大の三姉妹』©︎磯谷友紀/小学館

東大女子にもあるコンプレックス

――今お話されたように、世利子は精子バンクで子どもを得ようとします。現在、同時連載している『ながたんと青と』でも主人公の女性は養子を迎えます。通常の妊娠・出産とはちがう形で母と子を描くのはなぜでしょうか。

磯谷: まず、家族のあり方はさまざまでいい、という思いが根底にあります。『ぬくとう君は主夫の人』という作品では、夫が専業主夫という家庭を書きました。取材した高学歴女子も、13歳年下の夫と結婚した人や3回離婚と結婚を繰り返した人、里親をしている人など、さまざまでした。

これまで、転職や結婚は自分でコントロールできるけれど、妊娠・出産については難しかった。でも今は、精子バンクや卵子凍結など、努力できる部分も増えてきましたよね。世利子は、自分の計画通りに生きたい人なので、きっと精子バンクという選択をするだろうと思いました。

でも実は、もっと先も描きたいんです。世利子は数ある精子の中から、青い目で金髪の白人をセレクトするのですが、そこにはきっと彼女のコンプレックスがあるはず。外資系に勤めているので、アジア人差別にさらされているのかもしれませんね。どこまで昇りつめても、誰もが皆、何らかの劣等感をもっている――そこまで描けたら面白いと思っています。

『東大の三姉妹』©︎磯谷友紀/小学館

――『東大の三姉妹』は恵まれた立場の人たちが主人公ということに新しさと難しさを感じました。反響はいかがでしたか。

磯谷: 反発は当然あるだろうと思っていました。でも、タイトルを『東大の三姉妹』にした時点で、覚悟を決めています。それでも書くんだ、と。少年漫画誌である「ゲッサン」での連載なので、男性の反応が気になりましたが、思ったより好意的な意見が多くて、ホッとしています。

取材してみて、東大女子は恵まれている人たちだな、というのは私も感じました。やっぱり普通のおうちでは東大になかなか行けないですよね。でも、その人が努力して今の地位を築いたのは間違いない。その努力は認めるべきだと思うんです。

それから、一理が世利子に「東大に行ったら、幸せになれるの?」と問いかけ、世利子が動揺するシーンがあるのですが、そのように三姉妹はそれぞれ悩みを抱えています。恵まれているからといって幸せとは限らない。そんなところも読んでいただければありがたいです。

『東大の三姉妹』©︎磯谷友紀/小学館

あなたたちはなにも悪くない

――ここから先、『東大の三姉妹』で何を描いていきたいですか。

磯谷: 世利子は、育児と仕事の両立をどうしていくのか。比成子には、マウントを取ってくる彼氏がいるのですが、彼との関係をどうしていくのか。実地子は、宇宙人的な発想でみんなを驚かせるところを描きたいです。

――最後に、三姉妹と同じ高学歴女子たちへメッセージを。

磯谷: 正直、悪いのは社会のほう。あなたたちはなにも悪くない。

2019年に上野千鶴子さんの東大祝辞が話題になりましたが、その中で私が一番感動したのが「恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。」という言葉でした。努力している人が、その努力を隠さないでいい社会になることを願って、私は漫画を描きます。

■清繭子のプロフィール
ライター/エディター。出版社で雑誌・まんが・絵本の編集に携わったのち、39歳で一念発起。小説家を目指してフリーランスに。Web媒体「好書好日」にて「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を連載。特技は「これ、あなただけに言うね」という話を聞くこと。note「小説家になりたい人(自笑)日記」更新中。

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