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空の冒険者たち、鳥が到達した最高の高さは?

  • 2024.5.5
高度1万1300メートルに達した「マダラハゲワシ」
高度1万1300メートルに達した「マダラハゲワシ」 / Credit: canva

空を悠然と飛ぶ鳥たちを見て、「一体どの高さまで行けるのだろう?」と思ったことはないでしょうか。

もちろん、その高さは鳥の種類によって様々です。

例えば、私たちに最も身近なスズメは約10〜15メートルの高さを飛び、ハトだと約100メートルの高さまで飛ぶことができます。

しかし鳥の潜在能力はこの程度に留まりません。

もっともっと高い場所を飛べる鳥は地球上にたくさんいます。

では、これまでで最も高い場所を飛んだ鳥の世界記録はどのくらいなのでしょうか?

目次

  • 世界記録は上空1万1300メートル!
  • 鳥が備えている「呼吸器システム」の凄さとは?

世界記録は上空1万1300メートル!

世紀の大記録は1973年、西アフリカのコートジボワール上空にて打ち立てられました。

一機の民間航空機がなんと上空1万1300メートルという高さで、一羽の鳥にぶつかったのです!

こうしたバードストライクは航空機の故障の原因としてよく知られる事故ですが、そのほとんどは離陸や着陸時の高度数百メートル付近で起きています。

1万メートルを超えた場所で鳥にぶつかるなんてことはかつて一度もありませんでした。

幸いバードストライクを起こした航空機はエンジンの一つが故障したものの、無事に着陸に成功しています。

そのため、事故の詳しい調査が行われており、鳥がぶつかったと見られる場所から、5つの完全な羽毛と15片の部分的な羽毛が見つかりました。

おそらく機体に衝突した鳥は即死だったでしょうが、このように羽毛が残っていたことから鳥の種類を特定することにも成功しています。

その正体は「マダラハゲワシ (学名:Gyps rueppellii)」という鳥でした。

ケニアで撮影された「マダラハゲワシ」の成鳥
ケニアで撮影された「マダラハゲワシ」の成鳥 / Credit: en.wikipedia

マダラハゲワシはタカ科ハゲワシ属に分類される大型の猛禽類で、大人は体長100センチを超え、翼の横幅は約2.6メートルに達します。

主な生息地は、アフリカ大陸の東はスーダンから西はセネガルまでを横一直線に結んだ「サヘル地域」です。

また移動範囲がとても広く、ときに地中海の向こう側のスペインでも見かけられます。

紫の部分が「サヘル地域」
紫の部分が「サヘル地域」 / Credit: en.wikipedia

マダラハゲワシは他のハゲワシと同様に長距離移動を得意としており、1日あたり約7時間の飛行を休まずに平気で行います。

特に5歳未満の若い個体は餌を求めて積極的に広い範囲を旅して回ります。

一方で、繁殖した個体は一夫一妻のつがいを形成し、ヒナが生まれて約150日間は両親とも子育てに集中するので、若い個体よりは飛行時間も減るようです。

また特筆すべきはマダラハゲワシの飛行方法であり、大きな翼をバタバタと羽ばたかせることはあまりしません。

彼らは自力で飛び回るというよりも、暖かい空気の上昇気流を利用し、その流れに乗ることでエネルギーを節約しながら空を悠然と滑空するのです。

ナウシカが乗るメーヴェのようですね。

エチオピアの空を滑空するマダラハゲワシ
エチオピアの空を滑空するマダラハゲワシ / Credit: en.wikipedia

この飛行方法により、マダラハゲワシは一般に高度6000メートル付近まで上昇することができます。

そして高い上空から地上の獲物や腐肉を探し、ターゲット目掛けて降り立つのです。

とはいえ、1973年に高度1万1300メートルに到達したマダラハゲワシについては、これが意図的なものだったのか、あるいは偶発的なものだったのか、いまだに議論が続いています。

他にマダラハゲワシが高度1万メートルまで飛んだという事例はなく、そんな高い所まで飛んだところで彼らにメリットはありません。

この個体だけが「誰よりも高く飛びたい!」という強い意志の持ち主だったなら話は別ですが、こうした話はあまり科学的ではないでしょう。

そのため研究者らは、非常に強い上昇気流に飲み込まれてしまったことで、意図せずして高度1万メートル上空まで強制的に運ばれてしまったのではないかと推測しています。

さらにそこに不運が重なって、突如現れた航空機とぶつかり非業の死を遂げたという結末が濃厚のようです。

1973年の個体は上昇気流で偶然に高度1万メートルまで運ばれた?
1973年の個体は上昇気流で偶然に高度1万メートルまで運ばれた? / Credit: en.wikipedia

そう考えると、彼はとてつもなく運の悪い鳥だったと言えるでしょう。

しかし、たとえ気流によって偶然に運ばれただけだとしても、そんな高い所で普通に生きていられるものでしょうか?

もし私たちが生身で高度1万メートルを飛んでいたなら、酸素不足ですぐに失神してしまうでしょう。

では、どうして鳥たちは高い所でも失神せずに平気でいられるのでしょうか?

鳥が備えている「呼吸器システム」の凄さとは?

最も重要なのは、鳥たちが酸素を効率よく取り込める「呼吸器システム」を備えていることです。

私たちヒトを含む哺乳類とマダラハゲワシなどの鳥類では、呼吸の仕組みがまったく異なります。

哺乳類の呼吸では、袋状の肺にそのまま空気を送り込んだり、吐き出したりする構造をしており、「吸う」と「吐く」を同じ経路で行っています。

一方で、鳥類では「気囊(きのう)」という特殊な袋を使うことで、肺の中に常に一方向の空気の流れを作り出すことができるのです。

下の図を見てみましょう。

2つある丸い器官が気囊で、頭に近い方が「前気囊」、尾に近い方が「後気囊」で、その間をつなぐ枝分かれした四角い器官が「肺」です。

鳥類の呼吸の仕組み
鳥類の呼吸の仕組み / Credit: en.wikipedia/ ナゾロジー編集部

まず息を吸うとき、鼻や口から入った新鮮な空気は気管を通って「後気囊」に送られます。

次に息を吐くとき、後気囊の中にある空気が肺に送り出されて、血管に酸素をわたしながら二酸化炭素を受け取ります。

さらに息を吸うと、二酸化炭素を多く含んだ空気は、後気囊から新しくやってきた空気に押し出されて、前気囊に入ります。

そして再び息を吐くとき、前気囊に溜まっていた二酸化炭素を多く含む空気が気管を通って、鼻や口から外へ出されます。

この一方通行の循環システムにより、鳥たちは「使用済みの空気」と「新鮮な空気」を混ぜることなく、最大限に酸素を取り込むことができるのです。

これが哺乳類だと、同じ通路上で使用済みの空気と新鮮な空気を行き来させているため、どうしても酸素を取り込む効率が下がってしまいます。

加えて、鳥類は血液中のヘモグロビンが酸素と親和性が高くなるように進化しており、低酸素環境でも酸素を効率的に取り込むことができます。

こうした特別な呼吸器システムのおかげで、酸素の薄い高度を飛んでいても失神することはないのです。

ヒマラヤ山脈を自力で飛び越える「インドガン」
ヒマラヤ山脈を自力で飛び越える「インドガン」 / Credit: ja.wikipedia

またマダラハゲワシの他にも、数千メートルを超える高い場所を飛べる鳥はいます。

例えば、カモ科マガン属の「インドガン(学名:Anser indicus)」は、標高8000メートル以上に達するヒマラヤ山脈を飛び越えることが確認されています。

しかもマダラハゲワシとは違って、追い風や上昇気流の助けはほとんど借りず、自力の羽ばたきでヒマラヤ山脈を超えることができるのです。

これを踏まえると、自力で飛べる高さとしてインドガンが世界最高かもしれません。

とはいえ、偶発的な出来事だったとしても、マダラハゲワシが到達した高度1万1300メートルを超える鳥はいまだ現れていないようです。

参考文献

What Is The Highest A Bird Can Fly?
https://www.iflscience.com/what-is-the-highest-a-bird-can-fly-73971

The World’s Highest Flying Bird
https://knowledgestew.com/the-worlds-highest-flying-bird/

Rüppell’s Vulture
https://peregrinefund.org/explore-raptors-species/vultures/ruppells-vulture

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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