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最大幅約7.5mの巨大画はどうやって展示する!?まもなく開幕「遠藤彰子展 生生流転」の展示作業に潜入!美術展の裏側を大解剖!②

  • 2024.5.1

圧倒的な世界観を巨大なキャンバスに描く画家・遠藤彰子の作品展「遠藤彰子展 生生流転」が、札幌芸術の森美術館で開催されています。

Sitakke
遠藤彰子/画家

1947年、東京都生まれ、神奈川県在住。1969年、武蔵野美術短期大学卒業。1986年、安井賞受賞。同年、文化庁芸術家在外派遣研修(インド)。2007年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。2014年、紫綬褒章受章。2023年、毎日芸術賞受賞。

今回は開幕前の美術館にお邪魔し、「美術展がどう出来上がるのか」を見せてもらいました!
前回の記事①では、展示室内に壁を製作、作品を搬入するところまでをお届けしました。

今回の記事では、いよいよ巨大な作品がどのように壁に取り付けられるのかに迫ります!

まずは作品を開梱!そして数センチ単位の位置調整へ…

美術品は輸送中に傷などがつかぬよう、保護材などに梱包され運ばれます。
作品を壁に取り付けるには、まずは梱包材を外すところからスタートしますが、今回の作品は巨大画が圧倒的な数を占めます。

「じゃあ『せーの!』でいきますよー」

3~4人ほどのスタッフに声がかかると、作品がふわっと持ち上げられ、優しく床に寝せた状態になりました。
そのまま、傷や汚れ、破損に十分注意しながら、梱包材を外していきます。
額装された作品がお目見えすると、もう一度作品を壁に立てかけなおします。
再度立てられた作品は、スタッフが数センチ単位で位置を調整します。

「今回は大きな作品で、後からの修正が大変になってしまう。壁に取り付ける前から位置を数センチ単位で調整しなければならないんです」

教えてくれたのは、本展覧会の担当学芸員・芸術の森美術館の菊池さくらさんです。
展示室のレイアウト作成を中心に、チラシのデザインやサブタイトルの考案など、全ての作業において、どう展開すればお客様に作品を楽しんでもらえるかを考える、展覧会全体を演出する中心人物です。

Sitakke
梱包材が外され、立てかけられた作品。位置を数センチ単位で調整していく。

それにしても、壁に取り付ける前からこんなに細かく位置を見るとは…。こだわりに脱帽です。

「図面の段階から作品の位置は考えるのですが、実際に展示室に置くと、額装の分数センチずれてしまう。この数センチの違いで、見え方がイメージと全然変わってしまうんです」

来場者への見え方を極限まで追い求めるこだわりの裏側には、もう一つ理由があります。

「壁に取り付けた後に位置を変える必要が生じてしまうと、それだけで大幅なスケジュール遅れにつながる可能性がある。スケジュールが遅れれば、お客様に見せられなくなる事態にもつながるので、小さな乱れもないよう、いつもより慎重に位置を決めました」

小さな綻びが、大きな穴となる可能性も秘めているのが、美術展の展示作業。
集中力を必要とする作業はまだ、続きます。

Sitakke
梱包材をはがした後に、2枚のキャンバスをつなぎ合わせる作業も。## いよいよ壁に取り付け!登場したのは小さな箱!?

細心の注意を払った位置調整の終了後は、作家本人が位置を最終チェック。
OKが出ると、いよいよ作品を壁に取り付ける作業ですが…登場したのは高さ30㎝ほどの木箱。

この箱は何に使うのだろう…?

そう思っていると、作品の両サイドに各1人、中心に1人の計3人がそれぞれ位置につき、更に両サイドに木箱を持ったスタッフが各1名。
全部で5人の作業員が、作品を囲むように位置につきました。

「じゃあ、持ち上げるよー!」

声がかかると、絵がひょい!と持ち上がり、その瞬間、木箱を持ったスタッフが作品の下に箱を滑り込ませます。
滑り込んだ木箱に、ゆっくりと作品を乗せました。

Sitakke
作品の下に小さな木箱が置かれている

実はこの木箱は、作品それぞれの高さを合わせるために、今回の展覧会で新たに作られた特注品です。

「通常は、作品の中心が目線の高さに来るよう、140~145㎝の高さに合わせます。今回は作品自体が大きいので、“作品の底辺の高さが、床から30㎝”になるよう、高さを設定しました」

木箱の高さが30㎝になっていたのは、作品の位置を合わせるため…。
ここにも美しく展示するための工夫が詰まっています。

木箱に乗せた後は、天井部分から吊るされたワイヤーを作品に取り付け、吊り下げる形で展示が完成。
ワイヤー取り付け作業も、ワイヤーの長さが数センチずれるだけで、作品が傾いてしまいます。
慎重な作業に加え、細かな調整を経て、作品の高さ、傾きを整えていったのだとか。

とても大変な作業ですが、スタッフの皆さんは1点当たり約20分程度でどんどん作品を取り付けていきます。

まだ終わりじゃない!作品を見せるには照明が必要

続々と作品が壁に取り付けられていく中、展示室内にやぐらのようなものが出てきました。

Sitakke
高さ約4mのローリングタワー。展示作業のいろんなシーンで登場するすごいヤツ

「ローリングタワーという作業台に乗って、今度は作品を照らすライトを取り付けていきます」

約3.3m×7.5mという巨大画もあるため、通常のスポットライト1灯では作品に十分な光が当たりません。
今回の展示では、展示室既存の照明も一部使用するのに加え、1作品あたり複数の灯体を使用して光を当てていきます。

「一部に光が強く当たってしまうと、作品の意図が正しく伝わらない場合もある。今回は特殊なレンズを取り付けて光が拡散するように照射できる灯体も使っています」

特殊機材やスタッフの技術を結集して、作品全体が明るくなるよう照明をセッティング。
一部作品は、作家本人と打ち合わせながら、作品全体に明かりのグラデーションをつけていきます。

「ライティングは、作品をよりよく見せる大事な要素。念入りに作業しました」

そうして展示作品75点すべてのライティングが完了後、監視員の配置場所や、お客様用のベンチ位置などを決めて、展示室が完成。
大きなトラブルもなく、開幕前日に展示作業が終了しました。

「大きな作品は、1枚の絵でいくつもの楽しみ方がある」

「どんなところを一番見てほしいですか?」

事前準備も含め、半年以上もの時間を展覧会に捧げた菊池さんに、こんな質問をしてみました。

「巨大画は、遠くから全体を見た時、そして近くから作品の一部をクローズアップして見たときに全然違う印象を与えてくれます。1点の作品から、いくつもの感動を得られると思うので、ゆっくり作品をご覧いただきたいですね」

Sitakke
《ことば響くあたり》2019年 333.3×497.0cm
Sitakke
会場では写真、動画どちらの撮影もOKです!

【展覧会概要】
展覧会名:遠藤彰子展 生生流転
会期:開催中~6 月 16 日(日)まで
会場:札幌芸術の森美術館(〒005-0864 札幌市南区芸術の森 2 丁目 75 番地)

入場料などの詳細は公式HPをご確認ください。

※2024年4月掲載時の情報です。

文:Sitakke編集部

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