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危険な状況なのに...「自分は大丈夫」と思い込む『正常性バイアス』に陥りやすい人の特徴とは

  • 2024.6.28
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近年ドラマなどでも話題になった「正常性バイアス」。客観的な立場からすると「どうしてそう考えてしまうの?」「自分は絶対に大丈夫」と思ってしまうかもしれません。しかし…実は「正常性バイアス」は、誰もが陥る可能性があるそうです。

そこで今回は、「そもそも正常性バイアスとはなにか」「どのような状況で陥りやすいのか」などの疑問について、災害心理学に詳しい関西大学社会安全学部教授の元吉忠寛さんに解説していただきました。「正常性バイアス」に関する理解を深めることで、トラブル発生時にも適切な行動を取れるようになるかもしれませんよ。

正常性バイアスとは?

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出典:PIXTA(画像はイメージです)

まず初めに、元吉さんによると「バイアス」とは「認知の歪みのこと」なのだとか。正しい判断とは異なった見方をしてしまう人間の特徴を指しているそうです。

そして、「正常性バイアス」とは「災害などの異常事態に遭遇したときに、本当は危険な状況であってもその状況を異常なものだと認識することができずにたいした問題はないだろうと考えてしまう現象のことです」と元吉さんは語ります。

例えば、津波がそこまできているのに、ギリギリになるまで逃げなかった…なんていう話があったりしますよね。

多くの人にとって、日常生活を送る中では危険はそれほど多くなく、深刻な異常事態に遭遇することはまれです。そのため、元吉さんによると「緊急事態の直後は、ごく限られた情報しかないため、的確な判断をすることは非常に困難」なのだそう。それにより、私たちは異常事態に遭遇しても、いつも通りの日常と変わらず自分は大丈夫だろうと楽観的に考えたり、その状況を深刻ではないと思いたいという欲求を持ってしまい、事態を正常なものだと認識してしまうことがあるのだとか。

「そうすると、正常性バイアスってデメリットしかないの…?」と思ってしまうかもしれません。しかし、実際にはメリットもあるそうです。

元吉さん曰く、「日常生活の中で『あの車にはねられるかもしれない』、『あの人に刺されるかもしれない』、『今地震が起きたらどうしよう』などあらゆることに危険や不安を感じていたら人間は疲れてしまいます。日常生活の中では正常性バイアスはストレスを低減し、人の心を落ち着かせるというメリットがあります」とのこと。たしかに、普段から起きる可能性の低いリスクを案じていたら生活もままなりませんよね…。

しかし、「緊急時に正常性バイアスが働くと適切な行動を取れず、最悪の場合に命を落としてしまうというデメリットが生じてしまいます」と元吉さんは注意を促します。

同調性バイアスとは?

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出典:PIXTA(画像はイメージです)

「正常性バイアス」と同じような心理用語に「同調性バイアス」があります。元吉さんによると、「同調性バイアス」は「日常生活の中でもよくみられることで、周りの人の行動を見て自分の行動を合わせること」なのだそう。

例えば、駅などのエスカレーターでは二列で歩かないのが正しいとほとんどの人が知っているのに、周りの人が片側だけに立っているのを見ると、自分も同じように歩く人のための列を空けて片側に立ってしまったりしますよね。元吉さん曰く、これは「正しいことがわかっていても、周りの人に合わせてしまうのは私たちが周囲の人からの規範的な影響を受けやすいから」なのだそう。

そして…「正常性バイアス」と「同調性バイアス」が同時に働くことにより大きな問題が生じる可能性もあるようです。元吉さんは「災害時に正常性バイアスが働いて多くの人が避難行動を取っていない状況で同調性バイアスが働くと、『みんな逃げていないから私も逃げなくても大丈夫だろう』といった誤った判断を導いてしまうことになります」と解説します。

正常性バイアスに陥りやすい人の特徴

「私が正常性バイアスに陥るはずがない!」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その考えは大間違いかもしれません。元吉さんは「まず誰もが正常性バイアスに陥る可能性はあるというか、普段は正常性バイアスに助けられて生活できているのだということを認識して欲しいと思います」と指摘します。

そう、先ほどお伝えした通り、「正常性バイアス」にはメリットもあるのです。その上で、「しかし、その正常性バイアスが緊急時に生じてしまうと困るということです」と元吉さんは説明します。

なお、元吉さん曰く「正常性バイアスに陥りやすい人の特徴をあげるとすれば、緊急事態の経験がない人というのがあると思います」とのこと。そのような経験がないと、普段と同じ、異常事態ではないという正常性バイアスに陥りやすいそうです。

逆に、「そのような経験がある人は、本当に大丈夫かどうかを確認し、適切な行動を取りやすいと思います」と語る元吉さん。くわえて、「自分で決断することができず、周りの人に影響を受けやすい人も正常性バイアスや同調性バイアスに陥りやすい」(元吉さん)そうです。

そのため、元吉さんは「日常生活の中でも何か判断をしなければならないときに、きちんと情報収集し、自分で考えて判断する習慣を身に着けておくことは大切でしょう」と指摘します。

正常性バイアスがマイナスに働かないために、備えておけることはあるの?

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出典:PIXTA(画像はイメージです)

日常生活では私たちの助けになる「正常性バイアス」。しかし、緊急事態にはデメリットになり得ます。それでは、災害時やトラブルが起きた際、「正常性バイアス」がマイナスに働くことがないよう備えておけることはあるのでしょうか?

まず、元吉さんによると「正常性バイアスを私たちは持っているということを認識することが大切です」とのこと。そして、もしものときには、正常性バイアスの存在を意識して、普段とは違う行動を取ろうとすることが大切」なのだとか。

また、元吉さん曰く「災害のときにどんな行動をとればいいのか想像し、シミュレーションや訓練をしておくことも大切です」とのこと。さらに、「同調性バイアスを克服するために、率先して行動を起こし、周りの人を巻き込みながら避難することも大切でしょう」と解説してくださりました。

正常性バイアスを正しく理解しよう!

日常生活を送る上ではメリットに、一方で、緊急時にはデメリットになる可能性がある「正常性バイアス」。特定の人だけでなく、誰もが陥る可能性があるため、「自分は正常性バイアスを持っている」と認識しておくことが重要です。「正常性バイアス」を正しく理解しておくことで、災害時やトラブルが起きた際も適切な行動をとることができるかもしれませんよ。


監修:関西大学 社会安全学部 元吉忠寛(もとよしただひろ)教授

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出典元: 元吉忠寛教授

災害、食の安全、環境問題、いじめ、医療事故など、社会に存在している様々なリスクに対し、心理学的なアプローチから研究。2018年4月より、関西大学・社会安全学部にて教授を務めている。

専門分野・担当科目:災害心理学、教育心理学、社会心理学