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「なぜ十亀に感情移入してしまうのか」ただの“ヤンキーアニメ”じゃない...アニメ『WIND BREAKER』の“丁寧すぎる”キャラクター描写とは?

  • 2024.6.5
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現在放送中のTVアニメ『WIND BREAKER』の「獅子頭連編」が、いよいよ佳境を迎えている。ここで、主人公・桜遥(さくら はるか)と獅子頭連の副頭取・十亀条(とがめ じょう)による副将戦に注目したい。桜と十亀は出会った瞬間からバチバチ火花を散らしており、どちらが勝つか期待値の高い一戦だ。そんなタイマン勝負で十亀が見せたのは、これまでとまったく違う意外な一面と兎耳山丁子(とみやま ちょうじ)との知られざる過去だった。

十亀の予想外の速さに圧倒される桜

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(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

試合が始まると、十亀はゆっくりした口調とは正反対の俊敏な動きで桜を翻弄する。「亀」とつく名前からは想像できない十亀のスピードは予想外で、意表を突かれた視聴者も多いだろう。下駄で思い切り踏みつけようとしたり顔面を床に押さえつけたりして、桜を圧倒する。蘇枋戦でもキャラクターの意外な一面が垣間見えたが、十亀も負けず劣らずギャップのある人物だ。さらに、床に打ちつけられた桜が出血するシーンが痛々しく、十亀の強さを思い知らされる。

しかし、獅子頭連のメンバーが中学生を追い回したのがきっかけでボウフウリンとのケンカが始まったと聞いて、十亀の様子が一変。勝負をいったん中断し、中学生を追い回していた獅子頭連の2人をボコボコに殴ったのだ。実は、十亀は今回のケンカの原因を知らなかった。このケンカに獅子頭連側の正義はないと分かった十亀は、明らかに戦意喪失する。

十亀と兎耳山の過去と2人を象徴する“眼”

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(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

ここで、十亀と獅子頭連の頭取・兎耳山の回想シーンが流れる。十亀と兎耳山は固い友情で結ばれていたが、頭取になっても楽しくないといって満たされない兎耳山が変わってしまうのだ。ケンカに敗れた仲間を蹴り飛ばし、「弱いやつは獅子頭連にはいらない」といって仲間が着ている獅子頭連の上着を剥ぐ兎耳山の眼は真っ黒。その姿は純粋だった頃とは違い、“闇堕ち”そのものだ。十亀は兎耳山の行いの泥をかぶると決め、雨の中で「丁子はみんなと笑っててよ……」とせつなく笑う。変わってしまった友達のために、十亀も変わってしまったのだ。

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(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

十亀と兎耳山の眼は、過去と現在でまったく違う。まだ純粋だった頃は眼に光や色が入っているが、現在では兎耳山は真っ黒に塗りつぶしたような眼をしており、十亀は眼を隠すように色のついた丸メガネをかけるようになった。眼によって2人の過去と現在の違いを表す演出が印象的だ。また、薄くなった壁に描かれた獅子頭連のマークが、変わってしまったチームや十亀の正義を暗示しているように見える。「お前、何がしてぇんだよ」と聞く桜に「山に行きたいなぁ……」とこたえる十亀は、なにがしたいのか自分でも見失い、疲れてしまった心情が滲み出ている。

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(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project

これまで十亀は倒れている仲間をボコボコに殴るなど、冷酷なキャラクターのように描かれていた。しかし、実は友達である兎耳山に代わって汚れ役をすると決めた過去があり、もともとは仲間想いで正義感のある人物だった。『WIND BREAKER』は迫力のあるケンカシーンだけではなく、気づいたら感情移入してしまうドラマを持った十亀のようなキャラクターも魅力的だ。十亀がケンカ相手ではなく、友達としてボウフウリンのメンバーと仲良くしている姿を見てみたいと願ってしまう。十亀が本来の自分を取り戻したら、きっと不可能ではないはずだ。

WIND BREAKER
ABEMAにて毎週木曜日夜24時26分より無料放送。
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/26-219
【(C)にいさとる・講談社/WIND BREAKER Project】


ライター:まわる まがり
主にアニメについての記事を書くライター。コラム、映画の作品評、マンガのレビューを手がける。X:@kaku_magari