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「原作者が悪い」「かわいそう」SNSの意見は“正しい”のか アニメ【推しの子】の原作改変から考える

  • 2024.7.21

アニメ『【推しの子】』第2期第2話(通算13話)「伝言ゲーム」が、7月10日に放送された。描かれたのは「東京ブレイド」原作者のアビ子と舞台脚本家・GOAのやりとりだ。双方の立場を描きつつ、漫画作品のメディア化における問題点に触れた内容に注目が集まった。

全ての原因は“伝言ゲーム”

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(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

第2期第2話は、「東京ブレイド」原作者・アビ子が、舞台の脚本に不満を持ち、稽古現場を訪れて、脚本の書き直しを申し入れるシーンから始まる。事前に原作者と脚本家との間では、脚本についてのやりとりがたしかにあった。それでもアビ子は、キャラクターのブレについてGOAに厳しい言葉を投げ、創作者としてのセンスまで否定してしまう。

全ての原因は、“伝言ゲーム”によって原作者からの意見はそのまま脚本家には伝わらないことだ。例えばアビ子はあるシーンに対して、「エモさが足りない」「心情をセリフで喋りすぎだ」という意見を担当編集に伝えている。これを各関係者が、各人への配慮や舞台化の事情などを踏まえてGOAへ。アビ子が伝えた意見は「心情の出し方を情緒溢れる感じに」と翻訳されて、GOAに伝えられた。GOAは、「セリフがない方がエモくなるのに」と思いながら、セリフの付け足しを行う。アビ子の意見は、「心情をセリフで喋りすぎだ」だったはずなのに、GOAは真逆の内容を脚本に反映してしまっているのだ。

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(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

そもそも「どうすればエモさが出るのか」「心情が情緒あふれる形になるのか」は、創作者それぞれによって使用する表現が異なる。特定のシーンのどの部分がどんな理由で問題なのか、それによって何が損なわれてしまっているから修正が必要なのか。どの関係者も責任を持って、明確な問題点とその理由をきちんと伝えるべきなのだ。

そしてここに漫画と舞台というメディアの特性も関わってくる。絵や構図で見せることができ、好きな時に楽しめる漫画と、舞台全体のバランスや舞台装置の移動、時間的制約のある舞台では、展開や物語の見せ方、セリフのわかりやすさを調整する必要がある。

しかし、漫画家は舞台というメディアに合わせる上で必要になるポイントを理解しているわけではない。それなのに、舞台側の関係者は「改変した理由は、舞台というメディアの特性に合わせるためです」と答えてしまう。メディアの特性について、互いの理解度を配慮せずコミュニケーションをとってしまっているのも大きな問題だ。

感情がぶつかるメディア化脚本問題

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(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

本来なら感情を抜いて、作品のテーマやシーンの意図、キャラクターの性格の意図などを丁寧に説明しあえる創作環境が理想的なはず。しかし、原作者にとっても、脚本家にとっても、作品は魂を削って作り上げたものであるからこそ、感情を混ぜてやり取りをしてしまう。

人は感情が混ざると、作品に対する意見だけではなく、人格否定にもなりかねない言葉を相手にぶつけてしまう。作中のアビ子の言葉も、GOAを大きく傷つけるものだった。しかし、アビ子もキャラクターの性格を理解されていないと感じられる脚本を読んだとき、自身が懸命に描き上げたキャラクターたちが言うはずのないセリフを言わされていることに、深く傷つけられただろう。互いが魂を削って描き上げているからこそ感情をぶつけ、感情で受け止めてしまう。

本来ならポジティブな心持ちで創作に集中できることが互いにとっていいはずなのに、怒りをぶつけ、悲しみで受け止めるのは、辛く苦しい作業になってしまうのだ。まさに、GOAが言っていた通り“地獄の創作”。互いの心を削りあってやりとりをしないためにも、なるべく感情をぶつけあわないように関係者それぞれが気をつけることが必要になる。

どちらが悪いかでは解決しない

今回のエピソードから、実際に1月に漫画原作のドラマ化で起きてしまった痛ましい事件を思い出したという人もいるだろう。この事件が起きる前に、『【推しの子】』の原作では今回のメディア化脚本問題のエピソードを描いている。メディア化において、脚本制作で揉めることが、珍しいケースではないことの証だ。

SNSでは、「原作者が悪い」「GOAさんかわいそう」という意見もあった。しかし、これは誰が悪いのかで解決する問題なのだろうか? 自分が描き上げたものにこだわることも、円滑に仕事を進めるために振る舞うこと、自分の表現力を駆使してリライトをすることも、それぞれの関係者が懸命に仕事をした結果でしかない。それぞれの関係者が、自分にできることはすべてやった、自分は悪くないと感じても仕方ないだろう。

だからこそ、そもそものシステムやコミュニケーションを見直す必要がある。それぞれの関係者が、原作のテーマやキャラクターの特性、展開へのこだわりなどをすり合わせ、互いの理解度やそれぞれの表現の癖なども踏まえてコミュニケーションをとること、決して感情的に意見をぶつけないことを大切にするしかない。

必要なのは特定の職種を責めるのではなく、脚本制作の仕組みや問題点に目を向けることだということを『【推しの子】』から学びたいところだ。

【推しの子】
ABEMAでは『【推しの子】』第2期を毎週水曜夜11時より地上波同時・無料最速で配信。
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/25-240?s=25-240_s2&eg=25-240_eg0
【(C)赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会】



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、施設取材、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202