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「女は愛嬌があればいい?」朝ドラ『虎に翼』で寅子を支えた“言葉”が話題

  • 2024.6.8

『虎に翼』第九週目「男は度胸、女は愛嬌?」では、優三の言葉を胸にもう一度立ち上がる寅子の姿が描かれた。憲法第14条を落とし込んだものとも感じられる優三の優しくて強いセリフは、裁判官編で描かれる寅子の胸に深く刻み込まれている。優三が望む自分であるために、寅子は後悔のないように人生を生きていく。

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(C)NHK

「大切な人が望んでくれた自分でいたい」 川原で新聞に書かれた日本国憲法を読み、立ち上がる寅子の姿からはそんな想いが感じられた。寅子の行動の理由に、社会への違和感だけではなく、「後悔のないように人生を生きたい」という個人的な感情が混ざった瞬間だ。

「はて?」は社会への違和感の証

寅子はこれまで、性別によって求められる役割の違いや、結婚や職業に対する当時の民法に「はて?」という疑問をぶつけてきた。女性だからといって、学校卒業後すぐに結婚を求められるのはおかしい、結婚後の女性は無能力者として扱われ、さまざまな権利が失われるのはおかしい、同じ試験に合格しているのに、裁判官や検事になれないのはおかしい。一つ一つの「おかしい」に立ち向かうために、寅子は弁護士を目指して地獄を突き進んできた。

無事弁護士になれたものの、女という性別が寅子に重くのしかかる。未婚の女性は信用できないと、担当弁護士になることを断られてばかり。優三と結婚したものの、妊娠中に無理をしてしまい、倒れてしまう。妊娠後も好きな仕事を続けたいのに思うようにいかない身体、女性だから働かずに子育てをという無理解な周りの意見。現代でも悩まされる女性は多いだろう。

社会への違和感に立ち向かっていた寅子は、真綿で首を絞められるかのように、働く女性の限界を突きつけられてしまう。寅子は弁護士を辞めて、家庭に入ることを選んだ。

優三の言葉と憲法第14条

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(C)NHK

登戸へ移り住んだ猪爪家のもとに、優三宛ての赤紙が届く。出征前の最後の日に、二人で時間を過ごす寅子と優三。そこで寅子は、優三に「わたしはあなたに何をしてあげられるのだろう」と投げかけ、謝罪の意味を込めて頭を下げる。

寅子の問いかけに対する優三の答えは、寅子の存在の承認だった。どんな選択をしてもいい、君の好きなように、後悔せずに心から人生をやり切ってほしい。ずっと寅子を見守ってきた優三だから言える愛情がこもった言葉だ。

光に照らされながら優しく語りかけた優三の言葉が、時を経て寅子を支えてくれる。優三を戦病死で亡くして意気消沈する寅子は、無感情に日々をただ過ごすだけになっていた。そんなとき憲法第14条の内容を目にして、寅子は優三の言葉を思い出す。

優三が寅子に送った言葉には強くて優しい威力があった。今の無感情に生きている自分は、優三が望んでくれた自分なのだろうか? 私は本当は何がしたいの? どう生きたいの? という自問が寅子を突き動かす。

SNSでは「優三さんは本当に新憲法の化身だったんだ」「考察すごい」などの声があがり、優三が寅子に送った言葉は、憲法第14条の内容を落とし込んだものではないかという意見があった。実際に憲法第14条の内容は、昭和初期に法曹界にいた女性たちに勇気を与えており、寅子のモデルとなっている三淵嘉子さんも転機だったと語っている。社会が女性に対して大きく開かれた瞬間だったのだ。

社会に交付された「法の下の平等」と優三が寅子に送った言葉はほとんど同じ意味を持ち、寅子は社会からも大切な人からも背中を押される形になったのだ。

裁判官編で寅子はどう生きる?

優三の言葉に支えられてもう一度立ち上がった寅子は、後悔せずに心から人生をやり切るためにもう一度法曹界へ飛び込む。ただ、一度逃げてしまったという後悔が、なかなか無くならない。言いたいことが言えずに、不器用な笑顔を作り、なぜか「スン」と言葉を飲み込んでしまう。

でも、寅子は分かっている。優三が望んでくれていたのは、無我夢中にさまざまなことに向き合い、自分の感情に正直になって「はて?」を繰り出せる自分であることを。

心が折れ、弁護士を続けられなかったときとは違う。寅子の胸には、優三の望む自分でありたいという決意がある。彼女は大切な人からの言葉を思い出し、何度も立ち上がるはずだ。

純粋に学び続けた学生時代とは違い、さまざまな現実を見て謙虚さを身につけた現在の寅子。誠実に周りを見渡しながらも、違和感に徹底的に向き合える人間になれたとき、彼女は本当の意味で男女関係なく困っている人を救える法律家になれるだろう。それが人生をかけて彼女がやりたいことであり、優三が望む寅子の姿なのだ。



ライター:古澤椋子

ドラマや映画コラム、施設取材、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202