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『耳をすませば』とのつながりを知るともっと面白い…!『猫の恩返し』に込められたヒミツ

  • 2024.5.3

2024年5月3日、金曜ロードショー(日本テレビ系)にて『猫の恩返し』が放送される。猫が人の言葉を喋り、自由きままに暮らす猫の国に、ひょんなことから足を踏み入れることになる吉岡ハル(池脇千鶴)の冒険を描いた物語だ。ファンタジー作品でありながら、等身大の女子高生の姿が描かれている。

『耳をすませば』とのつながりを知るともっと面白い

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

『猫の恩返し』の企画の発端は、『耳をすませば』に登場したキャラクターで新たな作品をという宮崎駿からのリクエストだったそう。『耳をすませば』にも登場するバロンやムタが活躍し、『耳をすませば』のスピンオフ作品となっている。

『耳をすませば』は、中学3年生の月島雫が、同級生の天沢聖司がバイオリン職人を目指す姿に感化され、自分も憧れていた物語の執筆に挑戦するという物語だ。作中には人形姿のバロンや、野良猫として暮らすムタが描かれており、雫は自身が描く物語のなかでバロンとムタが活躍する姿を描いている。

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

『猫の恩返し』の制作過程で、原作者の柊あおいさんはどのように『耳をすませば』との関連性を強めたらよいかを考え、「大人になった雫が、もう一度バロンとムタの物語を書いたという設定にしよう」と決めたという。

『猫の恩返し』を、『耳をすませば』雫が自分の将来と向き合い、苦悩した中学3年生の経験を懐かしみながら描いた作品と捉えると、また違った趣が感じられるだろう。雫自身が体験した気づきが反映されているからこそ、『猫の恩返し』は少女の青春物語としても楽しむことができるのだ。

冒険を通して少女が自分を生きるまで

『猫の恩返し』は、主人公のハルが、猫の国の王子であるルーン(山田孝之)を助けたことから、猫の国の妃にならないかと猫王(丹波哲郎)に迫られ、バロンとムタの助けを借りながらどうにか人間世界へと戻る物語だ。猫が立って歩き、人の言葉を話す猫の国を舞台にストーリーが進むため、ファンタジー要素の強い可愛らしい物語であるという印象を持つ人も多いだろう。

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

ハルは朝が弱くたまに遅刻をしてしまうおっちょこちょいな一面もある女子高生。友人のように熱中できる部活があるわけでもなく、好きだったクラスメイトの町田に彼女がいるらしい。なんだか漠然とうまくいかない自分の生活にモヤっとしたものを抱えている。そんな上手くいかない現実と切り離された猫の国に招待され、妃候補としてチヤホヤされることに、「猫の国もいいかもね」なんて考えてしまう。

ムタ曰く、「猫の国は自分の時間が生きられない者が行く場所」であり、バロンはハルに「自分を見失わないように」と助言している。自分を大切にできず、現状にもやもやしていたハルは、猫の国で過ごす一時のなかで猫の姿でもいいかもと自分を見失いそうになる。そんなハルのもとにバロンが駆けつけたことで、ハルは人間の姿に戻りたいと願う。ハルは猫の国での冒険を経て、自分を大切に生きる意識を取り戻していくのだ。

物語の最後、ハルは休みの日でも早起きして朝ごはんを準備し、好意を寄せていた男子への思いも吹っ切れている。髪は短く切られ、さっぱりとしたショートボブ。うまくいかない現実を嘆いたり、誰かに自分の価値を委ねたりするのではなく、ただ自分を大切にしようとするハルの横顔はなんとも眩しい。『猫の恩返し』は少女が自分を捉え直して、生きていこうとするまでの姿が描かれているのだ。

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

この物語を描いたとされる月島雫は、『耳をすませば』のなかでハルと同じような心境の変化を遂げている。中学3年生という高校受験を目前にした時期に差し掛かっても、自分の未来がうまく想像できない、自分にはできない挑戦をしている天沢聖司が眩しくて、なんだか劣等感を感じてしまう。そんなときに出会った美しい猫の人形のバロンや気ままな野良猫のムタ、雫が紡ぐ言葉を素敵だと言ってくれる天沢聖司に背中を押されて、物語を書くという挑戦をし、自分の将来と向き合っていく。雫も自分の将来が見えなかったところから、さまざまな出会いを経て自分を捉え直すという成長を遂げているのだ。

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

『猫の恩返し』は、『耳をすませば』で自分の将来と向き合った雫からの「自分を見つめ直そう」というメッセージとしても捉えられる。両方の青春物語を包含しているからこそ、ラストカットに描かれる清々しいハルの横顔を見ていると、もっと自分の時間を生きようと前を向きたくなるのだ。

“ラストカットのハル”が教えてくれること

ハルには、自分が危険にさらされたとしても猫を救いたいという優しさがあった。猫の国でルーンやルーンの彼女・ユキ(前田亜季)に感謝されたことで、ハルは自分の良さを認識し、自分の時間を生きられるようになる。

厳しい現実や悩みがあるわけでなくても、現状にもやもやして誰かと比べて落ち込んでしまったり、どうして自分の人生はうまくいかないんだろうと思い悩んだりすることは誰しもあるだろう。だがどんな人間にも元から持っている良さがあるはずだ。

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© 2002 Aoi Hiiragi/Reiko Yoshida/Studio Ghibli, NDHMT

猫の国に迷い込むなんていう特別なことがなくても、私たちには自分の良さを捉え直すチャンスはいくらでもある。自分の生活や身の回りを見つめ直して、自分の時間を生きようというメッセージを、『猫の恩返し』は伝えているのだ。



ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、施設取材、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202