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「運動中は時間の経過を遅く感じる」がキツさはあまり影響しない

  • 2024.5.1
運動中は競争相手がいるかどうかに関係なく、時間がゆっくり進むように感じる
運動中は競争相手がいるかどうかに関係なく、時間がゆっくり進むように感じる / Credit:Canva

プランクやランニングなど時間を決めて運動した際、時計を見て「思ったより時間が進んでいない」と感じたことはないでしょうか?

人の感じる時間経過は状況によって伸び縮みすることが報告されていますが、運動に関しても以前から「時間の認識を遅くする」効果があると考えられています。

イギリスのカンタベリークライストチャーチ大学 (Canterbury Christ Church University)心理生命科学部に所属するアンドリュー・マーク・エドワーズ氏ら研究チームも、実際の競技を模したサイクリングテストにより、運動中は運動前後に比べて時間経過の認識が遅くなると報告しています。

そして興味深いことに、今回の実験では、その時間の遅延が、競争相手の有無や、自覚的運動強度(いわゆる「きつさ」)とは無関係であることも示されました。

運動はきついほど時間を遅く感じそうに思えますが、今回の結果は「運動行為そのもの」に時間の認識を遅らせる効果があることを示唆しています。

研究の詳細は、2024年4月1日付の学術誌『Brain and Behavior』に掲載されました。

目次

  • 運動中は「時間がゆっくり過ぎている」ように感じる
  • できるだけ早くゴールを目指す「サイクリング・トライアル」実験
  • 運動中は競争相手の存在ややつらさとは無関係に時間の進みが遅く感じる

運動中は「時間がゆっくり過ぎている」ように感じる

運動中は時間の進行がゆっくりに感じる!?
運動中は時間の進行がゆっくりに感じる!? / Credit:Canva

これまでの様々な研究により、運動には「時間経過の認識を遅らせる」可能性があると分かってきました。

しかし、「運動」といっても、様々な分野やケースがあります。

自分でゆっくりとランニングする場合もあれば、目標を定めてストイックに励む場合もあるでしょう。

また他者と一緒に楽しんで運動する場合もあれば、競技のようにベストを尽くして競争する場合もあります。

さらに運動の強度も様々です。

だからこそ、運動がもたらす「時間認識の遅延効果」をより正確に理解するためには、様々な実験を積み重ねる必要があります。

競技やその練習に近い「運動」では、時間の経過がどのように感じられるのか
競技やその練習に近い「運動」では、時間の経過がどのように感じられるのか / Credit:Canva

ところがエドワーズ氏ら研究チームによると、「これまでの研究のほとんどは、運動の強度が固定されていた」というのです。

そのため、実際の競技やその練習で見られるような、「高い記録を狙って、自分のペースで強度を変えながら行う運動」は、ほとんど考慮されたことがありませんでした。

またある競技では、自分の隣に競争相手が並びますが、その存在が時間認識にどのような影響を与えるのか、十分には分かっていません。

そこで彼らは今回、これまでの研究で見落とされがちだった、実際の競技環境を模倣した運動中の時間認識について調べることにしました。

できるだけ早くゴールを目指す「サイクリング・トライアル」実験

今回の実験には、普段から頻繁に運動を行う33人の参加者(男性17人、女性16人)が加わっています。

そして彼らに、エアロバイクと大型スクリーン、画面上のアバターを使った「サイクリング・トライアル」を行ってもらいました。

できるだけ早くゴールするサイクリング・トライアルの実験。イメージ。
できるだけ早くゴールするサイクリング・トライアルの実験。イメージ。 / Credit:Canva

ちなみに、参加者全員は、普段からサイクリングをしているわけではなく、自転車のタイムトライアルに参加した経験もありませんでした。

つまり、普段から体をよく動かしている人たちに、あまりなじみのないサイクリング・トライアルに参加してもらったわけです。

この実験では、画面上に3Dの4kmの直線コースを映し出し、参加者に「4kmのサイクリング・トライアルをできるだけ早く終わらせるようにしてください」とお願いしました。

その上で、参加者たちは次の3つの条件でトライアルに挑みました。

  1. スクリーンには参加者のアバターのみが表示され、できるだけ早くゴールする
  2. 参加者のアバターの横に仲間のアバターが表示され、できるだけ早くゴールする
  3. 参加者のアバター以外に、対戦相手のアバターが表示され、対戦相手よりも先にゴールする

そして、それぞれのトライアルにおいて、運動前、運動中(500m地点、1500m地点、2500m地点)、運動後に、参加者の時間の認識がズレているかどうか調べました。

彼らにはその調査の中で、「30秒経った」と感じた時にそのことを申告してもらい、実際の経過時間と比べました。

さらに運動中は、自覚的運動強度(Rating of perceived exertion)も測定されています。

これは「行っている運動をどれくらいきつく感じるか」を段階的に示したもの(努力なし、楽、きつい、最大努力など)です。

運動中は競争相手の存在ややつらさとは無関係に時間の進みが遅く感じる

実験の結果、参加者たちは、運動前や運動後と比較して、運動中に「時間の経過が遅く感じられる」と判明しました。

しかも、3つの条件や、到達した地点によって、感覚に差が生じるということもありませんでした。

「できるだけ早くゴールする」という競技シーンにおいて、参加者たちは、対戦相手が近くにいてもいなくても、時間の経過を同じくらい遅く感じたのです。

運動中は時間の経過を遅く感じる。ただし競争相手の有無は関係ない
運動中は時間の経過を遅く感じる。ただし競争相手の有無は関係ない / Credit:Canva

もちろん、サンプルの小さい今回の実験だけでは、「競争相手がいたとしても、時間認識には影響を与えない」と断定することはできないでしょう。

参加者たちはサイクリストでも、サイクリング・トライアル経験者でもなかったため、「競争する精神」が、結果にどこまで反映されたのかも分かりません。

それでも、これまでに行われてきた様々な研究結果も含めて考えると、競争相手の存在というよりも、「主に運動行為そのものが時間認識を遅らせる」可能性があります。

また今回の実験では、もう1点、興味深い結果が出ています。

運動中、自覚的運動強度は右肩上がりで増加していましたが、その増加と、時間の経過を遅く感じることには関連性が見られませんでした。

参加者たちは、運動中に「時間の経過」を遅く感じましたが、その「時間の遅れ」の程度はどの地点でもほとんど一緒だったのです。

今回の実験では、「きつさ」によって競技者が感じる「時間の遅延」が悪化することはなかった
今回の実験では、「きつさ」によって競技者が感じる「時間の遅延」が悪化することはなかった / Credit:Canva

彼らは4kmもの道のりをできるだけ早くゴールしようと全力でエアロバイクを漕いでいるため、時間が経つにつれてどんどんきつくなりました。

しかし、「どんどんきつくなった」からといって、同じように「時間の経過もどんどん遅く感じる」わけではなかったのです。

直感的には運動で時間を遅く感じる効果は、きついから(辛い時間は過ぎるのが遅く感じる)と考えがちですが、そうした単純な理由ではない可能性があります。

とはいえ過去の研究では、「運動量の増加が時間認識の歪みを強める」という仮説も提出されており、この問題についてはまだ一貫した答えが出ているわけではありません。

研究チームは、これらの点を一層正しく理解するため、さらなる研究が必要だとしています。

いずれにしても「運動中に時間の経過を遅く感じる」ことは確かなようです。

しかしこの事実だけでは、運動することや競技の練習をすることにネガティブでつらいイメージが付いてしまいます。

エドワーズ氏は、この現象に対する詳細な点を正しく把握することで、「人々が抱く、運動中の時間認識に対するネガティブなイメージをできるだけ軽減させたい」と考えています。

参考文献

Time warps when you workout: Study confirms exercise slows our perception of time
https://www.psypost.org/time-warps-when-you-workout-study-confirms-exercise-slows-our-perception-of-time/

元論文

The perception of time is slowed in response to exercise, an effect not further compounded by competitors: behavioral implications for exercise and health
https://doi.org/10.1002/brb3.3471

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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