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独身と子持ち女性、困ったときはお互い様? 報われない「不公平感」をなくすには 『9ボーダー』2話

  • 2024.5.1

19歳・29歳・39歳。節目の年齢を目前にした三姉妹が「LOVE」「LIFE」「LIMIT」の「3L」について悩み、葛藤し、それぞれの答えを見つける過程を描くヒューマンラブストーリー『9ボーダー』(TBS系)。第2話では、大庭七苗(川口春奈)が同僚の八木千尋(奥村佳恵)に“あるメッセージ”を電話で伝えた。

本当は「大丈夫じゃないよ」って、言いたい

なかなか予約が取れないレストランに、ようやく行けることになった七苗(川口)。しかし、会社の同期・千尋(奥村)の子どもが熱を出してしまい、代わりに会食に参加しなければならなくなった。急いで予約キャンセルの電話をする七苗の後ろ姿を見ていると、なんとも言葉にしにくい感情がせり上がってくる。七苗、我慢しすぎちゃダメだよ、と言いたくなる。

独身代表アラサーとしてこのドラマを観ていると、どうしたって29歳独身・仕事一筋でやってきた七苗に自身を重ねてしまう。

頑張ってきた仕事がそれなりに認められ、それなりのポジションに立ち、ふと気づいたら周りはしっかり家族をつくっている。自分なりに一生懸命、仕事に捧げてきた20代を後悔なんてしていない。けれど、かけてきた時間や労力はいつの間にか自分を「仕事だけ頑張ってきた人」「恋人もいない寂しい人」にしてしまった。

独身だから、時間がある。たとえば、家庭を持つ人が、家族のために割く時間を、独身者は確保する必要がない。自分のための時間がいくらでもある。だから、会社のような組織や社会が、いとも簡単に「その時間、大変な人のために差し出してください」と言ってくるように感じてしまう。

それが、当然であるかのように。さも「やって当たり前」であるかのように。

わかっている。誰も悪くなんてないのだ。ましてや、熱を出してしまった子どもを迎えに行くお母さん・お父さんのことを悪者にするつもりなんて、毛頭ない。独身の私ばかりが割を食っている、なんて、思うはずない。

でも「困ったときはお互い様」って、本当だろうか。パートナーや子どものために、日々頑張りすぎるくらい頑張っている人たちと同じくらい、独身の私が「困るとき」って、いつ来るんだろう。

本当は、七苗のように「大丈夫じゃないよ」って言いたい日がある。でも、その「大丈夫じゃないよ」は、どれくらい「大丈夫じゃない」んだろうか。七苗が「私だって、いっぱいいっぱいで、無理だってときもあって」と心中を吐露するのを聞きながら、また、頑張りすぎちゃダメだよ、とぼんやり思う。

「好き」って、なんですか

大庭家の三女・八海(畑芽育)が「好きって、なに?」と姉たちに問うシーンがある。それに対し、長女・成澤六月(木南晴夏)が「その人と一緒にいると、笑える。笑顔になれる。好きってそういうことよ」と返す。なんともシンプルで、素朴であるがゆえに、よどみなく心に届く言葉だ。

なぜ八海は「好きって、なに?」と聞いたのだろう。

彼女にはおそらく、パティシエになりたいという夢がある。でも、どこか現実的に人生を直視しすぎているのか、すでに諦めてしまっているようにも見える。進路、言ってしまえば自分の行く末をどうするか、決断するのが億劫(おっくう)になってしまったのか、彼女は、アプリで知り合った立花祐輔(兵頭功海)からの“交際0日”プロポーズを一言で断りきれない。

仮に、祐輔のことを好きだと思えれば、迷いなく結婚ができて将来は安泰だ。少なくとも、今すぐに進学がどうの就職がどうの、と考える緊急性はなくなる。

八海が質問したのは、その感情が生まれる片鱗(へんりん)さえつかめれば、あいまいな自分の人生に分かりやすい枠を与えることができる、という打算があったからかもしれない。もしくは、ほのかに想いを寄せているであろう高木陽太(木戸大聖)のことが、頭をよぎったからか。

将来のことを考えあぐねた結果、19歳で結婚を視野に入れることになるとは、八海も相当な迷路に入り込んでしまっている。七苗と同様、少し頑張りすぎてしまっているようだ。

「自分だけが理不尽」と思わずにいられる相手

みんな、頑張っている。ある人から見たら、そこまで頑張っていないように見えるであろう自分も、精一杯やっている。でも、その頑張りは可視化されない――。良くも悪くもみんな「自分がいちばん頑張っている」と思っているだろう。

こんなに頑張っているのに、報われない。こんなに頑張っているのに、認められない。寂しい、わびしい、なんとも、むなしい。こんな気持ちを、なんとも言えないこの「不公平感」を、この世からなくすには?

記憶をなくしているコウタロウ(松下洸平)は、寄る辺がないはずなのに、どこか幸せそうだ。「コウタロウさんの過去、一緒に探す」と言ってくれた七苗に嬉しそうに笑うも、商店街で聞き込みをしながら浮かび上がってきた“本当の自分”に不安そうにする。でも、自分のために頑張ってくれている七苗の気持ちを敏感に汲(く)み取って「俺ずっと、ここにいるから」と言える人だ。

ちゃんと目の前の相手と、自分のために心を使ってくれる人と向き合って、話を聞き、受容してくれる。そんなコウタロウのような人が近くにいれば、自分だけが理不尽な目に遭っているなんて、思わずにいられるのかもしれない。

ずっと「大庭さん」「七苗さん」「七苗ちゃん」と、七苗に対する呼び方が定まっていなかったコウタロウだが、ようやく「七苗」と呼び方が定まった。自分の過去を忘れ、ふわふわと安定しない自分自身を、少しずつ、一歩ずつ、確かな自分にしようとしている。いつしか、彼が過去を思い出そうと、はたまた思い出せないままだったとしても、幸せでいられますようにと願っている自分がいる。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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