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「気持ち悪い」SNS炎上【トナラー論争】電車やカフェで“あえて隣に来る”人たち…一体どんな心理?心理カウンセラーが解説

  • 2024.4.30

トナラーとは?

車内で不安そうな女性(イメージ)
車内で不安そうな女性(イメージ)

“トナラー”という言葉、ご存じでしょうか?正式な定義はありませんが、ここでは電車やカフェ・ 映画館、ないしは駐車場などにおいて、周囲ががら空きなのに、あえて隣に来る人のこととします(隣に座る行為や、車を停める行為は「トナリング」)。2024年4月中旬に、LASISA編集部で、この「トナラー」に関し、男女で賛否が真っ二つに割れているという記事を発表しました。トナラー行為を行う人について、今回は電車の中をメインに、どのような心理が働いているのか解説します。

では、この問題を考えるに当たり、早速次の問1をお考えください。問1.日常生活において、あなたならば、次の2つのどちらを選びますか?A:嫌なことを我慢させることB:相手が喜ぶことをすること

答え合わせは、本記事の中で行います。また、後編ではトナラーへの具体的な対策もご紹介します。どうぞ、前編・後編合わせて最後までお読みください。

※ ※ ※

トナラーの現状への考察

トナラーという言葉。ネットに現れるのが2017年頃からで、2020年を過ぎるとかなり増えてきます。ということは、コロナ禍が何かしらの影響を与えたのでしょうか?コロナ禍では「密」を避けるようになり、私たちはソーシャルディスタンスの意識を強く持つようになりました。この結果、実際にパーソナルスペースが広がったという研究発表もあります(参考:コロナウイルスの流行によるパーソナルスペースの変化は座席選択に影響を与えるのか)

イメージしてください。コロナ禍でガラガラの電車の中に座っているあなたの姿を。そこに、全然知らない人物が隣に座ってきました。あなたは、どのような気持ちになりますか?

知らない人で嫌だなという嫌悪感や不快感。どこまで一緒なのかなという不安感。感染したらどうしようという恐怖感。さまざまな感情が沸き起こってくることでしょう。

もちろん「うれしい」と喜ぶ人も一部いると思います。ただ、その人たちの場合は、隣に座る人のことを「トナラー」とは呼びませんよね。また、あなたが女性で、隣に見知らぬ男性が座ってきたら?

・「痴漢?」「盗撮?」・「セクハラ?」ないしは「下心?」などのようにマイナスに受け止めるのが一般的です。警戒心や嫌悪感、さらに「キモイ~!」となりませんか。

トナラーに関し、パーソナルスペースの観点から考えるのならば、そもそも「気持ち悪さ」を感じさせる行為です。かなり接近した距離感(次 の密接距離や個体距離に当てはまるため)だからです。そして、コロナ禍による生活習慣や意識の変化により、この気持ち悪さが「市民権を得た」と考えることができます。この気持ち悪さを持つのは自分だけではないんだ、口に出してもいいんだという思いです。ただその一方、誰もが賛同する訳ではありません。他者との距離感や不快感のような個人的感覚には、個人差があるからです。

パーソナルスペースとは

パーソナルスペースのイメージ
パーソナルスペースのイメージ

パーソナルスペースとは、他者に近づかれると不快に感じる空間のことをいいます。パーソナルスペースを提唱した文化人類学者のエドワード・T ・ホールは、この空間を次の4つに分類します。

1.密接距離:ごく親しい人に許される距離(0~45cm:恋人や家族・親友など)2.個体距離:相手の表情が読み取れる距離(45~120cm:友人・知人など)3.社会距離:容易に会話ができる距離(120~360cm:ビジネスの関係など)4.公共距離:複数の相手が見渡せる距離(360cm以上:セミナー・講演会など)※距離の数字はあくまでも目安です。個人差があり、絶対的な数値ではありません。

さて、電車で隣に座ってくるトナラーを想像してみましょう。あなたとの距離は、1の密接距離か、2の個体距離の幅ではないでしょうか?見知らぬ他人が踏み込むには、無理がある距離です。ただ、不快と感じる人もいれば、あまり感じない人もいます。この違いはどこにあるのでしょうか?

遺伝的な要因、生活環境の要因など、さまざま挙げることができます。ここでは、性格の観点から考えてみようと思います。パーソナルスペースを広めに意識するのは、どのような性格の人でしょうか?答えは、内向的で心配性な人、または周囲の視線を過度に気にする人と考えることができます。つまり、パーソナルスペースを「自分を守るための範囲」と捉えると、その範囲は自然と広めになるということです。

そして、見落としてはならない点が一つあります。内向的な人が、「嫌なことを嫌です」とハッキリと口にできるでしょうか?コロナを経て、トナラーという言葉が市民権を得たと述べました。これまで表立って言えなかった方々が、やっと言える状況になってきた、と言えるのではないでしょうか。 「声なき声」がやっと産声を上げることができた、現在は、このような状況なのかもしれません。ここまで、隣に座られる側、つまりトナラーから影響を受ける側から考えてみました。では、トナラー自身はどのように考えているのでしょうか?

トナラー側の心理

電車の車内のイメージ
電車の車内のイメージ

ここで皆さんに質問です。

問2.次の2つのうち、不快な感じがするのはどちらですか?

ア:隣の席に座られた。イ:隣の席に座った。

答えは、アです。理由は「された」という受身の感覚だからです。私たちは受身の際に、大なり小なり「やらされ感」を持ちます。ましてやトナラーの場合、後から座ってくる行為です。 私が先に座っているのに、なぜ?」という疑問も湧きます。そして、私たちはこの「なぜ?」に対する答えが見つからないとき、どうしても不安感が強くなります。グルグル思考に陥りがちだからです。ここまでわかると、隣に座るトナラーの場合、座られる側と較べると、そもそも不快感を持ちにくい行為ということがわかります。さらに、この他の要因として、次の4点を挙げてみました。

1.パーソナルスペースに無頓着対人関係の距離感は、かなり個人的な感覚です。空間や距離感が、気にならない人は一定数存在します。座るという主体的な行為は、受身ではなく、不快感を持ちにくい行為でもあるからです。また、順番を守る意識が強い人の場合、パーソナルスペースよりも、順番に詰めて座る発想となります。

2.他者の気持ちに無頓着距離感ではなく、他者の気持ちに無頓着な人も一定数存在します。本来、人間には相手の気持ちを察する能力(共感する力)が備わっています。ただこの能力にも個人差はあります。また、女性の方が一般的に共感力が高いと言われます。トナラー論争を見ていると 気持ちを察して欲しい」という意見もあり、主に女性からが多いです。

3.自分の固定の場所が決まっているいつもの「自分の居場所」という感覚を持つ人もいます。電車であれば、通勤のための同じ席。行きつけのカフェや居酒屋などでは、自分の指定席という感覚です。 いつもの場所だから、安心できる」という感覚。この感覚を、縄張り意識と置き換えると・ オレ様感」のトナラーも理解できるのではないでしょうかただ、自宅や自室ではありません。あくまでも公共のスペースです。これが、トラブルを生む要因でもあります。

4.人とつながっている安心感誰かとつながっているときに得られる安心感。これを求める人もいることでしょう。誰もいないスペースに、ポツンと一人でいる不安感の解消のためです。上記3の オレ様感」ではなく 守って欲しい感覚」です。オレ様感の場合、咳払いをしたり舌打ちをしたり、いかにも 俺は不快だ」と思わせる言動を取ります。これに対して4の「守って欲しい」感覚の場合、黙ってそっと静かに寄ってくる感じです。

5.犯罪やいたずらが目的痴漢や盗撮、さらにはスリ、置き引きなどの犯罪が目的で近寄ってくる人もいることでしょう。また、同じ人が毎回現れる場合、あからさまなストーカー行為と考えられます。

6.周りが見えていない夢中にやっているうちに、気づくと夕方になっていた、などのように、何かに没入するあまり、自分のしたことを覚えていないというケースもあります。具体的には、スマホに夢中のまま電車に乗り、周りを確認しないまま座ってしまった、というケースです。夢中になりすぎた結果、周囲が見えなくなることはありますよね。

トナラーに関して「悪気はない」という意見も多いです。しかし、5のように意図的な「悪意」を持って、寄ってくるケースもあります。この見分けがつきにくいことも、トナラー論争が平行線で終る要因です。つまり、色々なケースが多く、一括りに論じにくいのです。

では次に、男性と女性の意見の違いからも考えてみようと思います。

男女の考え方の相違

トナラー論争を見ていると、嫌だ不快だと気持ちや感覚で述べる女性に対して、男性の多くはルールで捉えていることがわかります。

例えば、・自由席なら、どこに座ろうと問題はない・同じ料金を払っているのに、そこまで配慮を求められるのはおかしいなどの主張です。

これらの意見は、 座ってはいけないというルールは存在しない」という観点から述べています。 「気持ち悪さ」や「配慮」への反論ではなく、あくまでも「ルール」の主張です。論点がかみ合っていないんですね。

女性的な脳は感覚や気持ちを重視するといわれます。これに対して、男性的な脳は理屈重視です。男性的な脳(理屈)で、気持ちを押さえつけることは可能です。しかし、気持ちに封印をしてしまうと、結果的に 言いたいことが言えない内向的な性格」になってしまいます。3で 声なき声」と 伝えしました。互いが分かり合うために、まず自分の気持ちを素直に表現することは、とても大事なことではないでしょうか。

では、ここで冒頭の質問の答え合わせです。問1.日常生活において、あなたならば、次の2つどちらを選びますか?

A:嫌なことを我慢させることB:相手が喜ぶことをすること

あなたはどちらを選びましたか?では、トナラー論争に当てはめて考えてみましょう。

A:「座ってはいけないというルールは存在しない。だから、我慢すべきだ」B:「相手が嫌がるのであれば、相手が喜ぶように、不快な行為はやめよう」

2つを並べてみると、一目瞭然ではないでしょうか。

たとえ悪気がないのだとしても、不快感を受け取る側の我慢には限界があります。Bの価値観の社会が望ましい、個人的にはこのように思います。ただ、物事には限度があります。パーソナルスペースとして、社会距離や公共距離を保ち、十分に配慮しているにもかかわらず、「この人はトナラーだ。不快だ」と訴えてしまうと、過剰な反応と言わざるを得えません。男性 ・女性と区別するのではなく、互いに適度な距離感を保ちつつ、良好な社会生活を送ることができたらいいですよね。

後編では、トナラーへの対策方法を解説していきます。

(佐藤城人(さとう・しろと))

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