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写真家が見つめる「起源」を追って......。KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024。

  • 2024.4.30
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第12回を迎えた『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024』が、京都市内各地を会場に5月12日まで開催されている。今年のテーマは「SOURCE(=起源)」。寺や町家、二条城などの京都らしい建物も会場となり、欧米やアジア、アフリカを含む世界各地からアーティストが出品し、多様な写真表現で彩られる京都の春恒例のイベントをレポートする。

二条城も両足院も写真展の会場に。

ファッション写真の数々は、印刷工場跡のラフな空間にスライドショーとして展開。サイバーパンクの趣きを呈する。

京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡も、写真展会場に生まれ変わった。ファッションデザインを学んだのち、ユトレヒト芸術大学で写真を専攻したバックグラウンドを持つヴィヴィアン・サッセンは、自身のプロジェクトとクライアントワークとしてのファッション写真とをあわせて展示する。タイトルは、「発光体:アート&ファッション 1990-2023」。写真表現を模索し始めたキャリア初期から、父との死別を受けて土をテーマにした作品、自身の性や女性の身体性に着目した表現や、色鮮やかなファッション写真まで。圧巻の作品点数と薄暗い地下空間で出合っていくような鑑賞体験が、建築家の遠藤克彦によるセノグラフィで演出される。

「幼少期をアフリカのケニアで過ごした経験が、太陽の光と影のコントラストへの感覚に大きな影響を与えた」と話すサッセン。

画面左手に写るのは、変容、妊娠、出産など女性性と見なされてきた要素を表現した「泥と蓮」シリーズの作品。

二条城 二の丸御殿 台所・御清所へと向かう。科学者としての教育を受けた背景を持つティエリー・アルドゥアンは、「種子がどのように世界を旅するか」という疑問から2009年に『種子は語る(Seed Stories)』と題するプロジェクトをスタート。各地に起源を持つ植物種子を被写体に、生命の歴史を紐解くようにしてポートレイト撮影を重ねた。京都の農家が小規模栽培で受け継ぐ「京野菜」の種子を撮影した新作も展示する。

「小さな種が蛍のように闇に浮かぶイメージから、天体のフォルムを思わせる最後の展示室の種子の写真へ、つまり、ミクロからマクロへ、陰から陽へという体験を空間で味わってほしい」とアルドゥアン。

京野菜の種子と、農家が品種を見分けやすくするためにバイオテクノロジーによって施されたケミカルコーティングによる色鮮やかな種子のポートレイトを並べて展示。

祇園に位置する両足院での展示も、植物がテーマとなっている。昨年の「KYOTOGRAPHIE インターナショナル・ポートフォリアレビュー」で「Ruinart Japan Award」を受賞した柏田テツヲが、シャンパーニュ地方に位置する世界最古のシャンパーニュメゾン「ルイナール」で滞在制作した作品を発表した。収穫最盛期のブドウ畑でクモの巣に引っかかったことをきっかけに、自然や人工物を含む環境と人間の関係、あるいは、広く環境に共存する多様な生命へと意識を広げた。

標本箱をモチーフにした木製の箱に作品を並べたセノグラフィは、小髙未帆(APLUS DEISGNWORKS)によるもの。

庭の奥の茶室を覗き込むと作品が展示されており、写真を通して昨秋のフランスと時空を超えてつながるような錯覚が生まれる。

280年の歴史を持つ京都・室町の帯問屋、誉田屋源兵衛(こんだやげんべえ)を会場に展示を行うのは、2004年に中国・上海で結成されたアートユニットBirdhead(バードヘッド/鳥頭)。上海の都市の変容を記録したクロニクルで注目を集めたソン・タオとジ・ウェイユィによる二人組ユニットは、『Welcome to Birdhead World Again, Kyoto 2024』の展示タイトルで、竹院の間と黒蔵というふたつの建物に作品を展開する。

誉田屋源兵衛 竹院の間に展示された「Bigger Photo」シリーズ。撮影、現像、プリントというフィルム写真の従来のプロセスから、印画紙を用いずに写真からシルクスクリーン製版を作成し、木製のパネルにプリントして漆で仕上げる技法へと展開した。写真の物質性にこだわった作品が町家の空間で存在感を放つ。

「従来の伝統的な写真の見方にどうやって挑戦するか。偶然性を受け入れながら、音楽のようなリズムや写真性を超えた物質性なども取り入れていきたい」と語るのはジ・ウェイユィ(後ろがソン・タオ)。

竹院の間の奥の部屋には、11年よりスタートしたフォトコラージュシリーズ「Matrix」の新作『Birdhead world-When you come close』を展示。京都と東京で撮影された124点の写真を組み合わせ、イメージ同士の干渉、鑑賞者とのインタラクションを誘発する。

黒蔵では、写真の神秘的な力を崇める空想上の宗教「Phototheism」の概念を提示。「We Will Shoot You(我らは汝を撮影す)」の信条のもと、コラージュや立体などを組み合わせて原始的な崇拝を想起させる表現を3フロアにわたり展開する。

世界の多様な文化を写真で読み取る。

京都文化博物館 別館を会場に行われている展示は、クラウディア・アンドゥハル『ダビ・コペナワとヤノマミ族のアーティスト』。スイス出身の写真家で、アマゾン最大の先住民グループのひとつであるヤノマミ族の権利を守るため、50年以上にわたりブラジルを拠点に活動を続けてきたクラウディア・アンドゥハルの写真と映像に加え、ヤノマミ族のアーティストによるドローイングも展示されている。ヤノマミ族のシャーマンであり、中心的代弁者であるダビ・コペナワが声を上げる。

左がキュレーターのチアゴ・ノゲイラ、その隣がダビ・コペナワ。

「私たちの暮らす場所は、ブラジル政府によって保護区認定されていますが、実際には金の違法採掘場があり、まるで守られていません。そうした違法採掘者の活動により、私たちヤノマミ族に健康被害をもたらしてきました。私たちの声はまるで政府に届かない。この写真展をご覧になった皆さんに、ブラジル政府に対して声を上げていただきたいです。豊かな森に支えられたヤノマミの暮らしを守ることは、よい地球環境をみんなでつくり、守ることにつながるはずですから」

ヤノマミのポートレート4点と、村を移設したり疫病から逃れる時などにヤノ(共住家屋)を焼き払う様子を収めた写真。セノグラフィをおおうちおさむ(nano/nano graphics)が手がけ、順路を追って映像インスタレーションへと誘う動線が設計された。

『ヤノマミ・ジェノサイド:ブラジルの死』(1989/2018)と題する、ブラジル政府への抗議の意を込めた展覧会で発表したインスタレーション作品を再現展示。調和に満ちたヤノマミの世界が、非先住民による暴力的な開発で破壊されていく様子が収められている。

昨秋、モロッコから来日して滞在制作を行ったのは、元ブレイクダンサーというキャリアを持つヨリヤス(ヤシン・アラウイ・イスマイリ)。ブレイクダンスのモロッコチャンピオンからアフリカチャンピオンとなり、世界各地を遠征したが、膝の怪我で引退を余儀なくされた。旅先でマッピングする感覚で街を撮影していたヨリヤスは、写真を通して自分が生まれ育ったカサブランカを知ろうと考えた。祇園のASPHODELを会場に『カサブランカは映画じゃない』と題する展示を実施。多角的な視点から街の姿が見えてくる。また、出町桝形商店街では、京都で撮影した作品を発表している。

「有名な映画である『カサブランカ』が撮られたのはハリウッドのスタジオですし、カサブランカは伝統と現代の文化が混在するモロッコ最大の都市です」と話すヨリヤス。ロマンスの街でもラクダや砂漠の土地でもない、ダイナミズムをはらむ街としてのカサブランカを強調した。

ラマダン直後の祈りの様子をビル5階のテラスから収めた。カーペットの色がグラフィカルな表現となり、イスラムの街であるカサブランカのアイデンティティを浮かび上がらせる。

京都で滞在制作した時の様子を収めた映像。写真を撮り始めた頃から、無意識に低いポジションから撮影を行っていたというのもブレイクダンサーならでは。

ヨリヤスが展示を行ったASPHODELのほど近くに位置するSferaで開催されているのは、イランの市民と写真家たち『あなたは死なない--もうひとつのイラン蜂起の物語--』。2022年9月、クルド名でジーナと呼ばれるイラン人女性、マフサ・アミニがヒジャブを着用していなかったことを理由に警察に逮捕され、勾留中の暴行が原因で死亡する事件が起こった。彼女の死は、1979年に樹立されたイラン・イスラム共和国の歴史上、最も大規模な抗議の渦を巻き起こし、世代や階層を超え、男女を問わず「生きることを取り戻す」意志の共有が広まった。ル・モンド紙の主導で、匿名を希望するイラン市民やイラン人フォトグラファーから写真と映像が集められ、イランの民衆の勇気に捧げる展示が実現した。

右の写真は、ジーナの死後40日を追悼するため、人々がアイチ墓地へ向かう様子を撮影したもの。展示奥のスクリーンでは、抗議活動とそれに対する警察の抑圧などを収めた動画や、イランの若い女性がダンスや歌をこっそり楽しみ、ソーシャルメディアにアップしたものなどが上映されている。

イラン人写真家のアフマドレザ・ハラビサズが、テヘランのモスク前でヒジャブをかぶらずに抗議の意を表明する女性を撮影。イラン人女性の勇気を象徴する写真として、23年の世界報道写真展アジア部門に入選した。

世界中の子どもの寝室、ジプシーの宴、インドのカースト社会。

世界各地の子どもたちとその寝室を撮影したイメージに、文化的な多様性、経済的な貧富の差や、情報、教育的なものも含めた社会格差などを浮かび上がらせたのが、京都芸術文化センターを会場とするジェームス・モリソン『子どもたちの眠る場所』。文化的・社会的テーマを独自の方法論で表現するモリソンは、5大陸40カ国で子どもたちの寝室とポートレートを撮影してきた。そのうち28カ国で35人を撮影した写真と、子どもたちそれぞれのストーリーを組み合わせた展示を行った。

ケニアで生まれ、イギリスで育ったジェームス・モリソンは、イタリアでベネトンのクリエイティブ・ラボ「ファブリカ」に在籍した経緯があり、現在はベネツィアを拠点に表現活動を続ける。

セノグラフィを手掛けたのは、Birdheadの展示と同じく小西啓睦(miso)。作家のタイポロジー(類型学)的なアプローチに合わせ、統一した空間構成で被写体それぞれの差異を浮かび上がらせる秀逸な設計が、鑑賞者を展示へと引き込む。

カナダ・モントリオールのアパートに、両親と15歳の姉と暮らす9歳の少年ネミス。姉の影響でテレビで見たドラァグクイーンの優雅なパフォーマンスに魅了され、メイクやファッションに興味を向け始めたのが2歳の頃。将来はドラァグクイーンか、ドラァグの格好をする教師になりたいと思っている。

ヨルダン川西岸のベツレヘム郊外にあるパレスチナ難民キャンプで暮らすハムディ(13歳)。1948年に国連が一時的なものとして設置したキャンプだが、現在では当時の3倍の住民が暮らす超過密状態だ。

世界最古の写真フェスティバルとして知られる、『アルル国際写真フェスティバル』の創設メンバーのひとりである写真家、ルシアン・クレルグが被写体としたのはジプシー(ロマ)だ。クレルグが育った南フランスのアルルはジプシー一族の故郷であり、近くの小さな村、サント=マリー=ド=ラ=メールは、毎年5月にヨーロッパ中からジプシーたちが集まる巡礼地でもある。自身がバイオリニストでもあったクレルグは、ジプシーの日常生活や宴の様子を10年以上にわたって撮影したばかりか、ギタリストのマニエス・デ・プラタなどの海外興行も実現し、ジプシーから世界的なミュージシャンが誕生する道を切り拓いた。

ルシアン・クレルグ『ジプシー・テンポ』展示風景より。

ルシアン・クレルグ『ジプシー・テンポ』展示風景より。

昨年の公募プログラム「KG+ SELECT Award 2023」でグランプリを受賞したジャイシング・ナゲシュワランは、インド出身の写真家だ。カースト制度の4つの身分のさらに下層に位置し、動物の加工や汚物処理などをおもな生業とする「ダリット(不可触民)」の家系に生まれたナゲシュワランは、独学で写真を学び、社会から疎外されたコミュニティの暮らしを写し続けてきた。

ジャイシング・ナゲシュワラン『I Feel Like a Fish』展示風景より。自らを金魚鉢の中の魚のようだと語るナゲシュワランが属する共同体を被写体に、外部からは暴力や差別の対象として知られるダリットのポジティブなストーリーを見せる。

「紅茶とカースト」と題するシリーズを写真史初期の湿板方式で現像し、ガラス板を洗い流す現像プロセスに、カースト間の差別と暴力を消し去りたいという思いを重ね合わせたという。

川田喜久治、潮田登久子、川内倫子......日本人写真家たちの世界を堪能。

最後に紹介したいのが、京都市京セラ美術館で開催されている3つの個展だ。まず、1959年から61年に写真エージェンシー「VIVO」に参加し、65年に原爆ドームの天井のシミに誘発され、敗戦の記憶を記号化した作品集『地図』でセンセーショナルなデビューを果たした川田喜久治。『見えない地図』と題される個展では、「地図」「ロス・カプリチョス」「ラスト・コスモロジー」という代表作のシリーズの初期作品に、近年撮影した作品を合わせ、編集して再構成する意欲的な取り組みを実施した。おおうちおさむ(nano/nano graphics)による箱状の空間が連なるセノグラフィで、順を追って異なる作品世界と出合える仕掛けとなっている。

川田喜久治『見えない地図』展示風景より。戦後から昭和の終わりへ、さらには世紀末までを写した「ラスト・コスモロジー」シリーズの撮影は、1965年から2000年代初頭まで続けられた。

川田喜久治『見えない地図』展示風景より。

川田喜久治『見えない地図』展示風景より。最新写真集『Vortex』(2022年)に収められた作品がスクリーン3面にランダムに写し出され、鑑賞者はその場を離れがたくなる。

隣の展示室に移動すると、潮田登久子『冷蔵庫/ICE BOX + マイハズバンド』から川内倫子『Cui Cui + as it is』へとふたつの個展がつながって展開する。アートとカルチャーの分野で活躍する女性に光を当てる、ケリングの「ウーマン・イン・モーション」の支援による企画だ。

潮田登久子「冷蔵庫/ICE BOX」シリーズより。自宅の冷蔵庫を定点観測することに始まり、親族や知人、友人らの冷蔵庫を20年にわたり撮影。そこには持ち主の生活、趣味嗜好、性格までが写されているかのよう。

潮田登久子「マイハズバンド」シリーズより。1978年、写真家の島尾伸三との間に娘のまほが生まれてすぐ、築90年の東京・豪徳寺の洋館(旧尾崎テオドラ邸)に引っ越して約7年間、そこでの暮らしを収めたシリーズだ。

「2019年に40年ほど暮らした洋館を引き払うことになり、掃除をしていてたまたま見つかったのが『マイハズバンド』のシリーズです」と話す潮田登久子。22年に写真集として出版した作品は、思いがけない再発見から形になったことを明かした。

潮田の展示空間を抜け、川内倫子『Cui Cui + as it is』へ。おじいちゃん子だった川内は、祖父に写真の練習台となってもらい、会うたびに撮影を続けていた。誰に見せるともなくいつしか家族の写真が増え、最年長の祖父が死へと近づいていくと、写真に記録された時間の流れが自分や家族にとって特別な意味を持ってくる。川内の兄が結婚し、祖父は他界、翌年に甥が生まれる。家族のサイクルが一巡したことを感じた。祖父の死と前後する家族のシリーズを「Cui Cui」に、自身の妊娠と出産、娘の幼児期の写真を「as it is」シリーズにまとめた。

川内倫子「Cui Cui」シリーズより。

川内倫子「Cui Cui」シリーズより。

川内倫子「as it is」シリーズより。

「娘を0歳から3歳まで撮影した写真を今回展示していますが、まだ動物ともいえるその年齢の娘から学んだことは多かったですし、3歳くらいまでに親孝行の大半をすると言われるのも納得でした」と川内倫子は話す。

展示全体を巡り、『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真芸術祭 2024』のテーマのステイトメントに記されていた「SOURCEを探求し、オルタナティブな未来を望む」という言葉を思い返す。京都市内各地の特徴的な建築物がその歴史を感じさせながら、特別な写真作品とセノグラフィで姿を変える。世界各地から集結した写真は、それぞれの土地における文化、現実を見せ、そこから生まれる未来を想像させる。写真に写されるのは過去だが、それは単なる記録ではない。見るものの意識、視線と結びつくことで、未来や未知へと向かう道標ともなるのだ。春の京都を訪れ、写真の可能性を存分に感じてほしい。

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2024』期間:開催中~5月12日(日)会場:京都市内各所 tel:075-708-7108(KYOTOGRAPHIE事務局) 開館時間、休館日はプログラムにより異なる パスポート料金:一般¥5,500、学生¥3,000ほか※無料会場あり/一部会場は別途要入場料。詳細はホームページまでwww.kyotographie.jp/

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