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中学受験「私がバカだから悪いんだ――」家族が壊れた娘が伝えたい、夫婦間でいちばん大切なこと

  • 2024.4.27

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

中学受験「私がバカだから悪いんだ――」家族が壊れた娘が伝えたい、夫婦間でいちばん大切なことの画像1
写真ACより

目次

・無関心な父と暴言暴力の母
・「自分がバカだから」両親が不仲に
・志望校に合格するも……弟は引きこもりに
・夫婦間での「意見統一」が最重要事項

首都圏を中心に依然として中学受験ブームが続いている。東京23区に限れば、受験率はおよそ23%。約4人に1人が受験したという結果が出ているほどの活況ぶりである。

多くの親は我が子の幸せを願い、この道がベストなのだ! と信念を持って中学受験に参戦していくが、この信念を貫くのは「言うは易く行うは難し」である。

なぜならば、受験は長期戦。ゆえに山あり、谷ありはむしろ普通で、親子バトルを繰り返す家庭が多いのだ。やはり遊びたい盛りの子どもに「受験する意味」を伝え続け、時にはなだめ、時には励ましという数年間を過ごすのは、相当な覚悟が必要である。

この“覚悟”、夫婦間で意思が統一されていれば、まだ問題は少ないが、受験に対する温度差がある場合には、関係は高確率でギクシャクしていきがちだ。

無関心な父と暴言暴力の母

中学受験経験者であるさやかさん(20歳 仮名)は「受験のせいで家族が壊れた」と口にする。

さやかさんは両親と弟の4人家族。父親が都内でも有数の文教地区に居を構えたのは、さやかさんがちょうど小学5年生の頃。クラスの9割が中学受験をするという環境だったこともあり、なんだかわからないままに塾に入れられ、その日から猛勉強を強いられる暮らしが始まったという。

「今思えば、母の見栄だったと思うんです。母は大学からの上京組なんですが、そのキャンパスで出逢ったキラキラ女子がみんな、下から上ってきた付属中高出身者だったみたいで。多分、自分の娘をそういうふうに育てたかったんだと思います」

さやかさんの父親は都立高校を出たのち大学へ。家業を継ぎ、会社役員として忙しく働く毎日だったそうだ。

「もともと父は忙しい人で。平日は私が起きる前に家を出ており、寝た後に帰ってくるという暮らしぶりだったので、子育てにはノータッチ。母は完全にワンオペ育児でした。それが影響したのかはわかりませんが、私が塾に行き出してからの母は、いつも不機嫌。成績表が返ってくるたびに『なんでこんな問題もできないの!』と怒鳴られて、叩かれるというのは、もうお約束。そうは言っても、どうしたら解けるのかもよくわからないですし、私がバカだからいけないんだと思っていました」

中学受験の勉強は、やはり積み重ねの部分があるし、もちろんノウハウもある。さやかさんのように5年生という遅い段階からの参入で、かつ本人に受験のモチベーションがない場合には、相当なハンデ戦になっただろう。ハンデをカバーするためには家庭での戦略が必要なのだが、両親はかたや無関心、かたや暴言暴力。さやかさんの成績が伸びていかないのも、無理からぬところではあったと思う。

「自分がバカだから」両親が不仲に

「父はずっと中学受験には反対。まわりがするからといって、受験するのはナンセンスという持論でしたが、本音は成績も上がらずやる気もない娘に、金をつぎ込むのはコスパが悪すぎるという魂胆が子ども心にも見え見えでした。なにせ、二言目には『バカに払う金はない!やめさせろ!』でしたから……。一方で、母はひとりで勝手に受験にのめり込んでいる。多分ですが、私を良い学校に入れることで、父を見返してやりたいという思いが強かったのではないかと思います。でも、娘は望むような偏差値は取ってこないわけですから、母はいつも暗い表情を浮かべてイライラしていました」

ある日の夜更け、さやかさんは自室で親同士のケンカを聞いたそうだ。

「子どもだったので、その時はよくわからなかったのですが、どうも父の浮気がバレて修羅場になったようなんです。それで、父が『こんな辛気臭い家にいられるか!』って出て行きました。以降、父は実家兼事務所に寝泊りしながら、たまに我が家に帰ってくるという暮らしに。母が『子どもさえいなければ、別れられるのに!アンタたちがいるせいで!』と泣いたのをよく覚えています。私はその時も、父が出て行っちゃったのも、母が泣いているのも全部、自分がバカだからなんだって思っていたんです」

それからというもの、さやかさんは学校や塾から帰ってくるたびに、母親が家出しているのではないか? という恐怖にかられながら、玄関ドアを開けていたという。

「あの頃の私は必死というか、健気でした。成績が上がれば母はご機嫌だし、父も帰ってくるに違いないって。それで結構、真剣に勉強したんです。母の憧れの学校は私から見ると高嶺の花だったのですが、それでも6年生の秋には、どうにか志望校として射程圏内に届くようになりました。実際、母は喜んでいましたね」

志望校に合格するも……弟は引きこもりに

結果は合格。家庭内不和をご存じだった塾の先生からは冗談めかして「奇跡の子」と褒められたという。

「父親は現金な人で、入学式には満面の笑みで参加。正式な離婚はしていませんが、完全なる仮面夫婦だってことはわかっていたので、夫婦で出席する姿を見ても複雑でしたね」

幸いにも学校はさやかさんに合っていたようで、居心地は悪くはなかったそうだ。

「家にいるよりも数段マシだっただけです。やっぱり、今も家庭の空気は殺伐としてますから……。私は女だからでしょうか? 妙に現実的で、冷めていました。ある程度の成績を取って、併設大学にそのまま進んだんです。親もそのルートなら文句を言わないわけですから。丸く収まるなら、それでいいって感じですかね。でも……」

目を伏せたさやかさんは、そこでため息をついた。

「実は、割を食ったのは3つ下の弟なんです。男の子のほうが繊細なんですかね? 私の中学受験時代、本当に我が家は修羅場でしたので、幼かった分、私以上に傷付いたんだと思うんです。中学受験も私が母から叩かれているのを目にしていたせいもあるんでしょう。絶対に嫌だと言って、しませんでした。小学校も休みがちになり、公立中学に進んだんですが、そこで不登校に。現在、通信制の高校に籍は置いていますが、動き出す気配はありません。引きこもりです。冷静に考えれば、親はもともと不仲で、中学受験はキッカケにすぎなかったのかもしれません。でも、これのせいで家庭が壊れたのも事実だと思うんです」

夫婦間での「意見統一」が最重要事項

さやかさんは気を取り直すかのように、こう言った。

「中学受験を検討しているご家庭にお伝えしたいんです。今思えば我が家の場合、父は『子ども時代はのびのび派』で母は『今頑張って、中高大でのびのび派』だったんだと思うんです。価値観の違いだけで、子どもを思う気持ちはお互いにあったと信じたいのですが、ボタンの掛け違いを修正することもなく、じょじょに溝が深まったのかなと想像しています。もし、夫婦間で意見をすり合わせないままスタートしたら、ウチのように肝心な家庭までうまくいかなくなるから気を付けてって言いたいです」

さやかさんが教えてくれたように、子どものサポートが何よりも大切になる中学受験では、夫婦間での「意見統一」は最重要事項である。もし価値観の違いが明らかになったら、そもそも中学受験をなぜやりたいのかを夫婦間でよく話し合うことをおすすめしたい。

結局、受験成功への鍵は家族が一丸となって戦うこと。それには、良好な家族関係が大事になる。「中学受験は家族が幸せになるためにやるもの」という原点を忘れてはならないのだ。

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鳥居りんこ(受験カウンセラー、教育・子育てアドバイザー)
エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー、介護アドバイザー。我が子と二人三脚で中学受験に挑んだ実体験をもとにした『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などで知られ、長年、中学受験の取材し続けている。その他、子育て、夫婦関係、介護など、特に女性を悩ませる問題について執筆活動を展開。

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