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【社会派映画】9歳の問題児・ベニーは変われるか『システム・クラッシャー』 4/27公開 【伊藤さとりのシネマでぷる肌‼】

  • 2024.4.24
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映画パーソナリティ・心理カウンセラーの伊藤さとりさんが、お肌も心もぷるっと潤う映画を紹介する連載。今回は、4月27日(土)公開の『システム・クラッシャー』。主人公のベニーは9歳の女の子。怒りの感情に火が付くと誰にも止められず、里親・グループホーム・特別支援学級など至る所でトラブルを起こし、施設をたらいまわしにされている。システム・クラッシャーとは、手が付けられない制御不能な子どもを指す言葉。


子どもは優しくていい子という概念を破壊する

“みんな良い子”
ある時からドラマや映画で描かれる子どもにそんな違和感を持った記憶があります。やがて自分が親になり、それが単に物語の主役ではないから演出が面倒といったようなことも多いのでは、もしくは監督か脚本家が子育てを経験していないのか、とまで思うようになりました。もしくは“理想の子”として登場させているか。
だって子育てをすると小さい子どもほど、大人しい子、良い子はレアケースであり、こちらが「良い子だね」と言いたくなるほどですから。  

本作の主人公は9歳の女の子。この映画のタイトルとなる“システム・クラッシャー”とは、ソーシャル・ワーカー内の隠語であり秩序を乱す攻撃的で手に負えない子どものことを言うそうです。これは映画では主人公ベニーのことを指し、彼女はいったん火が着くと恐ろしい形相で、怒鳴り散らし、殴る蹴るはもちろん周囲に当たり散らすという女の子。観客はこの子の運命を見つめるという立場に置かれ、時には近くで、時には遠巻きのカメラでベニーの喜怒哀楽に振り回されるのです。

脚本・監督のノラは入念にリサーチし映画を完成させた

一体、この子はどうなってしまうのか。 ソーシャルワーカーとせっかく関係を気付けても家族になれるわけではないので、ある程度の距離を保たなければいけない。けれど子どもにはそんなことは関係なくて、好きだから一緒にずっと居たいと思うのは当たり前。私が知っているある児童養護施設の子は、「どうせ(いつか)居なくなる人」と言っていて、確かに本作を見ていると子どもとソーシャルワーカーの距離の保ち方が子どものある感情を刺激すると気付かされるのです。しかしそれも致し方ないことで、ベニーから見える世界は理不尽だらけでしかないのです。

ではベニーの親はどうして児童養護施設にベニーを入れたのか。映画ではある親子のパターンが描かれますが、監督であるノラ・フィングシャイトはこの映画の準備に5年を費やし、児童養護施設、児童精神科、教育支援学校、ケアセンターにも住み込みをし、リサーチを重ねたそうです。
ただひとつわだかまりと共に私がこの映画を監督が撮った意味を強く感じたのは、「この子の幸せの方法」を提示していないこと。物語ならつい目標到達を描きたくなるところを、監督はあえて私たちに問題提起している点です。誰にも肩入れしない脚本と演出によりそれぞれの視点で考えられる本作が、多くの映画賞で賞賛されている理由はそんなことからなんですよね。
——伊藤さとり

☑4月27日(金)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開 『システム・クラッシャー』

【あらすじ】嵐のような9歳の女の子ベニー。幼少期、父親から受けた暴力的トラウマ(赤ん坊の時に、おむつを顔に押し付けられた)を十字架のように背負い手の付けようのない暴れん坊になる。里親、グループホーム、特別支援学級、どこに行こうと追い出されてしまう、ベニーの願いはただひとつ。かけがえのない愛、安心できる場所、そう! ただママのもとに帰りたいと願うだけ。居場所がなくなり、解決策もなくなったところに、非暴力トレーナーのミヒャはある提案をする。ベニーを森の中深くの山小屋に連れて行き、3週間の隔離治療を受けさせること……。 2019/ドイツ/125分
監督・脚本:ノラ・フィングシャイト
撮影:ユヌス・ロイ・イメール
音楽:ジョン・ギュルトラー
出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ
原題:Systemsprenger 英題:System Crasher
日本語字幕:上條葉月
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション
配給:クレプスキュール フィルム © 2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschränkt), ZDF

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