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外コン勤務の彼に「私たち付き合ってるの?」と22歳女が尋ねたら衝撃の返答が…

  • 2024.4.24

東京の女性は、忙しい。

仕事、恋愛、家庭、子育て、友人関係…。

2023年を走り抜けたばかりなのに、また走り出す。

そんな「お疲れさま」な彼女たちにも、春が来る。

温かくポジティブな風に背中を押されて、彼女たちはようやく頬をゆるめるのだ――。

▶前回:結婚して3年、夫とは仲は悪くないけど、まるで同僚。デートもしてないし夜も…

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由佳子(22) 東京の春と私


― そっか。札幌は、今頃桜が開花するのか。

日曜の夕方、人形町にあるマンションの4階。

Instagramを見ていた由佳子は、どこか誇らしい気持ちで微笑んだ。

北海道札幌市で生まれ育って22年。この春上京して、新卒で中堅商社に入ったばかり。

同期は8人いて、みんな関東周辺出身者だから、由佳子が一番東京に疎い。

それでも由佳子は、ぱっと見たら、自分が一番この街に馴染んでいるのではないかと思っている。

昨日表参道で整えたばかりのミディアムヘア。新宿伊勢丹で買ったワンピース。Diorのコスメ縛りで施した手の込んだメイク。

玄関で鏡に自分を映すと、高揚感に包まれる。

「さ、出かけよう。タクシーで行きたいけれど…電車移動で節約ね」

先日入ったばかりの初任給は、服とコスメ代で一瞬にして消えた。

同期は、親にお酒や家電をプレゼントすると言っていたが、由佳子にはそんな余裕はない。

東京で輝ける女になるためには、資金がいくらあっても足りないのだ。

― 初任給じゃなくて、最初のボーナスで何か親孝行をしよう。

言い訳をしながら、由佳子は日比谷線に乗り込む。今日は、赤坂の鮨店で食事会だ。

先週、別の食事会で出会った34歳・外資系コンサル勤務の啓太。絵に書いたようなハイスぺイケメン男子。

「仲間も連れてくるからおいでよ」と誘ってくれた。

― 早くも私を、パートナーとして仲間たちに紹介してくれるってこと?

由佳子は上京に際して、高校3年生から5年間お付き合いをした同い年の彼氏・徹平と別れたばかりだ。

でも、もう彼のことなどまったく思い出さない。そのくらい東京の暮らしが楽しいのだ。

啓太とは先週会ったばかりだが、毎日LINEのやりとりをしている。

― 真剣に付き合ってくれることになったらいいな…。

車窓に映るまばゆいばかりの自分を見ながら、由佳子は期待で満ち溢れ、鼻歌でも歌い出しそうな気分だ。

赤坂の鮨店に着くと、啓太は既にカウンターに座っていて「こっちこっち」と手招きをした。

他のお客さんが、揃って由佳子を見ている。

「今日は貸切なんだ。みんな、仕事まわりの仲間だよ」

「初めまして、由佳子と申します」

ペコリとお辞儀をすると、みんな愛想よく挨拶をしてくれる。

― みんな、キラキラしている。

5歳から10歳ほど年上の人たち。

ドキドキしながら着席する。由佳子のビールがさっそく出てきて、みんなで乾杯をした。

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由佳子の目がとまったのは、自分以外唯一の女性。

35歳ぐらいだろうか。艶やかな白いシャツに身を包み、ゴールドのピアスをつけている。

― キレイな人。どうしたらこんなふうに上質な雰囲気をまとえるんだろう。

無遠慮に見てしまうと、女性は、首をかしげて微笑んだ。

「由佳子さんは何の仕事をしているの?」

「私は丸の内の商社で…」

言いかけたとき、啓太が「新卒なんだよ。こないだ北海道から上京してきたんだってさ」と補足した。

「そうなのね。じゃあ東京はまだわからないことだらけね。困ったことがあったら、何でも聞いたらいいよ、この辺の人たちみんな人脈もすごいから」

「はい…ありがたいです」

― 啓太さん、ありがとう。先週会ったばっかりなのに、こんなふうに素敵な仲間を紹介してくれて。

由佳子は、自分の運の良さに感動を覚えた。

いくらとウニを使った料理が出てくる。一口食べるとその美味しさに仰天して、ふんぞり返りそうになった。

北海道出身だから、美味しい海鮮には慣れているはずなのに、かつてない感動を覚える。

― たぶん、この雰囲気のせいだ。

東京で、輝かしい人たちに囲まれている自分。それが由佳子の気分をぐっと高揚させる。

食事を堪能して終盤、酔いが回ってきたのか、みんな饒舌になる。マンション投資の話。海外情勢の話。

由佳子は、その3割もよく理解できなかったが、微笑んでいるだけで、啓太はたまにこちらを見て、愛しそうに微笑み返してくれた。

由佳子は自分が頭がいい部類に入るとは思っていない。

それでも「キレイ」…それだけで、この街では一人前になれるのだと思った。

いつの間にか会計は終わっていて、鮨店を出る。

啓太はタクシーを止めて、由佳子を先に乗せ、当たり前のように自分も同乗した。

「まだ飲める?」

優しく聞かれる。由佳子がうなずくと、啓太は、由佳子がずっと憧れていた六本木の外資系ホテルの名前をさらっと口にした。

― ホテル?

まだ覚悟ができていない由佳子は、焦ったように、啓太の表情をうかがう。

啓太は「バーで飲み直そうね」と言った。

その言葉で由佳子は安心し、美しい東京の町並みに目をやる。

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2時間後。

― こんなことになるつもりじゃなかったんだけど…。

バーで飲もうという発言は、嘘ではなかった。

啓太はウイスキーを、由佳子はカクテルを飲んだ。その後、あまりにも当然のように、部屋に連れられてきてしまった。

「どうしよう…」

六本木の夜景が広がる大きな窓。その傍らにあるソファで、由佳子は頭を抱える。バスルームからはシャワーの音がする。

由佳子は、先ほどやや乱暴にキスをされた唇に指を当てた。

― 私は啓太さんのこと、好きになってるかも。

もし、付き合ってくれるのであれば、全然そういうことだって大歓迎だと由佳子は思う。

体はいつもピカピカにしているから、自信がある。ただ問題は、啓太が本当に大切にしてくれるかどうかだ。

― 野暮かもしれないけど、啓太さんに聞こう。

どういうつもりで、こういう流れになったのか。

由佳子はそわそわしながら、ソファから立ったり座ったりを繰り返して、啓太がシャワーから出るのを待った。

柑橘系の石鹸の香りを身にまとって、彼が出てきたのは、およそ5分後。

黒いバスローブに身を包み、「お待たせ」と微笑んだ。

「由佳子ちゃんも浴びておいで?」

ソファの傍らに座り、啓太は、由佳子を見つめる。

― やっぱりこの人、かっこいい。

由佳子は自分の中で熱を帯びるのを感じる。でも、やはり怖い。

「あの」と由佳子は口を開いた。

「啓太さんにとって、私って、何なんですか?」

啓太は表情を崩さずに、首をかしげた。何も言わないので、由佳子は語気を強める。

「その…今夜こんなふうになるって、思ってなくて。私たちって、お付き合いしてるんですか」

啓太は、一瞬キョトンとした顔になって、2回瞬きをした。

「お付き合いできるんなら嬉しいですけど、そうじゃないなら私、こんなこと…」

啓太はにっこりと笑って、先ほどとは違う軽めのキスをしてくる。

「由佳子ちゃんって本当かわいいな」

言葉はないままキスが首筋に落ちてくる。

「あの啓太さん…」

「いいから」

由佳子が反射的に体を離すと、啓太は困ったように笑った。

「いいからさ、楽しもうよ」

その表情に、面倒くささのようなものが含まれているように見えて由佳子は身体を離した。

「…帰ります」

欲しかったのは「楽しもう」とか「いいから」とかそんな言葉ではない。どのくらい自分を好きで、大切にしてくれるか。それが聞きたかったのに。

そんな思いを込めて啓太を見ると、彼は、表情のない顔でこちらを見ていた。

「怖がらせちゃったなら、ごめん」

啓太は、片手に持っていた白いタオルで、頭を拭く。

さっきまでの優しい目が嘘のように、他人行儀に「気をつけてね」と言った。

深夜に帰る自分を心から心配してくれない、そんな彼の目を見るのはつらかった。

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終電で何とか人形町にたどり着いた由佳子は、ほっと一息つき、胸をなで下ろした。

その途端に、涙が出てくる。

悔しいし、傷ついたし、何よりも孤独なのだった。

― 今、徹平の声が聞きたい。

自分が振った元カレに電話をかけるなんてダサいと由佳子は思う。それでも、3月ぶりに連絡先を開く。

5コール目で出た徹平は「どうした?こんな時間に」と言った。

変わらない、少し高めの優しい声。

「徹平、元気にしてるかなーと思って」

「うん。元気にしてるよ」

「そう。仕事はどう?」

「まだわからないことだらけで、何とも言えないって感じかな」

徹平は、地元の銀行に就職した。

「由佳子は、仕事楽しい?東京はどう?」

「まあまあ。…そうだ、ゴールデンウィーク、帰省しようかな。そしたら会ってくれる?」

徹平は困ったような間を置いてから言った。

「えっと…もし、由佳子が前みたいに戻りたいって思ってるんだったら俺は会えないな。実は、今さ、大切にしたい人が現れて」

「…そっか、もう誰かいるんだ。なら、こういう電話をするのももう、最後にする」

テンポよく電話を切る。赤い終了ボタンを押したとき、由佳子はもう後戻りできないことを知った。

人形町の交差点で、立ち尽くす。

東京は、さみしい。由佳子は初めて、東京を悪く思った。

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結局ゴールデンウィークに帰省をするのはやめた。同期のみんながピクニックをしようと言うから、由佳子は日比谷公園に来ている。

上京して1ヶ月少しで東京を嫌いになりかけたが、由佳子は気を持ち直した。

― キラキラした東京の暮らしも、幸せな恋愛も、まだ諦めたくない。

だから今日もまた新調したワンピースに、ブランドのスニーカーを履き、堂々と歩く。

― 東京には、いろいろな女性がいるなあ。

由佳子は日比谷公園にいる人々を見る。

長身イケメンを連れてランニングするモデル風の美女。

赤ちゃんを連れて友達と談笑している母親。

1人で嬉しそうにお弁当を食べている同世代の人。

きっとこの街の幸せには、いろいろなカタチがある。

どういう自分でいるか。それによって、経験できる世界、手に届く世界が目まぐるしく変わっていくのだろう。

幸せを探すことを忘れなければ、きっと自分らしい「お気に入りの世界」にいける。

― 私らしさ…見つかるといいな、この街で。

今は、不安と孤独感が尽きない。

けれども由佳子はちょっとした期待を胸に、東京の中心地を、少し心細そうに歩いていく。

Fin.


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▶1話目はこちら:大学卒業7年で差が歴然。29歳女が同級生に感じるコンプレックス

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