1. トップ
  2. エンタメ
  3. 中条あやみが新境地を開拓…? 感情の乗った脚本の素晴らしさとは? 映画『あまろっく』徹底考察&評価。忖度なしガチレビュー

中条あやみが新境地を開拓…? 感情の乗った脚本の素晴らしさとは? 映画『あまろっく』徹底考察&評価。忖度なしガチレビュー

  • 2024.4.24
  • 914 views
©︎2024 映画「あまろっく」製作委員会
©2024映画「あまろっく」製作委員会
©2024映画あまろっく製作委員会

本作の内容に触れる前に、タイトル通りである「あまろっく」とは何ぞや? と思い、調べてみた。いわゆる「ゼロメートル地帯」である尼崎市。加えて、工業都市であり、大量の地下水が汲み上げられたことで地盤沈下が進み、台風の度に浸水被害に悩まされていたという。

度重なる水害から街を守るために建設されたのが、尼崎閘門、通称「尼ロック」だ。竣工された昭和30年代以降、尼崎市民にとっては“守り神”として鎮座している。

本作の主人公・近松竜太郎(中年期:松尾諭→老年期:笑福亭鶴瓶)は、近松鉄工所の社長でありながら、ほとんど出社せずに街ブラしながら顔見知りと遊んでいたり、家で寝転びながらテレビを見ているだけの毎日。それでも悪びれることなく「俺は“尼ロック”や」と言い続けるのだ。

そんな父親を見て育った一人娘の優子(江口のりこ)は、父を反面教師とするかのように勉学に励み、京大に進み、ボート部でも活躍。その後、東京の大手シンクタンクに入社、成績優秀者として表彰されるほどの優秀な社員となった。そんな優子が男の後輩社員に対し、俗に言う“尼弁”で叱るシーンから、物語は始まる。

後輩を叱った口ぶりがあまりに汚くパワハラとされたのか、優秀過ぎて手に負えなくなったのか分からないまま、ある日突然、理不尽なリストラに遭う。再び尼崎の実家に戻った優子を待っていたのは、父・竜太郎が作った「祝・リストラ」と書いた幕。

娘が傷ついて帰ってきたにもかかわらず、赤飯を炊き、「人生に起こることはなんでも楽しまな」という言葉で出迎える。母親は、優子の大学時代に早世しており、竜太郎は独身生活を楽しんでいた。

おちょくられたと感じた優子は、尼崎駅前でおでん屋台を営む同級生の鮎川太一(駿河太郎)に愚痴をぶつける。

©2024映画「あまろっく」製作委員会
©2024映画あまろっく製作委員会

そこから8年、39歳となった優子は、実家でニート生活を送っていた。そこに突然、竜太郎が再婚すると言って、20歳の早希(中条あやみ)を連れてくる。年下の早希を新しい母とは認めたくない優子は、事あるごとに早希に反発し、いさかいが絶えない。

近松家がピリついた雰囲気の中、悲劇が起きる。健康のためにジョギングを始めた竜太郎が倒れ、そのまま亡くなってしまったのだ。

葬儀を終え、優子と早希が話し合う。優子は、まだ若い早希に、近松家から出て、自分の人生を生きるよう勧める。しかし早希は、竜太郎の遺志を継ぎ、鉄工所の新社長として近松家に残ると告げる。さらに早希は、竜太郎との子どもを身籠っていたのだ。

一方、優子にも、人生のターニングポイントを迎えようとしていた。一度はお見合いを断った、大手プラント企業勤務のエリートサラリーマン、南雲広樹(中林大樹)からアプローチを受け、デートを重ねていく。そして、突然のプロポーズを受けるのだ。

しかし、そのプロポーズには問題も含まれていた。南雲はアブダビへの転勤が決まり、優子に同行してもらいたいというのだ。それは、身重の早希を独り残し、近松家を後にするということを意味する。

悩み抜いた末、優子が近松家の自宅と鉄工所を売りに出すことを決意する。既に不動産会社との契約書を作成し、後は早希の署名捺印を待つだけだが、早希はその提案を断固として拒否する。

竜太郎、優子、生まれてくる子ども、そして鉄工所の社員たちという「家族」を壊したくなかったのだ。そして早希は優子に、自身の不幸な生い立ちを語り出す。近松家は早希にとって、人生で初めて得た「家族」だったのだ。

©2024映画「あまろっく」製作委員会
©2024映画あまろっく製作委員会

大黒柱を失った鉄工所を必死の思いで立て直そうとする早希。しかし不幸は続く。鉄工所を支える熟練の職人である高橋鉄蔵(佐川満男)が、倒れてきた鉄骨から早希を守ろうとして重傷を負ってしまう。

鉄蔵がいなければ、製造ラインはストップし、納品できなくなってしまう。早希は責任を感じ、身重の体で工場に入り、追ってきた優子にたしなめられる。早希は鉄工所という家庭を守ろうと必死だった。

入院中の鉄蔵を見舞った優子。そこで鉄蔵から、知らなかった父・竜太郎の別の顔を知らされる。それは、阪神淡路大震災の時、三日三晩寝ずに人命救助に奔走し、それでも救えなかった命があったことに絶望し、泣きながら帰宅する姿だった。

チャランポランな父の姿しか知らなかった優子は衝撃を受け、ある決意をする。それは父・竜太郎の残した「俺は“尼ロック”」という言葉の意味を示すものだった…。

監督を務めた中村和宏が、構想から6年がかりで作り上げ、キャストも関西出身者にこだわったとあって、セリフ回しにわざとらしさが全くなく自然で、所々に挿入される阪神電車の風景が物語に味わいを加えている。

やや“変化球的”なハッピーエンドに終わるストーリーだが、「家族劇」という軸があるだけに、スンナリと受け入れられるものだった。

©2024映画「あまろっく」製作委員会
©2024映画あまろっく製作委員会

江口のりことともにダブル主演を務めた中条あやみは、イギリス人の父を持つハーフのため、“関西色”を全く感じさせない俳優で、大阪の公立高に進学(その後、芸能活動のため東京の高校に転校)したという経歴は、意外なものだったし、本作での役柄も、これまでのものとはテイストが異なるもので、新境地を開拓する演技だった。

さらに、笑福亭鶴瓶と駿河太郎の共演も本作のポイントの1つだ。2人が絡むシーンはなかったものの、2011年の「ヤマキのめんつゆ」のCM、テレビドラマ『半沢直樹』(2013・TBS系)以来の共演で、映画での共演は初だ。

『ディア・ドクター』(2009)、『閉鎖病棟-それぞれの朝-』(2019)に主演し、俳優のみならず、MC、タレント業と大忙しの鶴瓶と、音楽活動を経て、数多くの映画やテレビドラマへの出演で、俳優として順調にキャリアを積み重ねている長男の駿河、いつか2人が俳優として演技合戦を繰り広げるシーンが見たいと感じる人は多いだろう。

この作品を見るまで、正直のところ、尼崎という街に良いイメージを持っていなかった。それはかつて、出身者であるダウンタウンが、地元のガラの悪さを笑いのネタにしていたことも大きい。

しかし、本作で描かれた尼崎は、人情味あふれるアーケード街があり、海があり、洒落た公園があり、真っ白なお城もある美しい街だ。それらの場所でロケが行われ、かつ、そのロケ地をエンドロールで案内している演出がまた憎い。

そしてその中心には、尼崎市民を守り続け、加えて、その存在が映画人の思いに至らせるまでの「尼ロック」がある。キャスト陣の名演、感情の乗った脚本、ロケシーンの美しさが相まって、スッキリと心地良い気分にさせてくれる作品といえる。

(文・寺島武志)

【作品概要】
監督・原案・企画:中村和宏
脚本:西井史子
出演:笑福亭鶴瓶、江口のりこ、中条あやみ、松尾諭、中村ゆり、中林大樹、駿河太郎、紅壱子 久保田磨希、浜村淳、後野夏陽、朝田淳弥、高畑淳子、佐川満男
音楽:林ゆうき、山城ショウゴ
製作:池邉真佐哉、小西啓介、藪内広之、小林栄太朗、奥田良太、宮沢一道
エグゼクティブプロデューサー:首藤明日香、小西啓介、渥美昌泰
プロデューサー:辻井恵子、岩﨑正志
特別協賛:阪神電気鉄道株式会社
特別協力:兵庫県、尼崎市
協賛:TC神鋼不動産、中島商店、レンゴー
製作:「あまろっく」製作委員会
製作幹事:MBS、ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:MBS企画
配給:ハピネットファントム・スタジオ
主題歌:「アルカセ」ユニコーン(Sony Music Labels Inc./ Ki/oon Music)
2024年/日本/119分/カラー/シネスコ/5.1ch
©2024映画「あまろっく」製作委員会

 

元記事で読む
の記事をもっとみる