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アートの視点から「気候危機」や「メンタルヘルス」を考える、新しい学びの世界「TOTAL ARTS STUDIES」

  • 2024.4.23
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展覧会鑑賞風景 (アーティゾン美術館、2023年)

この講座「TOTAL ARTS STUDIES(以下、TAS)」は、いわゆる社会人が学べる教養としての一般的な美術史の講座ではない。「気候危機」と「メンタルヘルス」という、現在全人類が抱えている複雑きわまりない社会問題に対し、様々な時代を生きてきたアーティストたちがどう向き合ってきたかを論じ、参加者とともにディスカッションをするという先進的な講座だ。TASのプログラムディレクターを務め、インストラクター(講師)としても参加するロジャー・マクドナルドはこう語る。

「Arts Initiative Tokyo(AIT)では、2001年頃から教育プログラムを継続していますが、2020年に大きく方向性を提示して『TOTAL ARTS STUDIES』というプログラムを始めました。その方向性というのは、『気候危機(環境問題)』と『メンタルヘルス(ケア、ニューロダイバーシティ)』です。この2つの問題については、コロナが始まる少し前の2018年頃から、AITの活動としても積極的に取り組んでおり、様々なアートプロジェクトやリサーチプロジェクトを行っており、それを学びに反映させた感じです。

特徴としては、私たちはアートの専門家ですので、その専門性を活かしつつ、今の社会課題にどうアートが関係しているかをみんなで考える場になったら嬉しいなと思います」

フィールドトリップの様子(Fenberger House)
フィールドトリップの様子(Fenberger House)。photo by AIT
展覧会鑑賞風景 (アーティゾン美術館、2023年)
展覧会鑑賞風景(アーティゾン美術館、2023年)。photo by 阪本勇

マクドナルドは、アートと神秘宗教学を学んだ幅広い知見を活かし、いわゆる教科書に載っているような「美術」や「アート」とはまったく違う切り口でアート作品や作家について、そして作家と社会のつながりについて語る。今回のアート講座のひとつ「TASラボ」は、3つのシリーズに分かれ、それぞれでゲスト講師を招き、対話型で様々な体験をしながらレクチャーが行われるという。

「気候危機やメンタルヘルスという、世界中の人類が抱える問題について、ダイレクトに考えてみることももちろんできます。でも、僕はアートを一回通過しながら、何か他のものを反射させてそうした難しい問題を考えることで、より自分のものになるという部分がある気がしています。

例えば、私が担当するレクチャーでは、美術の歴史を振り返りながら気候危機を考えてみようと思っています。気候変動というのは産業革命から始まったと言われていますが、当時の画家が描いた絵を見ながら、アーティストの目を通して、当時の気候や環境、風景について考えてみたいなと。

それは時代によって変化してきた“○○主義”や絵画や彫刻の技法を学んでいくような、いわゆるスタンダードな美術史とは全然違う。いわゆるキュレーションされた美術史。なので、美術関係の仕事をしている人でも、違った視点で美術の歴史が見られる面白いレクチャーだと思います」

TOTAL ARTS STUDIES2023 秋冬プログラム「脳と心を遊泳する芸術体験」レクチャーの様子
TOTAL ARTS STUDIES 2023 秋冬プログラム「脳と心を遊泳する芸術体験」レクチャーの様子。Photo by AIT

また、ゲスト講師も多彩だ。小説家の小野正嗣、美学者の伊東多佳子、現代魔女の円香が名を連ねる。小野や伊東は美術との関係を想像できるが、現代魔女とアートとはどんな関連があるのか、マクドナルドに尋ねた。

「最初に円香さんにお会いしたのは、実はブルータスの企画だったんです。その対談がすごく面白くて、30分話す予定が2時間以上になってしまい(笑)。今回の講義は『ニュー・アース・スピリチュアリティ:魔術とアース・アクティヴィズム』というタイトルなんですが、もともと魔術とエコロジー運動は近いところにあって、今の時代は真面目な話で魔女の出番。

魔女というのは、歴史のなかでもずっと自然界との関係性をつくってきた人たちなので、そうした視点から円香先生とはお話できればと思っています」

代官山AITルームでのレクチャーの様子
代官山AITルームでのレクチャーの様子。photo by Yukiko Koshima
オンラインレクチャーの様子
オンラインレクチャーの様子。

また、ロジャー・マクドナルドは、以前に著書『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』という本を上梓している。その中では、単なる歴史や技法といった知識だけではなく、自身の感覚を最大限に用いて作品を観察する「Deep Looking(人間の意識を拡張する深い観察)」というものの見方を提唱している。彼の講義では、その技法や実践についても触れられ、一緒に作品の世界へ深くダイブすることが期待できる。

「気候危機」や「メンタルヘルス」という、一人で考えているだけでは頭の痛くなる問題を、歴史をひも解き、過去のアーティストたちや自然と関連が深い人たちの知見に触れ、「Deep Looking」を通して作品を体感する。対面の授業でしか得られない、まったく新しい知的な体験が待っているだろう。TASでは、対面アート講座「TASラボ」のほかに、オンラインでより気軽に学べるアート入門講座「TASオープン」も募集を開始している。

TOTAL ARTS STUDIES(TAS)Labo

期間:
・シリーズ1 5月16日(木)、5月23日(木)、5月30日(木)、6月6日(木)
・シリーズ2 6月13日(木)、6月20日(木)、6月27日(木)、7月4日(木)
・シリーズ3 7月11日(木)、7月18日(木)、7月25日(木)、8月1日(木)

時間:19:00〜21:00(120分/レクチャー75分+ティー&コーヒー・ディスカッション45分)

場所:代官山AITルーム

回数:各シリーズ 4回(全12回)※1シリーズごとに参加可能

定員:各シリーズ 16名

料金:各シリーズ 39,600円(税込)※オンデマンド・アート講座「TASプレミア」付(24レクチャー / 視聴期限なし / 13,200円相当)。全シリーズ申し込みの方にはセット割引もご用意しています。

申し込み締切:シリーズ開始の1週間前

*各シリーズの最終日には交流会を開催予定です。
*料金には、セッション代のほか、オンデマンド・アート講座「TASプレミア」、ドリンク・お菓子代が含まれています。

ゲスト(敬称略):小野正嗣(小説家、早稲田大学文化構想学部教授)、伊東多佳子(富山大学 芸術文化学部 准教授)、円香/Madoka(現代魔女、VR/XRアーティスト)

インストラクター:ロジャー・マクドナルド(TOTAL ARTS STUDIES プログラム・ディレクター/フェンバーガーハウス館長)、堀内奈穂子(AITキュレーター/ディア ミーディレクター)、塩見有子(AITディレクター)

Information

AIT ロゴ

AIT

HP:https://www.a-i-t.net/events/

profile

ロジャー・マクドナルド(キュレーター)

東京都生まれ。幼少期からイギリスで教育を受ける。インディペンデント・キュレーターとして様々な展覧会を企画・開催、アートの教育プログラムに携わる。AITでは、設立メンバーの一人として、現代アートの学校MAD(Making Art Different)やTAS(TOTAL ARTS STUDIES)のプログラムディレクションなどを担当。著書『DEEP LOOKING 想像力を蘇らせる深い観察のガイド』発売中。2024年4月より「平和と手仕事多津衛民藝館」(長野県佐久市)館長に就任。
HP:fenbergerhouse.com

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