「メシマズ」とは?
「作るメシがマズイ」の意。ネットの世界では「味が極端にマズイ」「見た目も味もひどい」など、激しいものを指すことが多いですが、この連載では「料理歴はそこそこあるのに味が微妙・たまに成功するけれど、だいたいおいしくない」といった意味で使用しています。
【登場人物】
教えてくれるのは…
料理研究家
小田真規子さん
著書やテレビ出演多数! 長年第一線で活躍しているプロ中のプロ。料理初心者にも寄り添ってくれる、手取り足取りなレシピに定評あり。
教わるのは…
エディター オギ
料理歴は大学時代から一応10年以上の独身アラサーエディター。健康や美容に興味はあるが、基本ズボラ。
マンガでわかる「サバの味噌煮」の作り方
「魚料理」ってハードル高すぎじゃないですか?
オギ
メシマズにとって、肉以上にハードルが高いのが魚。なかでも問題なのが煮魚なんです。
小田先生
生臭さが残ったり、煮崩れしたり、煮魚は難しいイメージがありますよね。
オギ
そうなんです! 和風でも洋風でも、煮ると骨から身がはがれて煮崩れたり、皮だけペロンとはがれてしまったり、身がパサついたり、煮汁が消失したり……。いま一つ仕上がりが安定しません。
小田先生
失敗知らずの煮魚のコツは、次の3つです。
1.臭み対策をきっちり行う
2.20cmのフライパンを使う
3.みりんを多めに使う
オギ
フライパンのサイズとみりん多めに使うのは、かぼちゃの甘煮と一緒ですね!
小田先生
素材は違えど、「味をしみ込ませる」「煮崩れさせずに煮姿を美しく仕上げる」という点では共通していますからね。
オギ
どうにか煮魚をマスターして、「この煮崩れた魚、とっとと食べて証拠隠滅しなきゃ!」と、慌てて咀嚼する……という状態から、どうにか脱却したいと思います!
小田先生
安心してください。今回もメシマズさん仕様の和風煮魚の王道「サバの味噌煮」レシピを用意しました! 最小限の手間で、美しくおいしく仕上がりますよ。
*サバの味噌煮*
■材料(2人分)
サバ:2切れ(200g)
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水:1/2カップ
みりん:1/4カップ
醤油:大さじ1
砂糖:大さじ1(甘め好みなら大さじ2)
酢:大さじ1
味噌:大さじ3
長ネギ:1/2本(50g)
ショウガ:1かけ
■作り方
1 サバはキッチンペーパーで水気をしっかり取り除き、1cm幅の切り目を入れる。海水にいる魚は肉以上に水分が多く、これが臭みの元になるので、とにかくしっかりふき取っておくこと。
2 長ネギは5cm長さに切る。ショウガは千切りにする。
3 直径20cmのフライパンにAを加えて中火で煮立て、1と長ネギを入れる。
4 スプーンなどで煮汁をかけ、そのままブクブクを継続し中火で6~7分煮る。
5 煮汁をかけながら、さらにとろみが出るまで2~3分煮る。最後にショウガの千切りを加え、火を止める。
【生臭さ対策】煮る前に、徹底的に拭く!
小田先生
まずはサバの臭み対策をしていきます。サバの脂は酸化しやすく、臭みが出やすい魚。臭みのもとになる水分やヌメリ、血合いをキッチンペーパーできちんと拭き取りましょう。
オギ
思った以上に時間をかけて、全体を丁寧に拭き取っていくんですね。私はいつも表面を何となくひと拭きするか、何ならパックから出してすぐ煮てしまうことも……。先生のお手本を見るまでこんなにきっちりやるとは思ってもみませんでした。
小田先生
海水にいる魚は、臭みのもとになる水分が肉以上に多いんです。だから、パックから取り出してすぐに調理するのはやめたほうがいいですね。
オギ
煮ればなんとかなると思っていました(笑)。
小田先生
まあ、なんとかなるかもしれませんが、このひと手間で臭みが取り除けるので、できればやってほしいです。
小田先生
次は、皮目に飾り包丁を入れます。1cm間隔で縦に入れましょう。深さは身の半分ほどを目安に。深く包丁を入れなくてもOKです。
オギ
あれ? バッテンにしないんですか? それに包丁はそこまで深く入れないんですね。「骨に当たるまで包丁を入れる」とよくレシピに書いてあるので「そこまで切っていいの?」と思いながら、恐る恐るやっていました。たぶん、それが煮崩れの原因になっている気が……。
小田先生
飾り包丁を入れる目的は、火通りと味が染み込むのを阻む皮を切って、身が煮汁に触れるようにすること。だから、飾り包丁の形はなんでもいいし、骨の当たるところまでやらなくても大丈夫です。バッテンでもいいのですが、今回はより簡単な形にしました(笑)。
オギ
ありがたいメシマズ仕様です。
小田先生
飾り包丁を入れたら、もう一つの臭み対策をしていきましょう。長ネギ、ショウガ、味噌も臭みを消す効果があるんです。
小田先生
ネギは5cmくらいの長さに切って……
小田先生
ショウガは皮をむいて千切りにします。
オギ
ショウガはいつも薄切りにしていました。千切りと薄切りで違いはあるんでしょうか?
小田先生
最初から入れて煮る場合は薄切り、仕上げにのせてショウガのパンチを効かせたいときは千切りがいいですね。
オギ
言われてみれば確かに。そんな違い、意識したことありませんでした。
小田先生
何度も耳タコかと思いますが、料理は理論。切り方一つにも理由があるんです。
サバの味噌煮、成功の秘訣は「多めのみりん」
小田先生
では、煮汁を作っていきましょう。今回は20cmのフライパンを使います。
オギ
20cmのフライパン、思いのほか万能ですね。
小田先生
1〜2人分の煮物には、このサイズがぴったりなんです。今回のレシピは、カボチャの甘煮のときと同様、みりん多めにしてあります。魚の煮物もみりんをたくさん使った方が煮崩れを防ぎやすくなるんです。みりんには、味の染み込みをよくしたり、臭みを取る効果もあります。
オギ
一つで何役もこなすんですね。なんてありがたい調味料!
小田先生
火にかける前に、まずフライパンに水、みりん、醤油、砂糖、酢を入れていきます。
オギ
酢も入れるんですか? 意外です。
小田先生
酢は臭みを取ってくれるだけでなく、味にキレを出してくれるんです。
オギ
サバの味噌煮って、甘ったるく感じるときもあるので、確かに合いそうですね。
小田先生
味噌を後から入れるレシピもありますが、今回は他の調味料と一緒に最初にまとめて入れます。
小田先生
調味料は、ここでしっかり混ぜておきましょう。味噌がダマになったまま煮立てると、溶け残ってしまうので、火にかける前にしっかり混ぜて溶かしてくださいね。
小田先生
味噌がしっかり溶けたら、中火にかけて煮立てます。
小田先生
複数の調味料を使うと、調味料同士がなかなか混ざり合いません。それらを煮立てることで一体化し、まとまりが出ます。また、みりんには、アルコールが含まれているので、それを飛ばすためにも煮立てる必要があるんです。
オギ
アルコールを飛ばす……よくレシピにも書いてありますが、なぜ飛ばす必要があるのでしょうか?
小田先生
アルコールが多いと、特有の香りや苦味が残りやすいんです。
オギ
味に影響するんですね!
小田先生
プクプクと煮立ったら、皮を上にしてサバを投入します。煮立ったところに入れることで表面が固まり、サバ特有の生臭さやクセが出にくくなるんです。
オギ
下処理や使う食材・調味料だけでなく、調理工程にも生臭さを抑えるコツがあるんですね。全然知らなかった……。
小田先生
サバは生臭くなりやすいので、あの手この手で封じ込めるんですよ。煮立った状態をキープしたまま、ネギを加えます。
小田先生
サバをフライパンに入れたら、この状態でまず6〜7分ほど煮汁がプクプクとした状態のまま煮ます。魚を煮る時間はだいたい「10分以内」と言われています。10分以内なら身が硬くならず、ふっくら感が保てるからです。
オギ
味噌って煮立てても大丈夫なんでしたっけ? 以前、味噌汁の作り方の回で、「味噌=煮立てると風味が飛ぶ」と教わったような気が……。
小田先生
おお。よく覚えていましたね。みりんに多く含まれているアルコールは、水に比べて沸点が低いので、100℃以下でも沸騰します。また、蓋をしていないので、煮汁の温度が一気に上がる心配もないんです。
オギ
料理って本当に科学ですね。あと、煮汁からサバがはみ出ているのですが、どうやって味を染み込ませるのでしょう?
小田先生
サバをひっくり返すと煮崩れの原因になるので、スプーンで煮汁をすくって上からかけてあげましょう。
オギ
……煮汁をすくいかけながら、6~7分ずっと見張っていなければいけないんでしょうか?
小田先生
5分くらいなら煮詰まらないので、5分タイマーをかけておけば、ちょっとくらい目を離しても問題ないですよ。
オギ
そろそろ6分経ちますね。
小田先生
これはお好みですが、長ネギに歯ごたえを残すならここで取り出しましょう。クタクタの食感が好みなら、そのままでも。
小田先生
ここからさらに2~3分煮立てます。
オギ
サバに照りが出て、ふっくらしてきました!
小田先生
この照りは、煮汁をしっかり沸騰させているからこそ出せるもの。沸騰させることで、みりんに含まれる糖が水分と結びつき、煮汁の粘度が増すんです。粘度のある煮汁だとサバの表面に留まりやすくなり、照りが生まれます。
オギ
みりんって煮崩れも防いでくれるわ、照りも出してくれるわ、何役もこなしてくれるすごい調味料なんですね。
小田先生
さらに、粘度のある煮汁のほうが熱の入り方がゆっくりなので、ふっくら柔らかく仕上がります。そろそろトータルで10分ほど経つので、ショウガを加えます。
オギ
皮も無事で、身もちっとも欠けてない……。私のボロボロに煮崩れた味噌煮と全然違う!
小田先生
最後に長ネギを戻して完成です。
完成!
オギ
ふわっとした柔らかい食感! 自分で作ると、いつも身が硬くてパサパサしているのに……。味もコクがあるのに甘ったるくなく軽やか! ショウガもいい働きしてくれてます。
小田先生
甘めの味付けが好みなら、砂糖を大さじ2に増やしてもOK。味噌を入れずに、醤油を大さじ2にすれば、サバの煮つけが作れます。
オギ
味噌煮のレシピを応用すれば、煮つけになるんですね。「応用」なんてメシマズには考えられない技です。メシウマに一歩近づけた気がします(笑)。
【今回の学び】「みりん多め」の効果がすごすぎました
みりんを多めに使うだけで煮崩れナシ、ふっくらツヤツヤに仕上がるとは! 高価な調味料を使わなくても、みりんを多めに使い、煮る時間をちゃんとコントロールするだけで、ごちそうが作れることがよくわかりました。あと、サバはもちろんなんですが、感動したのがちょっと歯ごたえのある長ネギ。適度な噛みごたえに感動しすぎて絶賛していたら、小田先生に「(サバじゃなくて)そっち?」と突っ込まれることに。もちろんサバも美味でしたが、クタクタの長ネギしか知らなかったので、衝撃が大きすぎました(笑)。
次回予告:アクアパッツァ
撮影/国井美奈子 監修/小田真規子 イラスト/大窪史乃 取材・文/伊藤彩子