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知られざる短編から名作映画まで。「隠れ家シネマ」イベントレポート

  • 2024.4.19

心地よい春の風が吹く3月下旬、「キノ・イグルー」とコラボした野外上映会「隠れ家シネマ」の第2回を開催しました。新しい映画との出会いや、屋外ならではの映画体験も。イベント当日の様子をお届けします。

都心の美しい夜景を一望。マンションの屋上が映画館に

第1回に引き続き「隠れ家シネマ」の会場となったのは、東新宿の地に構える賃貸マンション「コンフォリア東新宿」。都心の美しい夜景を一望できる屋上庭園にスクリーンを設置し、映画を鑑賞します。

今回の「隠れ家シネマ」は2日間にわたって開催。全国のカフェや公園、美術館などで映画上映を行うユニット「キノ・イグルー」の有坂塁さんが、このイベントにぴったりの映画を選んでくださいました。

参加者の方々は、アルコールを含むドリンクやフードを持ち込めます。周りを気にせず、好きなものを飲み食いしながらゆったり映画を鑑賞するのも、野外映画の楽しみの一つです。

1日目は短編映画を上映。作品のセレクトに込めた想いとは

開始時刻を迎え、いよいよイベントがスタート。有坂さんがマイクを手に取り、今回のイベント概要や、作品を選んだ想いを説明します。

1日目に有坂さんがセレクトしたのは、9本の短編作品。「アニメーション、実写映画、それと映画とはちょっと違ったタイプの映像も流す予定です。気持ちのいい風を感じたり、おいしいものを食べたりしながら、 伸びやかな空間で心地よい時間を過ごしてほしいという気持ちでセレクトしました。ぜひお気に入りを見つけてほしいですし、自分では絶対に出会えなかった作品と出会うきっかけにもなってほしいな。ということで、これから簡単な解説付きで上映したいと思います」と有坂さん。作品名は事前に明かされていないので、どんな作品に出会えるのか、期待が高まります!

いよいよ上映スタート!屋上だからこその臨場感

1本目はスウェーデンのアーティスト、オーレ・エクセルのイラストを用いた短編アニメーション『オーレ・エクセル イン モーション』から。朗らかで心温まるストーリーと可愛らしいイラスト、バックに流れる軽快なジャズミュージックが、場の雰囲気を温めます。

続いて上映されたのは、モノクロのサイレント長編映画『ロイドの要心無用』の抜粋。「高層階で観てこそ、この映画の良さが生きるんじゃないかなということで選んでみました」と話しながら有坂さんが映し出したのは、主人公が高層ビルの時計の針にぶらさがっているシーン!ビルの屋上に吹く風を感じながら鑑賞すると、臨場感もひとしおです。今にも足を滑らせてしまいそうな、ハラハラドキドキのアクションシーンを、参加者の方々は固唾を飲んで見守っていました。

続く作品は、オードリー・ヘップバーン主演の名作『シャレード』。ただし、上映するのは本編ではなく、本編の前にキャストやスタッフの名前を流すタイトルデザインと呼ばれる部分です。「通常のタイトルデザインは情報を本編に被せて終わりですが、まれに、まるで一つの短編映画のように作り込まれたものがあります」と有坂さん。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、『サンキュー・スモーキング』と、印象的なタイトルデザインが3本続きます。今まで意識したことがなかった人にも、タイトルデザインの世界を知るきっかけを与えてくれたパートでした。

タイトルデザインのあとは、アメリカを代表する映画監督、スパイク・ジョーンズ監督が自主制作したショートショートを上映。忙しい合間に撮影されたという遊び心のある映像と、予想外の展開に、客席からはどよめきや笑いが起こります。

大事なのは、カルチャーとの“出会い方”をクリエイトすること

1日目も終盤に差し掛かり、残る上映作品はあと2本。日本アニメーションの先駆者といわれる大藤信郎の短編アニメーション作品『ちんころ平平玉手箱』は、100年ほど前に制作されたモノクロ作品です。むしろ新鮮味さえ感じるような、シュールな描写やコミカルな動きに、参加者皆で声を上げて笑う場面も。

最後の作品は、なんと映画ではなくコンサート映像。世界的に活躍した指揮者・小澤征爾さんがドイツで行った、野外コンサートです。有坂さんが見せてくれたのは、昼から夜まで続いた長丁場のコンサートで最後を飾った楽曲「ベルリンの風」。観客が音楽に合わせ、体を揺らしながら自由に楽しむ姿が映し出されます。さまざまな短編映画を鑑賞しながら、参加者皆が時間を共にしてきた「隠れ家シネマ」の会場の一体感とリンクして、会場は大きな拍手に包まれました。

「今の時代は音楽、映画、本など、とにかく素晴らしいものに溢れています。ただ、“どういう風に出会うか”というのがとても大事で、これからの時代は出会い方をクリエイトしていくことが必要です。 どのように、場所やシチュエーションに合わせて届けていくか、おすすめしていくか。 それだけで人生さえも変えてしまう可能性があるというのが、カルチャーの持つ力ではないかなと思います」

そう言った有坂さんは「映画館にできない場所はありません。 今日の『隠れ家シネマ』が、皆さんの日常の中で映画のことを考える一つのきっかけになってくれたらうれしいです」という言葉で、1日目を締めくくりました。

2日目は長編映画。外の音に耳を澄ますのも、野外上映の醍醐味

2日目の上映作品は、モーガン・フリーマンとジャック・ニコルソン、名優2人によるヒューマンドラマ『最高の人生の見つけ方』。「屋外で映画を見ることが今日初めてという方はいらっしゃいますか」と有坂さんが投げかけると、ほとんどの参加者が手を挙げました。

「屋内の映画館と屋外とでは、環境がまったく違います。たとえば、耳を澄ますと車の音が聞こえてきたり、上空を飛行機が通ったり、救急車のサイレンが聞こえたり。そういった音は映画館であればノイズになりますが、屋外の場合は、それも含めた映画体験になります。今日は風も少し吹いていますが、 屋外で映画を観ていると、映画の世界と現実世界がリンクすることも起こるんです。 ぜひ映画に集中しながらも、時には風を感じたり、空の星を眺めたりしてみてください。それらも含めて楽しんでいただけると、より特別なイベントになるかなと思います」

この日上映するのは長編映画。短編映画を何本も上演した1日目とはまた異なる雰囲気の中、上映が始まりました。

映画の中盤で、有坂さんの言葉を実感する出来事が。主役の2人がスカイダイビングに挑戦するシーンで、会場の上空をヘリコプターが通り過ぎたのです。映画の映像と現実世界のプロペラ音が見事にリンクし、驚いて上空を見上げる方や、ほかの参加者と目を見合わせて微笑む方の姿も見られました。

上映時間は97分。ストーリーや俳優の演技に引き込まれて没頭していると、あっという間に映画は終盤に差し掛かり、クライマックスでは涙を流す方も。会場全体が温かい空気に包まれながら、無事終映しました。

映画の新たな楽しみ方を見つけるきっかけに

キノ・イグルーのイベントでは、上映した映画が気に入ったという方に向けて、さらにおすすめの作品を2本紹介しているそう。『最高の人生の見つけ方』と同じく、バディものの作品が2本紹介され『隠れ家シネマ』は2日目も幕を下ろしたのでした。

参加した方々から話を聞くと「普段忙しくてなかなか映画を観る機会がないのですが、改めて映画っていいなと思いました」「非日常な時間を楽しめて、リラックスできました。次も機会があったらぜひ参加したいです!」などのうれしい声が。忙しい日常の中でも、それぞれが映画との向き合い方を考えたり、新たな映画の楽しみ方を見つけたりするきっかけになったようです。

writer / Sheage編集部 photo / 三保谷 洋平

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