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『デザインのひきだし』編集長・津田淳子の仕事を支える、本棚と本の話

  • 2024.4.18
『デザインのひきだし』編集長・津田淳子

見て、手に取って、触りたい本を置く

こんな印刷・加工をやってみたい。グラフィック社から刊行されている雑誌『デザインのひきだし』を手に取ると、頭の中でムクムクと夢が広がる。多彩な紙、めくるめく印刷加工、製本の最新情報が、実物の見本とともにわかりやすく提示される豪華な誌面は、印刷デザインの専門誌にもかかわらず、紙の本が売れない時代にあって毎号完売御礼という盛況っぷりだ。

創刊よりこの雑誌の編集を手がけ、出版界で誰よりも印刷に詳しいと評される編集長の津田淳子さんは、「私が常に興味のあることを徹底的に調べて載せているだけなので、『デザインのひきだし』は“同人誌”も同然」だと言う。

そんな津田さんのデスク周りはきちんと整頓されていた。デスクの奥は過去に制作したバックナンバーがずらりと並び、各号で制作した付録である各社の紙見本や、紙厚比較早見表は、自身でも単行本を制作する際によく使うので、いつでも取り出しやすい位置に置いてある。デスクの背後にある2段がメインで活躍している本棚だという。ざっと見たところで100冊程度だろうか。意外にも少ない。

「蔵書のほとんどは自宅に置いてあるので、会社には企画を考える時に使う本や造本、印刷の参考になりそうな本を置いています」

『デザインのひきだし』編集長・津田淳子の本棚
デスク背後の本棚。紙や印刷、貼函(はりばこ)、書体の専門書に並び『どんな草でも紙になる』(大日本図書)は、友人の子供にも贈るくらい好きな本。
『デザインのひきだし』編集長・津田淳子
奥にずらりと並ぶ『デザインのひきだし』は一番よく使う実用本だ。

変わった印刷加工をしている本は、内容に興味がなくても買う。紙の風合いや加工の面白さ、製本の妙などは実物を手にしなければわからないからだ。書籍の企画を立てる際に一番よく見るのが、『印刷美術大観』である。

「テレビもインターネットもない当時、印刷って情報伝達をするうえで最新のテクノロジーだったんですよね。天皇の一筆が記されていたり、肖像が掲載されたりすることからも、重要産業であったことがわかります。目次には“オフセット十一度”“活版細工四度”等と書かれているんですが、ルーペで覗きながら、どう刷っていたのかと想像したり、今ならどういう印刷で再現できるかを考える。幸せな時間です」

紙の本を愛するデザイナーたちが絶大な信頼を置く雑誌の背後には、ルーペ片手に印刷物の仕組みを徹底的に調べる彼女の姿があるのだ。

紙の本が好き♡と再確認する3冊

『印刷美術大観』島屋政一/編
「インキも印刷技術も今は消えてしまったものも多く、見ているだけでため息が出ます」。昭和7(1932)年版を古書店で購入。日本全国の印刷会社による見本帳。当時の技術を愛で、現代への活用を考える。大阪出版社/品切れ。
『厄除け詩集』井伏鱒二/著
「『サヨナラ』ダケガ人生ダ」等の名訳がつけられた17編の詩。漢詩を独自の解釈と言葉のリズムで自由闊達(かったつ)に訳した一冊。「好きで文庫本も持っていたが、初版本は文字組みや色などに著者の思いが伝わってくる」。木馬社/品切れ。
『書痴斎藤昌三と書物展望社』八木福次郎/著
1920年~30年代頃、ミノムシのみのやシラカバの木の皮を表紙に使うなど、変わった本を出版した斎藤昌三の仕事と書痴たちの交遊録。「高価な稀覯本(きこうぼん)ではなく数千部流通する本をつくっていたことに共感します」。平凡社/品切れ。

津田さんの手がけた本

『デザインのひきだし』グラフック社/編
『デザインのひきだし』2023年10月刊行の50号は、特集「現代日本の印刷加工大全」。日本全国の印刷加工会社がつくった実物サンプル176種を収録。活版印刷、シール印刷等、多種多様な印刷加工とその方法が紹介される。グラフィック社/3,520円。

profile

『デザインのひきだし』編集長・津田淳子

津田淳子(『デザインのひきだし』編集長)

つだ・じゅんこ/1974年神奈川県生まれ。編集プロダクション、出版社を経て2005年、グラフィック社入社。07年に紙や印刷加工、印刷技術を深掘りして紹介する専門誌『デザインのひきだし』を創刊した。
X:@tsudajunko

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