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アメリカで「お金に興味のない野球少年」の印象広まる…在米記者が見た大谷翔平の本当の強さ

  • 2024.4.17
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アスリートでありながらセレブとなった大谷翔平。なぜ、グラウンド外の一挙手一投足もここまで注目されるのか。『米番記者が見た大谷翔平』(共著/朝日新書)を刊行したばかりのジャーナリスト・志村朋哉さんは、「批判される機会も増えるのがアメリカでセレブになる宿命」という――。

カージナルス戦、ベンチで笑顔を見せるドジャースの大谷翔平=2024年3月28日、アメリカ・ロサンゼルス
カージナルス戦、ベンチで笑顔を見せるドジャースの大谷翔平=2024年3月28日、アメリカ・ロサンゼルス
球界唯一のセレブとなって

アメリカ人口第2位の大都市ロサンゼルスは、「エンタメの都」と呼ばれる。そのロサンゼルスの象徴ドジャースに移籍した大谷翔平は、良くも悪くもエンゼルス時代とは比べ物にならないほど世間の注目を集めている。

実際、シリーズ開幕と同時にグラウンド外のニュースで日々洗礼を受けたが、逆境の時こそ、その人の本質が表れるという。まさに今年は大谷の第二幕の年となるだろう。

ドジャースのユニフォームを着るまでを振り返ってみよう。

昨年12月に自身のインスタグラムで移籍を発表してから、大谷はシーズン前から世間を大きく賑わせた。

北米スポーツ史上最高となる総額7億ドル(約1000億円)での契約は、米メディアでスポーツの枠を超えるニュースとして扱われた。スポーツに興味がない層にも、「超大金持ちの野球選手」として認知されるようになった。大谷がアメリカの野球界で唯一の「セレブ」になった瞬間といえるかもしれない。

2月末には、またもインスタグラムにて自身の結婚を電撃発表。アメリカでは、日本のような騒ぎにはならなかったが、それでも米球界では異例なことに、地元やスポーツのニュースとして取り上げられた。

オオタニ観の日米の温度差

そして、3月の韓国での開幕戦シリーズの真っ最中に起きた「水原事件」。ダグアウトで談笑する大谷と水原一平通訳の姿が中継に映った第1戦の後に、ドジャースが水原を解雇したという衝撃のニュースが流れた。3週間後には、連邦地検が水原を訴追したと発表。訴状によると、違法スポーツ賭博で4000万ドル(約62億円)以上の負けが生じた水原が、大谷の銀行口座からブックメーカーに1600万ドル(約24億5000万円)以上を無断で送金していたという。

大谷を公私ともに最も近くで支えてきた水原の違法賭博疑惑は、セレブの街ロサンゼルスにぴったりなスキャンダルである。ドジャース移籍以上に米メディアで大きく取り上げられた。

日本とアメリカでは、こうした大谷の話題に対しての反応に違いがある。

結婚について言えば、突然SNSで結婚を発表して、会見を開いたにもかかわらず、奥さんの素性を明かさなかった大谷の言動を不思議に感じたアメリカ人は多かった。

アメリカでは、有名人に恋人や配偶者がいるのは当然との認識があり、当事者たちもそれを隠したりはしない。私生活をSNSで公開するのも珍しいことではない。だから、婚約や入籍をしても、わざわざ会見を開いて発表するということもない。

「アメリカ人からすると、『何を隠しているんだ、本当にいるのか、何かおかしい』と思ってしまうかもしれない」とロサンゼルス・タイムズでコラムニストを務めるディラン・ヘルナンデスは言う。

ネタとして面白い「陰謀論」

「水原事件」については、連邦地検が捜査を明らかにするまでは、「大谷の説明を完全には信じられない」というアメリカ人は多かった。

なぜ水原が大谷の銀行口座にアクセスできたのか。なぜ450万ドルもの額が送金されたことに、大谷も周囲の人間も気づかなかったのか。ほとんどの記者やファンが、疑問に感じている。

ドジャースの本拠地開幕戦で20人ほどにインタビューしたが、ドジャースファンでさえ、大谷の話を100パーセント信じていると答えた人はいなかった。

スポーツファンやコメンテーターには、「賭博を行っていたのは大谷で、水原も野球界も大谷をかばおうとしている」という陰謀論を持ち出すものすらいた。何の根拠もないが、その方が「球界最大のスターにまつわるネタとして面白い」からだろう。

日本人にとって大谷は、老若男女問わず誰もが知る国民的スターである。メジャーリーグという世界最高峰の舞台で頂点に君臨する大谷は、日本人にとって憧れであり、誇りを感じられる存在なのだ。それに、日本では、グラウンドのゴミを拾ったとかファンやスタッフに「神対応」したとか、大谷の一挙一動が報じられ、多くの国民が大谷という人間を少なくとも「知った気」にはなっている。

その大谷に「完璧」な存在であってほしいと願い、大谷が嘘なんてつくはずがないと思うファンが日本に多いのは当然のことだ。

しかし、アメリカでの大谷は、トップアスリートとして尊敬は集めるが、ファンが自身を重ねて誇りを感じるほどの存在ではない。

ドジャー・スタジアム
※写真はイメージです
「本当に大谷は賭けていないの?」

大谷の人間性も世間にあまり伝わっていない。スーパースターにしては、メディア露出が少なく、あまり取材にも応じてこなかった。アメリカ人にとっては、通訳を介してしか話を聞けないため、性格をイメージしづらい。プライベートについても、ほとんど語らないので、「ミステリアス」との印象を持たれている。

そういう背景もあって、アメリカのほうが今回のスキャンダルに関して、ニュートラルな見方をしている人が多いのは間違いない。

実際、何人もの友人たちから、「本当に大谷は賭けていないの?」と聞かれた。「そんな風に大谷を見るなんて不謹慎だ」と日本人は思うかもしれないが、何の思い入れもない有名人が似たようなスキャンダルに巻き込まれたら、同じような好奇の目で見てしまう可能性はある。

検察によると、水原は電話で大谷になりすまして銀行に送金を許可させたり、代理人を騙して大谷の口座を管理できないようにしたりしたという。こうした情報を検察が発表したことで、大谷の説明に納得するファンは増えた。

ホームランボールでの摩擦

さらに、大谷が3月3日(米時間)に放ったドジャース移籍後初となるホームランをめぐっても、ちょっとした騒動が起きた。

記念ボールを拾ったアンバー・ローマンさんが、「夫と引き離され、スタッフに囲まれた状況で、ボールを持って帰るのなら本物認証をしないと言われ、即決を迫られた」と球団の対応に不満を漏らしたのだ。結局、サイン入りのボールとバット、帽子2個と引き換えたという。大谷にも対面できなかった。

批判を受けたドジャースは、ローマンさんと夫をVIP待遇で本拠地での試合に招待して和解した。大谷はローナンさんと対面し、サインや写真撮影に応じた。球団は記念ボールの回収方法も見直すと発表した。

また、大谷がホームラン直後の囲み取材で、「まあ戻って、ファンの人と話して、ハイ頂けるということだったので、ハイまあ僕にとってはすごく特別なボールなので、ありがたいなと」とローマンさんに直接会ったとも受け取れるような説明をして、ウィル・アイアトン通訳が「僕がファンの方と話して、ボールを返してもらうことができました」と英語に訳したため、米メディアには混乱が起きた。大谷とローマンさんの発言の食い違いを受けて、「大谷は嘘つき」と批判したり、賭博疑惑と絡めたブラックジョークをSNSに書き込んだりする他球団のファンすら現れた。

これらの騒動や事件が大きな話題になったのは、大谷がアメリカで「セレブ」としての地位を確立したことの裏返しでもある。記念ボールの件などは、大谷以外の野球選手だったら、ニュースにすらなっていないだろう。

こちらに向けて指をさす人
※写真はイメージです
7億ドル稼ぐ選手を快く思わない人も

今や大谷は、日本だけでなく、アメリカでもその発言や一挙一動を注目される存在になりつつある。アメリカで、ここまでの地位に上り詰めた日本人は他に思いつかない。

人種や価値観が多様なアメリカには、国民全体が一体となって応援するようなスターは存在しない。注目度が高まれば、批判される材料も増える。人気が出るほどアンチの数も増える。大谷と同じロサンゼルスでプレーするNBAのレブロン・ジェームズや、NFLの名クォーターバック、トム・ブレイディといったトップアスリートもそうである。「スターの宿命」とも言えるだろう。

大谷のドジャース移籍は、野球界全体にとってみれば朗報と言えるが、脅威と感じる他球団のファンもいる。金に物を言わせて大型補強を行うドジャースが「悪の帝国」として映ってもおかしくない。自分の贔屓球団を選んでくれなかったことや嫉妬心などで、大谷を恨む野球ファンもいる。実際、古巣エンゼルスの球場では、大谷の映像が大型ビジョンに映って大きなブーイングが起きた。格差の激しいアメリカ社会で、一人のアスリートが7億ドルを稼ぐことを快く思わないアメリカ人もいる。

「最も偉大なアスリート」の資質

これまでの大谷はプレーで魅せていれば、アメリカのファンも満足していた。しかし、大都市ロサンゼルスの名門球団で7億ドルを稼ぐ「セレブ」となった今は、グラウンドの内外で厳しい視線が向けられることになる。

些細なことが大きなスキャンダルとして扱われるかもしれない。それを苦痛に感じる日本のファンもいるだろうが、現実として受け入れるしかない。

前出のジェームズやブレイディは、メディアやアンチの批判に晒されながらも、在籍チームを優勝に導き続け、「最も偉大なアスリート」に名を連ねるようになった。大谷にも同じ資質がある。WBCで日本を優勝に導く姿を見て、筆者はそう感じた。

実際、「水原事件」があったことなど微塵も感じさせない好スタートを切った。記者の質問にも、いつもと変わらぬ様子で淡々と答えている。

活躍を支えている「冷たさ」

大谷はインタビューで自分のことを他人事のように語る。

自身を客観視し、感情を切り離すことができるのだ。

「冷たさ」を感じることもあるが、このメンタリティーが大谷の活躍を支えていると筆者は分析する。

野球は9人が9回をめまぐるしく戦い、逆転はいつ何時でも訪れる。どんなに良い打者でも3回に2回は失敗し、運が結果を左右することも多い。思えばこれほど思い通りにいかないスポーツはないかもしれない。

これからもいくつもの波を乗り越えていくことで、これまで「謎」とされていた大谷の人間性がアメリカ人にも伝わっていくだろう。実際、「水原事件」によって、「お金に興味のない野球少年」のイメージはアメリカにも広まった。

全米のメディアやスポーツファンが野球に注目するポストシーズン。大谷はそこで活躍してドジャースを優勝に導き、さらなるスターの階段をかけ上がることができるのか。

今年もメジャーリーグから目が離せない。

山の頂上に立つ人
※写真はイメージです

志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト
1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』、共著に『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。

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