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朝晩2回だけで"突然死リスク"を下げられる…上皇陛下の執刀医が「座りがちな人」に勧める生活習慣

  • 2024.4.17
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突然死のリスクを下げるにはどうすればいいか。外科の名手として知られる天野篤さんは「多くの研究で心拍数が高い人は突然死しやすいことがわかっている。朝晩の腹式呼吸は、適度な運動になるうえ、平均心拍数を安定させるのにも効果的だ」という――。

※本稿は、天野篤『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー/講談社)の一部を再編集したものです。

呼吸する人のイラスト
※画像はイメージです
座りがちな人の“運動量”は「7未満」…

心臓にとっては、安静な状態よりも、適度な運動が有益であることはよく知られています。2021年2月に公表されたデンマークの研究でも、「運動によって突然死のリスクを低くできる」と報告されています。

たとえば、1週間の総エネルギー消費量に基づいて、身体活動が中程度の人は、座りがちな人と比べて心筋梗塞後の突然死リスクが33%低く、身体活動が高度の人は同じく45%も低下していました。

こうした身体活動の強さを国際的には、1週間当たりの運動量の強さを「メッツ(METs)」という単位で示しています。通常、座って安静にしている状態が1メッツで、普通歩行が3メッツとのことです。

「身体活動が中程度の人」は、1週間当たりの「メッツ」が「16.1~32」とされていますが、「座りがちな人」になると同様の「メッツ」は「7未満」と減ってきます。

逆に、「身体活動が高度な人」では「メッツ」が「32超」と数値でも明らかになるのです。厚労省の「健康づくりのための身体基準」でもこの「メッツ」が示されていて、60分の普通歩行、または30分の軽いジョギングが「3.0メッツ」とされています。これを1週間続けた場合は「3.0メッツ×7=21.0メッツ」になり、紹介した研究における中程度の身体活動の範囲に該当します。

やはり、適度な運動は心臓病の予防効果があるのです。

呼吸法で運動不足を解消

心臓にトラブルを抱えている人はもちろん、発症前で生活習慣病がある段階の患者さんに対する予防においても適度な運動は大切ですが、コロナ禍を契機に外出が減り、運動量が激減している人も多いことでしょう。そんな状況でおすすめしたいのが「呼吸法」です。

よく知られたものでは、俳優の美木良介さんが考案した「ロングブレス」という呼吸法が流行したことがありました。「鼻から強く吸って、口で長く吐く」を繰り返す呼吸法です。筋肉を効率的に増やして脂肪を減らす効果があると話題になり、今も高い人気があります。

こうした呼吸法はほかにもたくさんあって、どれを実践すればいいのかわからないという人も多いでしょう。そんなときに覚えておいていただきたいのが、心臓の健康を維持するためには「腹式呼吸」が効果的であるということです。

朝晩の腹式呼吸で心臓突然死を防ぐ

われわれが日常で行っている呼吸は「胸式呼吸」と呼ばれ、胸を動かします。いっぽう、腹式呼吸は胸をあまり動かさず、胸腔と腹腔を区分している横隔膜を上下に動かして、お腹を大きく膨らませたりへこませたりする呼吸です。横隔膜を大きく動かすため一度に吸う量が多くなり、肺にどんどん血液が送られて血流がよくなります。肺の血流が促進されると、その分、心臓も活発に動くことになり鍛えられるのです。

腹式呼吸のやり方はいくつもありますが、ひとつ具体例を紹介します。まず、背筋を伸ばしてイスに座り、お腹に手を当てたまま鼻からゆっくり大きく息を吸い込んでお腹を膨らませます。次に口からゆっくり長く息を吐き出し、お腹をへこませます。吐くときは吸い込む際の倍くらいの時間をかけて行います。3秒かけて息を吸ったら、6秒かけて吐き出すイメージです。これを5回ほど繰り返すのを1セットにして、1日朝晩2回行うとよいでしょう。

腹式呼吸は、心臓に適度な負荷をコンスタントにかけられるので心臓突然死の予防効果があるとされています。また、日頃から呼吸法を行っていると呼吸が整うため、多くの場合で平均心拍数が低くなります。いくつもの研究報告で、心拍数が高い人は突然死しやすいことがわかっています。その点からも腹式呼吸は心臓の健康維持に有益といえます。

インナーマッスルも心臓の味方

腹式呼吸によって内臓を包んでいる「インナーマッスル」が鍛えられることも心臓によい影響を与えます。インナーマッスルは深層筋と呼ばれ、脊椎や骨盤を支え姿勢保持などにかかわっている深いところにある筋肉です。姿勢や関節の安定性を高めるだけでなく、呼吸にも関係しています。

心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割を担っています。インナーマッスルを含めた全身の筋肉は、心臓から送り出される血液を受け取る側で、それがしっかり活動していると血圧が安定するなど心臓の負担が減るのです。

さらに、腹式呼吸をお風呂などの湿度の高い場所で実践すると効果が高くなります。好みの香りのアロマオイルなどと組み合わせると副交感神経が優位になる効果も期待できます。副交感神経が優位になると、心拍数が抑えられ、血管が拡張して血圧も低下するのです。

呼吸法で心臓の健康管理をする場合、日頃から心拍数=脈拍数を計測して把握しておくことをおすすめします。また、血中の酸素飽和度を計測するパルスオキシメーター(経皮的動脈血酸素飽和度測定器)があれば、腹式呼吸を何回行うと最大値に到達するかを確認しておくといいでしょう。

腹式呼吸をどのくらいのスピードで何回行えば心拍数と酸素飽和度が安定するのか。いろいろと試しながら実践すれば自分にとって最適な呼吸法が見つかります。心臓を守ることにつながりますし、体に突然の負担がかかった際にも身を守る余力を与えてくれます。

パルスオキシメーターで血中の酸素飽和度を測っているイラスト
※画像はイメージです
コロナワクチン接種後に病気が見つかることも…

ところで新型コロナウイルス感染症は、2023年、感染症法上では5類感染症となりましたが、高齢者にとってはまだまだ用心すべき感染症です。

これまで無料で実施されてきた日本のワクチン接種は今後、季節性インフルエンザと同じように、希望者が一部負担金を支払っての接種となる模様ですが、新型コロナウイルス感染症の発症や重症化を防ぐ効果があるのは間違いなく、現時点ではウイルスから自分の身を守る最善の手段といえるでしょう。

いっぽうで副反応の報告が増えているのもたしかで、ワクチン接種後に心血管障害、脳血管障害、血栓症が確認されたケースも見られます。今のところワクチン接種との因果関係はわかっていません。

ただ、ワクチン接種による免疫反応などで高熱が出ることを見ても、一部の方には健康被害に属するダメージを与えている可能性もあります。何分、mRNA(エムアールエヌエー=メッセンジャーアールエヌエー)という“タンパク質の設計図”の入った遺伝子情報を投与するタイプの集団接種ワクチンは、新型コロナワクチンがはじめてなので、副反応も手探り状態なのです。一部の方でこれまでは表面化していなかった心臓や血管のトラブルが、ワクチン接種をきっかけに表に出てしまった可能性も考えられます。

コロナワクチン
※写真はイメージです
ワクチン接種後に血圧上昇を訴える人が増えた

実際、「ワクチン接種後に血圧が上がった」という患者さんが増えています。

また、大動脈解離で救急搬送される患者さんも、これまでは1カ月に1件あるかないかだったのが、多い月では2~3件に増えていた印象です。大動脈解離は前ぶれなく血管が裂けて解離し、1度目の発症で突然死する危険がある疾患です。血圧が高く、上行大動脈(心臓から出て上に向かう動脈)が太くなっている人に多く見られます。

そんな大動脈解離の患者さんが増えているのは、コロナ禍の巣ごもり生活で血圧の管理が不十分になっていることに加え、ワクチン接種による血圧上昇が引き金になっているケースもゼロとは言い切れません。しっかりした調査と解明が必要です。

そうはいっても、ワクチンは新型コロナから命を守る有効な手段です。だからこそ、心臓や血管にトラブルが起こる可能性もゼロではないと想定して対策を講じたうえで、ワクチン接種に臨むのが理想的といえるでしょう。

血圧を日頃から定期的に測る生活習慣を

まずは心臓ドックなどの検査を受けて、自分の体の基礎データをきちんと把握しておくことが重要です。

天野篤『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー/講談社)
天野篤『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー/講談社)

心臓血管系では心電図、心エコー、心臓CTの3つの検査で正常なのか異常があるのかどうかがわかります。これにプラスして頭部MRIで脳血管の状態を確認しておけば安心です。血管トラブルが起こったときに命にかかわるのは心臓、脳、大血管ですから、検査を受けて自分がそれぞれどんなリスクを抱えているのかをチェックしておきましょう。

また、血圧を日頃から定期的に測り、把握しておくことも大切になります。先ほどもお話ししましたが、ワクチン接種後に血圧が上がるケースが多く見られます。

病院で計測した場合、「上の血圧(収縮期血圧)120mmHg未満/下の血圧(拡張期血圧)80mmHg未満」が正常の範囲です。それが、ワクチンを接種したあとの計測で前ぶれなく上の血圧が180程度、または下の血圧が130程度まで上昇する人が少なくないのです。この数値は、放置しておけば3年ほどで人工透析が必要になるようなレベルです。ですから、日頃から血圧を測って数値を把握しておき、ワクチン接種後も含めて上が180、下が110を超えるようなら、すぐに医療機関で診てもらってください。そういう人は、ある日突然、血管や心臓のトラブルを起こす“素養”があるということです。

血圧を測っているイラスト
※画像はイメージです

天野 篤(あまの・あつし)
心臓血管外科医
1955年、埼玉県蓮田市に生まれる。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)、新東京病院(千葉県松戸市)などで心臓手術に従事。1997年、新東京病院時代の年間手術症例数が493例となり、冠動脈バイパス手術の症例数も350例で日本一となる。2002年7月より順天堂大学医学部教授。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに執刀した心臓血管外科手術数は1万例を超える。主な著書に、『熱く生きる』『100年を生きる 心臓との付き合い方』(オンデマンド版、講談社ビーシー)、近著に『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)、『天職』(プレジデント社)がある。

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