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長谷川博己の演技に鳥肌…今季最高の注目ドラマ、滑り出しの評価は? 日曜劇場『アンチヒーロー』第1話考察&感想レビュー

  • 2024.4.16
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『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
アンチヒーロー第1話より ©TBS

長谷川博己が主演の日曜劇場『アンチヒーロー』(TBS系)の第1話が、4月14日に放送された。長谷川は『小さな巨人』(2017)以来、7年ぶりの日曜劇場で主演を務める。

【写真】ドラマ『アンチヒーロー』劇中カット一覧

長谷川が演じる主人公は、刑事裁判において、被疑者である犯罪の証拠が完全に揃っているにも関わらず、殺人犯を無罪にするというダークな弁護士だ。

放送前から、番組CMで長谷川演じる弁護士が「殺人犯になった時点で、あなたの人生は終わります。あなたを無罪にして差し上げます」と不気味に語り掛けるシーンが強烈な印象を残し、個人的にも放送開始が待ち遠しかったドラマだ。

役作りにあたって、実際の裁判を傍聴したという長谷川は本作について、「かなり切り込んだドラマだと思います。こんなことを日本のテレビでやっていいのかと思うような、問題作になるんじゃないかというぐらい」と強調。

続けて「法治国家である日本において、やはり法が全てなのだろうか?果たして、何が正義で何が悪なのか、自分自身もよくわからなくなってきました」とも語っている。

本作は、単なる“法廷ドラマ”の枠を超え、長谷川演じるアンチヒーローを通して、“正義とは何か”、“世の中の悪とされていることは本当に悪いことなのか?”を世に問いかけ、次々に常識が覆されていく展開だ。

日常のほんの少しのきっかけで、正義と悪が入れ替わり、善人が悪人になってしまう前代未聞の逆転パラドックスエンターテインメントとなっている。

事前情報は極力伏せられ、発表されていたのは、長谷川演じる主人公が明墨法律事務所を経営する「明墨正樹」であることと、同僚弁護士役の北村匠海など主要キャスト5人。

さらに、“殺人犯を無罪にする弁護士のドラマ”という大まかな内容のみ。その他の40人にも上るキャストが一挙に公表されたのは放送開始の約10日前。しかも、その役名まで一切明かされないまま第1話の放送を迎えることになった。

『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
アンチヒーロー第1話より ©TBS

主演の長谷川が番組宣伝に同局の他番組に出演した際、詳しい内容について問われても「言えないことが多いんです…」という徹底ぶりで、その様子は、2023年7月から同枠で放送され、社会現象にもなった『VIVANT』を彷彿とさせるもので、否が応でも視聴者の興味をそそるものだった。

実際、本作は『VIVANT』に関わったスタッフやキャストが数多く名を連ねている。

こうしたPR戦略は、『VIVANT』のみならず、映画『君たちはどう生きるか』(2023)でも採用され、結果、作品は大ヒットしたものの、仮に作品自体が、そのプロモーションに見合うものでなかったら、逆に反感を買いかねない諸刃の剣だ。TBSもそれを承知の上で、それほどまでに本作に絶対の自信を持っているということだろう。

事前公開された予告映像では、長谷川が「あなたを無罪にして差し上げます」と語るシーンに加え、「あやまちを犯してもやり直せる。日本はそんな優しい国とでもお思いですか? 殺人犯になった時点であなたの人生は終わります」と自信たっぷりにまくし立てるシーンも映し出している。どちらも説得力は十分だ。

日本の刑事裁判での有罪率は99.9%といわれる中、「犯罪の証拠が100%揃っていても無罪を勝ち取る」という、ほぼ不可能なことを、どのように達成するのか…。その脚本に注目が集まっていた。

そんな中で始まった第1話。東京拘置所の面会室から始まる。明墨は、依頼人の容疑者に「あなたは人を殺しましたか?」そしてこう加える「殺人犯として生きることは、どういうことだと思いますか?」と問う。そして、前科者に寛容さのない現実を説き、弁護を引き受ける。

『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
アンチヒーロー第1話より ©TBS

容疑者の緋山啓太(岩田剛典)は、職場の社長・羽木朝雄(山本浩司)からの苛烈なパワハラによって殺害に至ったとされ、証拠も十分に揃っていた。しかし、明墨は「証拠は多ければ多いほどいい」と、謎めいた言葉を放つ。同僚弁護士の赤峰柊斗(北村匠海)は、その言葉の意味が分からず困惑する。

明墨らは、弁護士バッジを外し、第一発見者の尾形仁史(一ノ瀬ワタル)に接触する。この時点で弁護士としてのモラルに反した反則ギリギリの行為だ。しかし、これを手掛かりに事件の真相に迫っていく。

99%“クロ”の殺人容疑者をどう無罪に持っていけばいいのか。明墨は弁護士としての矜持を説く。検事は証拠を集めて有罪にする一方で、弁護士とは、その証拠を一つひとつ潰していくことだというのだ。

確かにその通りだ。司法の原則である「推定無罪」が、この国で機能しているとは筆者には思えない。そして弁護士もまた、検察側が作った“ストーリー”を覆そうとする気骨がある職人肌が少ない現実がある。

その点、明墨は依頼人にとことん寄り添い、無罪を勝ち取るためには手段を選ばない。彼にとって犯行の有無などどうでもよく、検察との“ゲーム”を楽しんでいるようにさえ見える。

『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
アンチヒーロー第1話より ©TBS

明墨はなんと被害者の息子を第1回公判に証人として呼ぶという裏技に出る。「来るわけない」と高をくくっていた検察側は、これに激しく動揺。

被害者遺族でもある湊少年は、同僚弁護士の紫ノ宮飛鳥(堀田真由)の質問に正直に答え、その言葉によって、検察側の証拠が次々と否定され、裁判員の心象は一気に逆転する。

明墨は、被害者遺族への接触、第一発見者の行動調査など、法律には反しないものの、“ルール無用”の調査を続ける。昼も夜もなく、24時間体制で動き続けているのだ。

その中で、第一発見者の尾形が怪しいと読んだ明墨らは、尾形に近付き、お酒を飲ませた上に、お金まで渡し、“貸し”を作る。
第2回公判で証人に立った尾形だったが、明墨が作った巧妙な“無実ストーリー”に乗せられることになる。

尾形が難聴であることまで証明し、これによって、緋山と羽根木は口論していたという証拠も潰される。尾形は“話が違う”とばかりに検事の姫野(馬場徹)ら検察側の席に襲い掛かり、公判は中断を余儀なくされる。

『アンチヒーロー』第1話より ©TBS
アンチヒーロー第1話より ©TBS

難聴という障がいまでも裁判に利用された尾形は、裁判所の廊下で明墨にも襲い掛かる。しかし明墨は「弁護士とは依頼人の利益のために尽くす、そのためには障がいでも利用する」と意にも介さない。そして別れ際、障がいのせいで職を転々としていた尾形に、これまでクビにしてきた勤務先を訴えるようアドバイスするのだった。

第3回公判で、検察は新証拠として鈍器を提出する。しかし明墨は、緋山との面会で「ハンマーをなくした記憶はおありですか?」と問うところで、波乱のうちに第1話は終わる。

公判の行方が、ドラマの中心に置きながら、明墨の娘であるがゆえに、危険に晒されながら生活する紗耶(近藤華)、過去にいたはずの妻の存在、さらには明墨から手紙をもらいながらも獄中で絵を描き続ける謎の男(緒形直人)も、ストーリーにどのように絡んでくるのか気になるところだ。

第1話から主役級キャストを配し、重厚な法廷劇を見せた本作。それでも第1話では40人以上とされるキャストのほんの一部しか登場していない。

この後、どのように展開が広がっていくのか、そして、明墨正樹とは、いかなる人間で、何を目標としているのか…。今季最高の注目ドラマとなりそうだ。

(文・寺島武志)

 

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