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発達障害で集中力の続かない息子が偏差値50台から麻布中学に合格した勉強法

  • 2024.4.13

今春、偏差値50台だった息子さんが、受験決断後わずか2か月で麻布中学に合格して話題となった元テレビ東京アナウンサーの赤平大さん。息子さんが発達障害で、またギフテッド(※1)であることでも注目を集めました。ADHD(※2)の特性で集中の維持が困難なため、学習塾には通えず、1日の勉強時間は1時間程度が限界だったという息子さん。いったいどのような方法で麻布中学に合格をされたのか、小学校6年間、息子さんの登下校から習い事すべてに帯同し、文字通り“二人三脚”でサポートをし続けた赤平さんにお話を伺いました。※1 ギフテッド……特定の学問や芸術性、創造性、言語能力などにおいて、同世代の子どもよりも著しく高い能力を先天的に持った人のこと。高IQであることが多いが、「イコール勉強ができる」わけではない。またギフテッドと発達障害を併せ持っている子どもを“twice-exceptional(=二重に特別な)”の略で“2E(トゥーイー)”と呼ぶ。この場合、得意なことと苦手なことのギャップが大きいため、生きづらさを抱えていることが多い。赤平さんの息子さんも“2E”。※2 ADHD……注意欠如・多動性障害。不注意、多動性、衝動性の3症状を主な特徴とする。これら3つの特徴が同時にすべて現れるわけではなく、“不注意”が目立つ場合、“多動性”や“衝動性”が目立つ場合、またすべてを併せ持つ場合など、人によってさまざまな形で現れる。

受験2か月前の12月、息子が突然「麻布中学に行きたい」と言い出した

もともとは発達障害に手厚い横浜の私立中学を受験する予定でした。それが12月に「麻布中学校に行けるなら、行ってみたい」と息子が言い出したのです。受験まであと2か月足らずのタイミングでした。息子が麻布を知ったのは、元麹町中学校校長で現・横浜創英中学校・高等学校校長の工藤勇一さんの「息子さん、麻布中が合うと思いますよ」というアドバイスがきっかけです。工藤校長とは2015年に私が麹町中の学校改革のお手伝いをした縁で知り合い、息子の発達障害やいじめ被害を相談する中で、息子にも何度も会っていただきました。そして息子が小4の2020年、上記の一言を言われたのです。そのときの私は「麻布中」は聞いたことがあっても難度は知らず、過去問を購入して算数のむずかしさにそっと本を閉じてしまったほど。そして過去問を購入したことすら忘れていたのですが、息子はそれがきっかけで麻布中学校の存在を知り、彼の中で「すごい学校」「憧れる学校」になったようです。

ADHDの薬を服用し、なんとか1日1時間の勉強を続けていた

「麻布に行けるなら行きたい」発言の出た2022年12月。日能研模試の偏差値は4日に受けたものが56、24日は55で、どちらも麻布中の合格判定は「再考の必要あり」でした。息子はADHDとASD(※3)の特性が強めに出ているのと、ややLD(※4)と発達性協調運動障害(※5)の傾向があり、また同時に高IQでもあります。※3 ASD……自閉スペクトラム症。「対人関係や社会的なやりとりの障害」「こだわり行動」という2つの基本特性がある発達障害。※4 LD……学習障害。知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」などの能力に困難が生じる発達障害。※5 発達性協調運動障害……「不器用症候群」とも呼ばれる。箸やはさみを使うのが苦手、ひもが結べない、階段の上り下りがぎこちないなど、日常生活やスポーツにおける協調運動に支障が生じる障害。ADHDの特性「多動、衝動、注意欠如」を和らげるために、“コンサータ”というADHD薬などを服用していましたが、午前6時に服薬すると午後15時には効果が切れてしまいます。下校後は多動、衝動が出てしまい勉強に集中することがむずかしいため、塾には通えず、代わりに朝6時半からの1時間が息子の勉強時間。早朝の自宅学習を1年生のときから毎日コツコツ積み重ねていました。しかし、「麻布に行きたい」という意思表示があってからは状況が一変。1日1時間の勉強時間をどうしたら2時間にできるか、どうしたら濃度を上げられるか。合否に関係なく「全力で限界突破する経験」をして欲しいため、私が蓄積してきた発達障害に関する知見をフル活用しました。多くの学術論文や書籍、有識者のみなさんの「巨人の肩の上に乗る」戦略的な受験サポートです。MBAで学んだ知識と実践のサイクルも本気で活用しました。結果、1日1時間の集中が限界だった息子が、発達障害の特性でもある「過集中」を発動させ、1日5時間の集中が可能になっていったのです。

ホワイトボードを使って勉強スケジュールなどを「見える化」

受験に限らず1年生のときから、論文や専門家の話の中で良さそうなものがあればすべて試してきました。その中の1つがホワイトボードとキッチンタイマーです。ホワイトボードはうちに3枚あって、「見える化」のために使います。発達障害者には「見通しの苦手さ」というのがあるので、次に何をやるかがわかっていないとストレスになってしまうんですね。そしてそのストレスは勉強の邪魔にもなる。なので、「6:00〜6:30 ○○○、6:30〜7:00 △△△」とその日のスケジュールと勉強する範囲を簡単に書いておきます。それを勉強机に置いておくことで、見通しが立たないストレスを排除しました。また「見える化」することで、注意欠陥の子の忘れっぽさもカバーできます。ただこれは、うちの息子が視覚優位だから有効なのですが、聴覚優位な子どもにはまた違う適したやり方があると思います(※6)。※6 視覚優位と聴覚優位……目から入る情報と耳から入る情報を脳で処理する際に、「どちらかの方が記憶に残りやすい」ことは誰にでもあるが、発達障害者の場合、その割合が極端なことがよくある。

赤平さんが自宅で使用していたホワイトボードとタイマー

2枚目のホワイトボードは、勉強の説明をするときに書いてあげた方がわかりやすいので、そのために使います。3枚目は長期のスパンでやらなければいけないことを書いていて、こちらはリビングに置いています。「見える化」は発達障害の対応の初歩なので、忘れ物防止であれば、必要な持ち物を書いて玄関に置いておくなども効果があります。ただ大切なのは、どんな場合でも毎回同じ場所に同じものを書くということです。うちの場合は「ホワイトボードのここには時間、ここにはやるべきこと」という風に決めていて、ボードを置く場所も一定です。決めてあげれば毎回そこを見るようになりますが、毎回場所が違うと意識が飛んでしまってストレスになってしまいます。

タイマーは特殊な2個使いで、自分ひとりで集中力を維持できるように

タイマーは2個使いです。1つは30分、もう1つは1分という風に使います。何のためかと言うと、飛んでしまった集中力を戻すためですね。30分の方のタイマーは「30分間やろうね」という意味です。けど、1分間タイマーは1分ごとにうるさく鳴るわけです。息子の場合は1分間でも集中し続けるのがむずかしいので、アラームが鳴ることによって「はっ!」と目を覚まさせるというか。集中が切れていることに気づかせるためのタイマーです。勉強中、親がずっと横についているわけにはいきませんので、自分でタイマーをセットして、鳴ったら止めて、また1分タイマーをスタートさせてから勉強を続けます。タイマーセットを忘れてしまうこともありますけど、親からすれば、音がしていなかったら「忘れてるな」と気づくことができます。親が大変だと続けられなくなっちゃうので、親の負担をいかに減らすかということは重要視しています。このやり方だと必要なときだけ親が行けば良いので負担は少ないですね。病院の待ち時間など、スキマ時間に勉強することも習慣づけてきましたが、持ち運んでいるものはコピーした問題とバインダー、あとは鉛筆と消しゴムだけです。立体算数を学習するために空間アプリを使ったことはありますが、それ以外は普通にアナログな方法をコツコツと続けています。結局、サスティナブルなやり方が一番効果的だと思うんですね。家事育児と同じで、掃除を年に数回ドカンとやるのは大変だけど、毎日ちょっとずつやると楽だよねと、そういう発想です。

抽選のガラガラを使って勉強へのモチベーションを高める

発達障害の人は「報酬系回路が弱い」と言われます。報酬系回路とは、簡単に言うと「勉強が終わったらゲームしていいよ」ってやつです。親からするとうまく人参をぶら下げて勉強させたいんですが、この方法は「対価がないとやらない人間になってしまうから実は良くない」とも言われています。そこで、僕がいろいろ調べた結果、たどり着いたのが「抽選のガラガラ」を使う方法でした。これは小学校1年生か2年生の頃からずっと使っていて、うちの息子にはすごく合っていましたね。具体的に使い方を説明すると、「何時から何時までのこの範囲を終えたら星1個」と決めます。星1個につき、抽選は1回。「抽選して赤が出ればゲーム10分、青だったら5分、ゴールドだったら30分できます」「星がたまればたまるほどガラガラできる回数が増えるから、星を集めよう」という訳です。もちろん1日のうちにゲームができる時間の上限はあって、「60分を超えた場合の星はお父さんが買い取ります。お小遣いにします」と決めるんです。例えばですけどね。これは何を意図しているかというと、偶然性を誘発しているんです。つまり「勉強した=ゲームができる」ではない。ゲームできる確率は高まるけれど、ガラガラは必須。子どもは星を取りたいし、こっちも星を取らせたいのだけど、勉強と報酬がイコールでつながっていないから、「がんばったから何かがもらえる」とはなりにくいんですね。星のあげ方も工夫しまして、勉強だけだと4科目しかないので、星も4つしか取れません。そうするとモチベーションの維持がむずかしいので、家の手伝いをそこに入れたり、「姿勢良くご飯をこぼさないで食べられたら星2個」と生活の中での困りごとを入れたり、やる気を落とさないようにしていました。だんだん「星は取るけど結局ゲームはしない」っていうことも増えましたが、今でもガラガラはやっていますね。6年生くらいになると目的がだんだん明確になってきて、「受験が近いしゲームしている場合じゃない」って気持ちもあったのかもしれません。でも、この方法は非常に効果的だったと思います。息子さんが発達障害と診断されてから、発達障害の理解を深めるために論文を500本以上読み、民間資格を4種取り、ついには動画メディア『incluvox(インクルボックス)』まで立ち上げた赤平さん。息子さんへの愛情と、サポートに全振りする覚悟がとても印象的でした。次回は、「発達障害の人を理解するために知っておいて欲しいこと」についてお話を伺います。

incluvox インクルボックス

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PROFILE赤平大(あかひら まさる)元テレビ東京アナウンサー。現在はフリーアナウンサーとしてナレーションやスポーツ実況などを中心に活躍中。早稲田大学ビジネススクール(MBA)2017年卒優秀修了生。息子が発達障害と診断されたことをきっかけに発達障害の勉強を始め、発達障害学習支援シニアサポーター、発達障害コミュニケーション指導者などの資格を取得。また、発達障害支援者向け動画メディア「インクルボックス」も運営している。

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