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「ミギーを出せよ」泉新一登場のラストがアツい…原作改変の是非は? 韓国版『寄生獣 ザ・グレイ』考察&感想&評価レビュー

  • 2024.4.11
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岩明均原作のマンガ『寄生獣』の韓国ドラマ版である『寄生獣 -ザ・グレイ-』が、4月5日(金)よりNetflixにて配信開始された。元々海外での人気も高い同作を、大胆なリメイクを加えて実写化した同作は、日本人的にアリ? ナシ? 忖度なしのレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
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【著者プロフィール:ジュウ・ショ】
フリーランスとしてサブカル系、アート系Webメディアなどの立ち上げ・運営を経験。コンセプトは「カルチャーを知ると、昨日より作品がおもしろくなる」。美術・文学・アニメ・マンガ・音楽など、堅苦しく書かれがちな話を、深くたのしく伝えていく。

Cho Wonjin/Netflix © 2024 Netflix, Inc.
Cho WonjinNetflix © 2024 Netflix Inc

2024年4月5日(金)、Netflixで『寄生獣 -ザ・グレイ-』が公開開始となった。岩明均原作のマンガ『寄生獣』の韓国ドラマ版である。原作は2020年時点での2400万部の発行部数を誇る大人気作品で、海外人気も高い。

日本では山崎貴監督によって2014年、2015年に実写化されたが、今回は初の海外実写化ということで、大胆なリメイクがおこなわれた。

あらすじ

深夜、多数の「寄生虫の卵」が韓国に降り注ぐ。ある日EDM音楽のイベントで、寄生された人間が周りを攻撃する事件が発生し、政府は対策専門の組織「グレイ」を創設した。

20代のスーパーマーケットの従業員、チョン・スインは、母に見捨てられ、父には日常的に虐待されるなど、苦痛に満ちた子供時代を過ごしていた。

彼女はある日、通り魔に襲われて死にかけているところ、寄生生物のハイジに侵されることになる。ハイジはスインの体の傷を治すために力を使ったため、スインの脳を乗っ取ることができず、二人は共生関係を築くことになった。

今作は原作マンガを踏襲しているものの、大きく異なるアプローチで寄生獣を描いているのが特徴だ。大事な設定は同じだが、舞台もストーリーもまったく違う。リメイクと表現したほうが近い。

特に大きな違いは「主人公と寄生生物の関係性」だろう。原作では、寄生生物のミギーが、主人公・新一の右手に寄生し、コミュニケーションが取れる。一方で今作では、ハイジはスインの顔の右側に寄生しており、基本的には会話ができない。

原作のミギーというキャラクターはとても魅力的だ。新一とコミュニケーションが取れるし、会話もユーモラスで楽しい。「人間との共生」というテーマにおける「友情」を描く存在として、超キャッチーな存在である。

一方で今作のスインとハイジは、直接的にコミュニケーションが取れない。代わりに「ハイジがスインの意識を15分間だけ支配できる」という設定が加わっている。スインは二重人格のような設定になっているわけだ。

このため、原作マンガと比べると「主人公とパラサイトとの関係性の変化」がいい意味で見えにくい。原作ファンとしては「ミギーを出せよ」という声も有るかもしれないが、原作より考察する余地が残されている印象だった。

Cho Wonjin/Netflix © 2024 Netflix, Inc.
Cho WonjinNetflix © 2024 Netflix Inc

また何と言っても今作の大きな魅力は「迫力満点のアクションシーン」である。監督を務めたのは『新感染 ファイナル・エクスプレス』でもメガホンをとったヨン・サンホ。彼はもともとアニメ監督出身である。

好きな監督に『パプリカ』(2006)の今敏を挙げる ほど、マンガ・アニメ好きであり『寄生獣』の大ファンだったそうだ。

そんな背景もあり、まずCGの技術力が凄まじい。『寄生獣』は寄生された人々の頭や体が変形する。頭が割れて筋肉が枝分かれしたり、エリマキトカゲみたいに広がったりする。原作ファンは、通称「顔面ぱふぁ 」と呼んでいるアレだ。

山崎貴監督作品の完成度も素晴らしかったが、今作ではとにかくこの「変形」の映像描写がすごかった。ちゃんとグロテスクだ。そのうえで戦闘描写がスピーディであり、スタイリッシュなので見ていて楽しい。

今作のCGチームは事前に山崎貴作品を参考にして制作したという。もともと視覚効果出身の山崎監督へのリスペクトも存分に感じられる仕上がりとなっている。

Cho Wonjin/Netflix © 2024 Netflix, Inc.
Cho WonjinNetflix © 2024 Netflix Inc

設定・ストーリーは原作と大幅に違うことは先述した通りだ。原作は少年マンガという側面があり、かなりコメディ要素も多い。

それは「ミギー」がいるからである。ぱっと見は「右手サイズの自由自在に形を変えられる物体に一つ目が付いている」という、文章で書くと割とグロめのビジュアルだ。でもぷにぷにしてそうだし、サイズ感も相まってかなりかわいい。

そんなフォルムだが、哲学者みたいな人間味のない口調で喋る。でも鉛筆を持って勉強したり、新一が手を洗うと「シンイチ つめたい」とか言っちゃう。そんなチャーミングさもある「ギャップ萌え」のキャラクターだ。

その点、今作のハイジは単体としての姿は見えない。あくまでスインと共同体として生きているのでキャラクター性は少ないといえるだろう。だから原作と比較すると、かなりシリアスな雰囲気だ。

今作では「捜査劇」が根底にあるため、どちらかというと大人向けな仕上がりとなっている。『初代ゴジラ』(1954)と『シン・ゴジラ』(2016)の違いに近い感覚だ。このアップデートに関して、原作者の岩明均先生はとても気に入ったという。

個人的には「共生」というテーマへのアプローチとして、こうしたシリアスな描き方をすることで”見ごたえ”が倍増していた印象だ。

© 2024 Netflix, Inc.
© 2024 Netflix Inc

また個人的に「人間に擬態したパラサイト」という観点でおもしろかったのは「コロナウイルス」との関連性だ。

今作では空から飛来してきた寄生生物の幼虫が、誰にも気付かれず人の耳や鼻の穴から侵入し、気付いたら脳を食べられて完全に人間に擬態したまま意識を奪われる、という仕組みで寄生生物が増え続ける。

この「人間に擬態したまま」という点がコロナを彷彿とさせた。もちろんどの病気にも当てはまるのだが、コロナを経るとよりリアルに実感する。

ウイルスもパラサイトの一種だ。人間と共生する必要があり、ワクチンで駆逐されると、生存を求めてだんだんと姿を変えていった。

もちろん原作は30年以上前の作品であり、私が読んだのも15年前くらいだ。しかしいま「共生」というテーマの作品を見ると、どうしてもコロナを思い出すのはおもしろい。

あんなに憎かったコロナも、猛威が去ったいま考えると「ミギーやハイジと一緒か~」なんて、うっすらと愛着が湧いてくる気もする。

余談だが、コロナはワクチンで退治できたからよかったものの、今作のように知性が高いうえに狂暴すぎて「もう殺すしかない」みたいなウイルスが出てきたらどうするのだろう。みたいな妄想に駆られるのも、我々がコロナという未曽有を経験したからこそだ。

“あり得ないこと”を経験した今は「いやいや、そんな怖いウイルスとかいないでしょ~」なんて楽観的に考えられなくなっているのが怖い。

© 2024 Netflix, Inc.
© 2024 Netflix Inc

今作では「寄生生物」だけでなく、さまざまなものとの共生を描いている。例えば家族、友人などをはじめ、考え方や価値観の異なる人間との共生についても真摯に描かれているのも良かった。

原作でも同じような哲学的なテーマはあった。今作は特に「家族」について深く描かれていた印象だ。主人公のスインは実の家族から冷たい仕打ちを受け、孤独を感じていた、というキャラクターであり「信じられるものは自分だけだ」という信念を持っている。

あらためて人間には常に「社会的欲求」がある。何かしらのコミュニティに居場所が欲しいし、属さなければやっていけない。家族、友人、職場、いつも挨拶するコンビニの店員とか、ご近所さんとか……誰かと関わらなければ生きていけないという変な動物だ。

つまり人間にとって「共生」というのは呼吸と同じくらい当たり前。でも、これが一人ひとりの哲学・価値観がすれ違うと、上手くいかない。すぐ喧嘩したり、離れたりする。これもよくよく考えると変な行動だ。

『寄生獣 -ザ・グレイ-』は、そんな人間の変な部分をすごく真摯に描いていると感じる。最終話の後半で主人公がもらう手紙の末文には「望もうと望むまいとお前は独りじゃない」と書かれている。

この一文がよかった。人間にとっての事実を端的に書いた一文だ。事実ではあるが、希望とか勇気が内包されているメッセージ性が高い言葉でもある。

これだけバタバタ人が死ぬバイオレンスアクションではあるが、6話まで見るとちょっと優しくなれそうな、哲学的側面があることも魅力だ。

© 2024 Netflix, Inc.
© 2024 Netflix Inc

さて、ここからは壮大なネタバレになってしまうので、未試聴の方はUターンをおすすめする。

今作の最終話では、ちょっとしたどっきりが仕掛けられている。世界随一の寄生生物専門家でありルポライターとして、原作の主人公・新一(菅田将暉)が登場するのだ。そして握手を差し出した右手のアップが映って、物語が終了する。

この描写から、監督の”寄生獣愛”が伝わってくる。また明確に「原作の再現ではなく、スピンオフですよ」と宣言するための描写だといえるだろう。そして確実に2作目があるようなエンディングとなっている。続編が楽しみだ。

ちなみに原作ファンとしては「続編ではミギーは登場するのか」が気になっている。というのも原作では新一はミギーを失っているからだ。ただし最終回でミギーが戻ってきたことを匂わせる……という曖昧なエンド だったのも確かだ。

果たしてミギーは登場するのか、そして成長した新一は、どんな活躍を見せるのか……続編も楽しみだ。

(文・ジュウ・ショ)

【作品情報】
制作国:韓国
監督・脚本家:ヨン・サンホ
監督・脚本家:リュ・ヨンジェ、ヨン・サンホ
原作:岩明均
原題:기생수: 더 그레이/Parasyte: The Grey
出演:チョン・ソニ、ク・ギョファン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・イングォン

 

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