1. トップ
  2. 恋愛
  3. 【賢者の選択心理テスト】傷ついた者が、さらに傷つけられるのはなぜ?

【賢者の選択心理テスト】傷ついた者が、さらに傷つけられるのはなぜ?

  • 2024.4.10

今回はホラーというかサスペンスというか、読後感に毒々しいものが残るお話です。漫画家、楳図かずお氏の作品から。一体どんな展開が待っているのか?

楳図かずおという漫画家をご存じでしょうか? 年代によって、 『へび少女』で知っていたり、 『漂流教室』で知っていたり、『わたしは真悟』で知っていたり……。それだけ長く、しかも独特な漫画を描き続けた人です。

タレントの中川翔子さんが崇拝していたり、若い女性ファンを中心に、最近、すごく再評価されています。 今も、代表的な楳図作品が、「UMEZZ PERFECTION!」シリーズとして順番に復刊されています。

そんなこともあって、今回は、楳図かずおの作品をご紹介したいと思います。代表作の『おろち』の連作短編集中の一編、「戦闘」という作品です。これは長いお話なので、その中の一部分だけを取り上げます。ちなみに、上記の「UMEZZ PERFECTION!」シリーズでは、『おろち3』に入っています。

中学生の正(ただし)は、 学校の授業の一環として、 クラスで奥多摩に植物採集に出かけます。正は仲のいい仲間と、山のほうに行きました。 正はこの頃、悩みがあって、暗く落ち込んでいました。 それを心配した仲間たちは、なんとか元気づけたいと思い、 たまたま洞窟を見つけたときに、「正君、あれを探検しないか?気持ちがパッとするぜ」 と誘います。他のみんなも、 「おもしろそうだ。行こう!!行こう!!」 と乗り気です。

正だけは、 「だ、だめだよ。よせったら!!」 「ぶっそうだから、よせよ!!」 と何度も止めるのですが、 みんな耳を貸しません。

洞窟の中に入ると、声が響くのを面白がって、仲間のひとりが、「オーイ」と大声をあげます。すると、ドスーンという音がして、洞窟の入り口がくずれて、ふさがってしまいます。 みんな、出られなくなってしまったのです。

いくら叫んでも、誰も気づいてくれません。「ぼくたちがいなくなったことに、 そのうち外のみんなが気づくはずだ」 「それまで、みんな力をあわせて、がんばるんだ!!」 「そ、そうだ。最後まで助け合っていこう!!」 と、みんなは団結します。

正は心の中で、 「みんな、いざというときには、力をあわせることができるのだ!!」 と嬉しく思います。カバンの中にはみんな、植物採集のためにスコップを入れてきていたのですが、カバンは洞窟の外に置いてきてしまっていました。

唯一、正だけはカバンを持ってきていました。その正のスコップを使って、 みんな交代で、少しでも掘ろうとします。でも、スコップはすぐに壊れてしまいます。

唯一の灯りであるペンライトも弱ってきました。「こんな暗やみの中では、そのライトだけがたよりだ。 必要なとき以外は、消すのだ!!」と正は提案します。しかし、ライトを消した暗闇は、子供たちの恐怖心をかきたてます。

「お、恐ろしい!!」

「つ、つけてくれっ。おかしくなりそうだ!!」

「たのむ、つけてくれーっ!!」

正は「みんな、かたまるのだ」と励まします。 時間が経ち、 地下水がしたたってきて、寒くなり、 お腹も減ってきます。正はカバンの中にチョコレートを入れてきていました。 「ライトを消して、ぼくひとりでたべても気がつかない!!」 と考えてしまいますが、すぐに打ち消して、みんなにチョコレートのことを言って、全員で分けて食べます。

ますます寒さはひどくなり、 水のしたたりも増してきます。みんなが濡れずに座っていられる場所も狭くなってきました。 「もっとそっちにつめてよ」「だめだよ、もうこれ以上!!」

と身体をぶつけあうようになり、 おされたはずみで、正はペンライトを水の中に落としてしまいます。

正は、水の中に入って、ペン

ライトをさがしますが、見つかりません。

服が濡れてしまって、寒くてたまりません。ですが、誰もふいてくれようとしません。 それどころか、今まで座っていた場所に戻らせてくれません。「つ、つめたいよ」と、正をつきとばします。正は、水のしたたるところにいるしかありません。

「このままでは、こごえ死んでしまう!! みんな、こんなに薄情だったとは!!」

ふと、チューインガムのにおいがします。誰かが、隠し持っていたのを自分だけで食べたのです。

そんなとき、ようやく助けがやってきます。一晩がかりでやっと助け出されましたが、みんな疲労ですっかり弱っていました。とくに正はダメージが大きく、みんなが元気になって退院してからも、ひとりで入院していました。正は、洞窟の中でのことは、何もしゃべりませんでした。仲間たちのことをかばったのです。

「しゃべると、みんなが傷つくもの」と内心で考えて、口をつぐんでいました。 ようやく退院して、久しぶりに学校に行けることに。

「みんなに会っても、ニコニコして、前と同じように話しかけてやろう」そんなふうに正は思っていました。

ところが、仲間たちは、正を避けます。そして学校では、こんなウワサになっているのです。

「正君のせいで、みんなひどいめにあったそうじゃないか!!」

「みんないやだっていうのに、ほら穴にはいろうってさそったのだって!!」

「みんないってるぜ、きみのおかげで死にそうなめにあったって」

正は愕然(がくぜん)とします。

「こ、こんなばかなことが!!」

「何もかもわからなくなった。誰も信じられなくなってしまった!!」

…さて、正の仲間たちは、なぜそんなことを言ったのだと思いますか?

A.「卑怯な、ひどい人たちだから」

B.「正が本当のことを言うだろうと耐えきれず、すべて正のせいにしようとしている」

C.「正が本当に嫌なやつなので、それくらい言っても当然と思っている」

心が決まったら解説を読んでください。

このテストから学ぶテーマ

傷つけてしまった相手は、嫌なやつに思えてくる

今回の心理は恐ろしいものなので、読んだ後でブルーになってしまうかもしれません。それでも、知っておいたほうがいいと思います。

正は洞窟に入ることに反対し、やめさせようとしましたし、 スコップも持ってきていましたし、みんなを励ましましたし、チョコレートをちゃんと分けました。責められるべき点はどこにもありません。 仲間たちのほうは、洞窟に入ろうと誘いましたし、スコップの入ったカバンも洞窟の外に置いてきましたし、ガムを自分だけで食べましたし、濡れて寒がっている正を見捨てようとしたり、正に対して、ひどいことをしました。責められるべきは、仲間たちのほうです。

ですから、普通に考えれば、助かった後、仲間たちは正に、「あのときは悪かった」とあやまりそうなものです。あやまるのが無理でも、罪悪感で申し訳なさそうにしそうなものです。しかし、逆に正を悪者にして、責め立てます。これはこの漫画の中だけのことではなく、実際にありうることです。

想像してみてください。助かった後、仲間たちはどう思ったでしょうか?

正に対して、ひどいことをしたと思ったでしょう。そして、反省したかもしれません。罪悪感を持ったかもしれません。この「反省」「罪悪感」がポイントです。

実は、人は誰かを傷つけてしまったと反省したり罪悪感を持つと、 傷つけてしまった相手に対する憎しみが増してくるのです。「そもそもあいつが悪いせいだ」と思うようになっていくのです。これを【自責の念による反応増幅仮説】と言います。

「そんなバカな!」と思うかもしれません。 確かに、理不尽な話です。傷つけたと反省しておきながら、なぜかえって憎しみを持つようになってしまうのか? 反省=自分を責める、人から責められる ということは、人の心には受け入れがたいのです。それで、なんとか反省せずにすむようにしようと、無意識に心が働いてしまうのです。人を傷つけても反省せずにすむのは、どういう場合でしょうか?

「そんな場合があるはずない」と思うかもしれませんが、実は一つだけあります。それは、相手が悪いときです。

たとえば、悪の組織の怪人を殴る仮面ライダーを誰が責めるでしょうか。悪人なら、ひどい目にあわせても、反省せずにすみます(という考え方自体も危険ですが、それについてはまた別の機会に)。 そこで、「そもそも相手が悪いんだ」と思い込むことで、 その相手を傷つけてしまった心の苦しみから逃れようとするのです。相手が悪いのなら、傷つけることは、むしろいいこととさえ思えてくるわけです。

ですから、正の仲間たちは、 正にひどいことをしたと反省した後、 だんだんと「でも、そもそもあいつが悪いんだ。イヤなやつなんだ」 という思いになっていったのでしょう。 みんな、そういう気持ちで一致したはずです。だから、さらに正に対して悪いことができたのです。 そこに罪悪感はなかったでしょう。 なぜなら、正はそんなことをされて当然のイヤなやつだからです。これは本当に恐ろしい心理です。

イジメがエスカレートしていきやすいのも、この心理が原因のひとつです。イジメられた相手が、泣いたり苦しんだりすれば、やりすぎたと思うこともあるでしょう。人から「相手がどれだけツライかわからないの!」と責められることもあるでしょう。そうすると、 「イジメられるほうが、そもそも悪いんだ。イジメられて当然のやつなんだ」 という気持ちが強まっていってしまうのです。相手が悪いやつということになれば、相手の悲しみや苦しみは、むしろ喜びとなってしまいます。

誰かがあなたにひどいことをして、あなたが傷ついたとき、相手はあなたに対して罪悪感や引け目を感じていると思ったら、あてが外れます。むしろ、憎しみや悪意が増している場合もあるのです。

では、どうしたらいいのでしょうか?

なるべく傷ついたところは見せないようにしたほうがいいのです。たとえば、上司から怒られて、泣いたりしてしまうと、そのときは上司があやまってくれたとしても、 その後、上司から嫌われてしまいます。

傷ついたところは見せずに、「よくわかりました。今後は気をつけます」 「ご指導いただいてありがとうございました。勉強になりました」 などと前向きな返事をするほうがいいのです。ちゃらんぽらんな社員のほうが意外に上司ウケがよく、 真面目な社員のほうがよくなかったりすることがあるのも、こういうところに原因があります。

いちいち落ち込んだり傷ついたりされると、 相手はだんだんイヤになっていってしまうわけです。

最近は、ちょっとしたことでも、 「あなたのせいで傷ついた」と人を責める人が増えています。 社会的に「人を傷つけるのはとてもいけないことだ」とされているので、 これは相手に大きなダメージを与えることができます。

しかし、こういう戦法は、とても危険です。 だんだんと周囲から嫌われていくことになります。 恋愛で、恋人に対して使っていれば、相手の愛情はどんどん減っていき、別れを早めることになるでしょう。

「わたしはこんなに傷ついているのに、なぜみんなもっと反省して、態度をあらためないの」 と思うかもしれませんが、むしろ態度はどんどん悪くなっていくものなのです。

これは相手が悪人ということではありません。たいていの人は、そういうふうに心が動いてしまうのです。もちろん、「そうあってはならない」と意識していれば、そうならずにすみます。そのためにも、こうして人間心理について知ることは大切なのです。

傷つけられた上に、さらに傷つけられてしまわないために、傷つけた相手を、さらに傷つけてしまわないために、 ぜひ知っておいてください。

<賢者の答え>

A「卑怯な、ひどい人たちだから」だと思ったあなたは……

たまたまその人たちが卑怯な人たちだった。そういうことも、もちろんあり得ます。 ただ、こういう心理は、残念ながら、人間なら誰しも、多かれ少なかれあるものです。 ですから、一部の人だけと思っていると、いろんなシーンで、かえって周囲の人たちに幻滅してしまいやすくなります。

「自分のまわりはひどい人ばかり」と思えてきてしまうことも。人にはこういう心理がある、ということを踏まえておいたほうが、かえって人に裏切られた気持ちになったり幻滅したりせずにすみます。人には、悪い面もあるけれど、良い面もあるというように。 悪い面を承知の上で、できるだけ良い面を引き出すように、人とつき合っていくことが大切なのです。

もし正が、学校に行って、仲間たちの仕打ちに傷つけられて落ち込んだとき、それを頑張って表面に表さないようにすれば、クラスメイトの中には正の味方になってくれた人もいたかもしれません。傷つけられた態度をとってしまうと、ウワサを信じて冷たい態度をとったクラスメイトたちは「自分たちの態度がいきすぎだったかも」と反省し、そのせいでかえって「でも、きっと正がよくないのだ」と確信を深めるようになってしまいます。 傷つけられたという態度は、その場かぎりの同情は呼んでも、かえってマイナスに働きやすいものです。

傷つけられても、できるだけ前向きに対応する。それが最も良い結果につながります。もちろん、傷つけられれば、傷つけられた態度をとってしまうのが自然ですし、相手を責めたくなるのが当然です。ですから、とても難しいことではあるですが、心のすみのどこかにとめておいていただければと思います。

B「正が本当のことを言うだろうと思うと耐えきれず、すべて正のせいにしようとしている」だと思ったあなたは……

そういうことも、もちろんあるでしょう。正もそう考えています。「みんなは、ぼくを悪者にすれば、ほら穴でみせたあさましい態度をごまかせるからだ」と。

洞窟の中で、正はずっと立派な態度をとり続けました。病院でもそうです。それに対して、仲間たちは、洞窟の中でみんなして正にひどい態度をとりました。立派なのは正だけで、他のみんなはひどいことをしたのです。

そうなると、加害者同士の団結のようなものも生じてしまいます。ひとりだけ立派だった正を汚してしまうことを誰かが提案すれば、他も反対しなくなってしまうでしょう。

しかし、仲間たちは、「本当は悪いのは自分たちで、正は立派だった」ということを内心ではわかっているのでしょうか?

その上で、正に濡れ衣を着せて、自分たちが逃れようとしただけでしょうか?

彼らは「正にひどいことをしてしまった」と思っているうちに、「でも、あいつはそうされて当然のやつなんだ」と思ってしまったかもしれません。今では、本当に正が悪いんだと思い込んでいるかもしれません。

そういうことがありうるのが、人の心なのです。恐ろしいことではありますが、認識しておく必要があります。その上で対応しないと、相手を理解できず、さらに腹立たしい思いをしてしまうことにも。 理解さえできれば、対応の仕方も必ず見つかってきます。

C「正は本当にイヤなやつなので、それくらい言っても当然と思っている」だと思ったあなたは……

正はずっと立派な態度で、イヤなことはひとつもしていません。それでも、今では仲間たちはそんなふうに考えている可能性がとても高いです。 たんに正を悪者に仕立て上げようとしているのではなく、本気で正が悪いと思っている。そこが恐いところです。

イジメの加害者以外でも「イジメられるほうにも問題がある」ということを言う人がいますが、イジメを防げなかった、あるいは傍観してしまったことへの罪悪感から、そういうふうに思いこんでしまっている場合もあります。 そういう心理を理解しているあなたは、かえって人間に幻滅することもないでしょう。

人間に悪い面があることは心得ていますし、そのことがわかっていれば、人間に良い面があることもまたわかっているはずです。 人の悪い面を引き出さないようにすることも、良い面を引き出すようにすることも、とても難しいことですが、できるだけ良い面を引き出すように努力していくのが、人とうまくつき合っていくということかもしれません。自分のためにも、そして相手のためにも。

津田先生より

楳図かずおは、ホラー漫画家とされていますが、たんに恐い化け物が出るとか、絵が恐いというだけでなく、ほとんどの作品は、実は「人の心の恐さ」を描いている心理ホラーです。心理漫画と言ってもいいくらいです。作品で描かれる人間心理はじつに深いです。

ですから、ホラーは苦手な私ですが、楳図かずお作品は大好きです。ちなみに、いちばん好きなのは『洗礼』です。次に『おろち』。そして『漂流教室』も忘れてはいけないし、『わたしは真悟』も別格、短編も面白いのがたくさんだし……けっきょく、挙げていくと、きりがなくなります。

お話/津田秀樹先生

元記事で読む
の記事をもっとみる