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イカの不漁で塩辛をイワシに?空きスペースでミニ水族館?100年の老舗が向き合う伝統とあふれるアイデア 根底にあるのはいつも「お客さん」【北海道・函館市】

  • 2024.4.7

Sitakkeで開催中の学生ライター講座に参加する、函館在住の名畑です。

函館市の老舗塩辛メーカー 『小田島水産食品』 の伝統と革新について取材しました。

アヒージョの食材はイカの塩辛!「最初は笑われたけど…」100年の老舗がバルも経営 革新を続けるワケ【北海道・函館市】

数々の新しいヒット商品を届ける創業100年超の老舗の根底には、いつも「お客さん」がいました。

根底にはいつも「お客さん」

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「やっぱり、その時代時代に求められているもの、お客さんのニーズや考え方があるので、そこは譲りたくないんですよね。」

4代目の小田島章喜さんは真剣に言います。

ヒット商品の開発にも、お客さんからのアイデアが大きく関わっていました。

「塩辛deアヒージョ」は、章喜さんのかつての同僚の「小田島さんの塩辛はアヒージョにするとおいしい」という一言から。

「山うに入りいか塩辛」も、福井県で300年前から作られている薬味「山うに」を混ぜると美味しいという、常連客からのアイデアがキッカケでした。

2021年から開発を始め、2023年に販売が始まったこの商品ですが、加工食品を他の食品とコラボさせるということは一般的ではなかったそう。

「小田島水産がまた変なコトをやっている」と、このときも周りからは笑われたのだそうです。

それでも試してみて、作ってみたからこそ、今アレンジメニューとしての人気を確立しています。

3代目の隆さんが「うちは、お客さんの要望を取り入れるとうまくいくことが多いね」と話すように、様々な取り組みの根底に「お客さん」の存在があることを感じられました。

周りがやっていなくても、お客さんが求めるもの、良いと言ったものがあれば積極的に取り入れて、自分たちの新しい取組みとして形にする。

これこそが、小田島水産食品が新しいチャレンジし続ける理由であり、チャレンジした結果が愛される理由なのだと思います。

新しいことは目的ではなくて、社会が求めることに応えるためには新しさが必要になってくる。

新しさ迷子の私にとって、このシンプルな答えがよく沁みました。

守るべきものも、お客さんが教えてくれる

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「新しさ」についての理解が深まったところで、ふと別の疑問が現れます。

逆に、守るべき伝統とは、どんなものなのでしょうか?

小田島水産食品には、函館市内からも、北海道外からも、色々なお客さんが来るといいます。

取材に訪れた日には沖縄からのお客さんもいました!

このお客さんたちの存在が、小田島水産食品のチャレンジだけでなく、伝統を守ることの鍵にもなっています。

例えば、小田島水産食品の数あるイカ塩辛製品の中でも最もオーソドックスなもので、長年愛されている「木樽仕込」の塩辛。

3代目の隆さんにとっては「木樽仕込」は当たり前、なんなら時代遅れだと思っていたことの1つだったそうです。

でもある時、バイヤーさんから「小田島水産食品の塩辛は美味しいから、もっとネーミングを工夫した方がいいよ」という助言が。

そこで「木樽仕込」が、ブランドとしてのパワーを持っていることを知ったのだといいます。

また、あるとき、バルの一部を改装しようとした際に、お客さんから今の雰囲気が好きだから壊さないで!という声がたくさん来たことがあったそう。

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この格子窓も、雰囲気を守るため、改装も木で作ったのだといいます。

これだけお客さんの声を拾えるのはどうしてなのか。

それは、小田島さんらが、お客さんと気さくに会話する様子を見ていると納得できます。

イカがダメなら…頭の中に次のアイデア

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「塩辛」で伝統と革新を両立してきた小田島水産食品にとって、無視できないのが、近年のスルメイカの不漁です。

3代目の隆さんは、「塩辛の値段も高くせざるを得ない」と話します。

国産のスルメイカにこだわりたい気持ちを持ちつつも、「どうしても無理なら海外産を使うしかないかな…」と苦渋の表情です。

一方で、「イカに代わるもの」も探しています。

それはなんと「イワシ」。

隆さんは「マイワシを木樽で漬けてみたら面白いかな」と考えているのだとか。

油臭くなってしまうなど、商品化への課題は多いものの、

変化に対して自分たちで適応していこうとする姿勢は、非常に学ぶべきものだなと思われました。

さらに、アイデアはふくらみます。

実は今、北海道大学水産学部のサクラマス養殖の研究を、小田島水産食品の工場の空きスペースでやってみようという計画があります。

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隆さんは、ただ養殖をするだけでなく「観光客にも見てもらったら喜ばれるのではないか」と考えているのだそうです。

函館市には水族館がありませんから、こうした小さな規模でも魚を見られるというのは面白そうです。

大きな課題があるときもまた、「新しさ」が求められるときなのだと感じました。

今やっていることはムダにならない

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あらたまったインタビューがひと段落したので、せっかくなのでご飯と塩辛メニュー&ビールをいただきながら、3代目と会話を続けていました。

最後に私が聞いたのは「新しいことをやりたいという人に何か助言するとしたら、どんなことがありますか?」という質問。

3代目の隆さんは、「今勉強していることと違う分野だとしても、 好きなこと、やってみたいことをやってみる、そして続けていくことが大事 」と話します。

隆さんは、家業も継ぐために商学系の大学に進みました。

でも子どものころから大好きだったのは「生物」。

高校でも生物部で、学生時代には沖縄にチョウチョを採りに行ったりもしたそう。

一見、塩辛作りには関係なさそうな興味。

でもそんな興味が、塩辛づくりに欠かせない発酵細菌の重要さを見つけ、活かすことにつながったのだといいます。

こうした経験から「今勉強していることもムダにならない」と隆さんは断言します。

「面白いことや新しいことというのは、今までの既成概念から外れて出来るもの。勉強している知識はそこで必ず役に立つ」

そして、息子で4代目の章喜さんにも同じ質問を投げかけました。

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すると、返ってきた答えは「 自分の好きなことを貫いてやればやるほど、願いはかなう 」。

「自分の好きなことを大事にするべき」というポイントは親子で共通しているんですね。

新しさ迷子の私にとっても、同じく迷子な読者のあなたにとっても、きっとこの素敵なお店の例が、これからのチャレンジを勇気づけてくれるような気がします。

文:学生ライター・名畑公晴
編集:Sitakke編集部あい

※※掲載の内容は取材時(2024年1月)の情報に基づきます。

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