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実は日本以上に深刻 中国で「少子化」が著しく進むワケ 5年で700万人以上減

  • 2024.4.7
天安門広場南側の正陽門付近に広がる前門大街。多くの人でにぎわっている(2023年10月、北京、時事)
天安門広場南側の正陽門付近に広がる前門大街。多くの人でにぎわっている(2023年10月、北京、時事)

中国は長年、世界で最も人口が多い国でしたが、近年は少子化が進み、人口が減少しています。国連人口基金(UNFPA)が2023年4月に公表した世界人口の推計値によると、インドの人口が14億2860万人と、中国の14億2570万人を上回り、世界一となりました。なぜ中国で少子化が進んでいるのでしょうか。ノンフィクション作家で中国社会情勢専門家の青樹明子さんが解説します。

「合計特殊出生率」は1.09で日本を下回る

中国で「麻雀学校」(スズメの学校)という言葉を耳にします。スズメは小さな群れを成すことから、在校生が10人以下の規模が非常に小さい小学校のことで、子どもの数が少ない農村地区を中心に存在しています。

麻雀学校は教育環境、学習条件の質が低い点が問題視されていますが、存在するだけまだましで、次第に子どもが集まらないため、「貝殻学校」となり、やがて、老人ホームや民宿へと姿を変えていきます。2022年末時点では、全国で96万校の麻雀学校が廃校になりました。

中国国家統計局が2024年1月17日に公表したデータによると、2023年末時点の中国の出生数は902万人で、前年から54万人減少しました。

また、1人の女性が一生のうちに産む子どもの推計人数を示す「合計特殊出生率」は2022年時点で1.09で、人口1億人以上の国々の中で最も低い数値となりました。ちなみに、日本の2022年の合計特殊出生率は1.26です。

中国政府が人口爆発を懸念し、「1組の夫婦に子どもは1人だけ」と無理やり決めた「一人っ子政策」を正式に導入したのが1980年です。2016年に廃止されるまで36年間続きましたが、その間に2人目の出産を強く望んだ人は多くいました。

しかしながら、2人目の子どもの出産が解禁された2016年こそ出生数は1786万人と増加したものの、2017年は1725万人、2018年は1523万人と下降し、2022年には956万人と1000万人を切りました。政策撤廃後、多くの人々が選択したのは「産まない」もしくは「考慮中」だったのです。

男女比がアンバランス化し結納金の金額が上昇

なぜ彼らは子どもを生まなくなったのでしょうか。理由は簡単です。「幸せ」の原型だった「結婚」「出産」「子育て」がもたらす明るい未来が描きにくくなったからです。結婚とは恐ろしいもの、いわゆる「恐婚」という考え方がまん延していきました。

理由の一つに、男女比のアンバランスという問題があります。中国人の伝統的な考え方である「重男軽女」(男尊女卑)は現代でも根強く残り、一人っ子政策のもとで、男女の人口比率に差が生じていきました。一人っ子政策を導入する前、新生児の男女比率はほぼ同数でしたが、次第に男子の数が増えていったのです。

中国国家統計局が2024年1月17日に公表した、2023年末時点の人口は14億967万で、前年よりも208万人減りました。そのうち男性は7億2032万人、女性は6億8935万人で、男性は女性より3097万人も多いのです。

そんな中、男性独身者の数が膨れ上がり、2015年から2025年まで、中国語で「結婚できない男」を表す「剩男」は毎年15%ずつ増加し、平均して120万人の男性が初婚での結婚相手を見つけることができない計算になるといいます。条件が整わない男性と、超エリート女性が残るという現象を生みました。

男女比のアンバランスは社会不安を生みます。男性を中心に、結婚貧乏が農村地区を中心に多く出現するようになりました。

例えば、男性から女性側に渡す「結納金」の金額が、かつてないほど上昇しています。象徴的なのが「三斤三両」「万紫千紅一片緑」です。「三斤三両」は100元札で1.65キロ、約13万6000元(約285万円)に相当します。また、「万紫千紅一片緑」は紫色の5元札が1万枚、赤い色の100元札が1000枚、それに加えて可能な限り、緑色の50元札が必要だという意味です。合計すると、最低でも15万元(約314万円)になるといいます。

現金に加え、結婚に欠かせないのが、車1台と一軒の家で、これらは「一動不動」と呼ばれています。結婚の際に「家」と「車」というのは、最低条件ですが、住宅を購入するには、一生分の年収が必要ともいわれています。

ある調査によると、改革開放政策で、農民の収入は25倍に増えた一方、結納金の額は100倍以上になったということです。結婚は幸せなのだろうか、という疑問が頭をもたげても無理はありません。

給料の3分の1が教育費に消える人も

競争に勝ち、結婚や出産にたどり着いても、生まれた子は親と同様、恐ろしい競争社会に組み込まれることが予想されます。

競争に勝つためには、まず教育が重要となります。都会であろうが地方であろうが、教育だけが人生を変える最強のカードでもあるからです。

甘粛省蘭州市に在住する37歳の男性は、5歳の子どもに正規の授業のほかに囲碁やレゴ、水泳など、課外授業8クラスを申請していて、学費は年間で6万元(約126万円)ほどかかるといいます。

また、西北部に住むある父親は子どもの教育に月1000元(約2万1000円)をかけていると言いますが、しかし、彼の月給は3000元(約6万3000円)ほど。このほか、湖南省の農村地区の小学校教師の女性は、3歳にもならない子どもに給料の3分の1を費やしているということです。家計への負担は大きく、「2人目なんて不可能だ」と考えるのも無理はありません。

このような状況の中、中国の専門家たちは「(国が本気で)人口減少を防ごうとするなら、産児制限の廃止だけでなく、教育費と住居費問題の解決など、強力な出産奨励政策が急がれる」などと警鐘を鳴らし続けています。

しかし、自分の運命を変えられる可能性があるものは、「いい大学に入ること」というのは変わりません。2024年は1351万人が大学受験の申請をしていますが、近年はこれまで一般的でなかった「浪人生」も増え続けており、2024年の申込者の30%がより高名な大学を目指して受験に再挑戦します。

中国語で「死ぬほど勉強しても死ぬことはない。ならば勉強しろ」(只要学不死、就往死里学)という言葉がありますが、勉強量も半端ではありません。高校3年にもなると、毎日午前6時には学校に行き、授業が終わるのは午後10時というのも普通に聞きます。

最近、過酷な受験戦争を回避するために、海外留学を選ぶケースも増えており、「潤学」と呼ばれています。しかし、卒業後、そのまま留学先で就職するケースは少なく、多くの学生が中国に帰国して仕事を探しますが、海外留学組に冷たいのが現状です。結局、国内の有名大学を出た方が有利です。

名門大学出身でも就職が保障されず

苛酷な受験戦争を生き抜いた後に彼らを待つのは「就職戦争」です。

中国国家統計局が2023年6月に発表した数字によると、16歳から24歳の若年層失業率は20.8%と、過去最高を記録しました。2023年の大学卒業者は1158万人ですが、若者たちを震撼(しんかん)させているのは、トップエリート集団と呼ばれる北京大学や清華大学を卒業しても、必ずしも就職できるとは限らないという現実です。「大学卒業=失業」という流行語は現実に近いといってよいでしょう。

「いい大学を出さえすればいい仕事に就ける」という希望があるからこそ、若者は受験勉強に耐えることができたのです。その指標が崩れると、アイデンティティーを失いかねません。巻き起こる社会不安を察知したためか、中国国家統計局は2023年8月から若者の失業率データの発表を停止することを明らかにしました。

新型コロナウイルスの流行と、それに伴うゼロコロナ政策もあり、中国経済は減速状況にありますが、中でも学生に人気だった、旅行業や航空業、不動産業をはじめ、飲食業などの分野が軒並み悪化しています。

しかし、学生たちは無理して大学に行かせてくれた親に、恩返しをしなくてはなりません。一定の収入を得られる職業に就かなければ「面子を失う」ことになるのです。これが、子どもが受験戦争を勝ち抜いた後に待つ、厳しい現実です。

寝そべり族の出現

国ががく然となったのは、出産制限を撤廃したのに出生数は増えず、それどころか競争に疲れた若者たちの中で、結婚も就職も放棄して「寝そべる」生活を選択することが流行し始めたことです。こうした若者は「タンピン族」(タンの漢字は、身へんに尚。ピンの漢字は平)と呼ばれています。

タンピンとは「横たわる」という意味で、競争社会から離脱し、お金もうけも放棄して、大志も抱かず、欲望もほどほどにして、静かに生きていくことです。このタンピン学こそ「現代の競争社会に対する最大の武器」なのだそうです。

最近では「専業子供(全職児女)族」という言葉も登場しています。これは、主婦業に専念する専業主婦のように、子ども業に専念するという意味です。ニートと違うのは、両親の世話や家事などを仕事のようにこなし、両親から「給料」をもらうことです。

結婚も出産も就職も放棄するタンピン族も専業子供族も、高学歴者が多いのが特徴です。政府が経済再建に必要としている人材が、社会から離脱しているのは、頭の痛い問題です。

新型コロナウイルスの流行以降、中国の経済減速は世界に懸念を及ぼしています。人口減少により、経済の悪化が進むと、政権が掲げてきた「豊かな社会」という概念が崩れてしまいます。豊かさを与えるから、他のすべてを我慢しろといわんばかりの強権をふるってきた共産党政権も、建国以来の危機であると言っても過言ではありません。

ノンフィクション作家、中国社会情勢専門家 青樹明子

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