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アートは、生きることそのもの。“満たされないなにか”があるからこそ、面白くできる【アートと暮らす・後編】

  • 2024.4.6

Sitakkeで開催中の学生ライター講座に参加する、学生ライター・わっかが取材しました。

お金がなかったらアートは楽しめないの?

いいや、きっと知らないだけだ。
身近な場所に隠れているアートを見つけに行こう。

「さっぽろ天神山アートスタジオ」って知ってる?

こんにちは。ライターのわっかです。
普段は札幌の大学でアートやデザインについて学んでいます。(2024年1月時点)

Sitakke
版画の授業で重石になる「わっか」

この3月に大学を卒業し、一人暮らしを始めるにあたり、困っていることがある。
それは、これからはどこで作品を作ればいいのか…ということ。

作品づくりは続けたいけれど、実家を出る私に、アトリエなんて大層なものを用意する余裕はありません。
かといって、賃貸では大きな音も出せないし、床を労ってあげる必要もあるし...

そんな中、大学の教授に教えてもらったのが、”アーティスト・イン・レジデンス(Artist in Residence, AIR)”という制度。

アーティスト・イン・レジデンスとは、ずばり「アーティストにとって旅をすることは良いらしい。だから、旅先でも制作ができるように、作業場所の提供や滞在費を色々支援してあげるよ」という制度のようだ。

AIRの拠点は世界中にあり、なんと私の住む札幌にもあるとのことなので、さっそく足を運んでみた。

その名も、「さっぽろ天神山アートスタジオ」。

札幌の地下鉄南北線・澄川駅を出て、南に向かうと、突如大きな森が現れる。
その森の中をグネグネと登っていくと、落ち着いた面持ちの建物が見えてきます。

Sitakke

このアートスタジオでは、国内外の創作活動を行う方はもちろんのこと、道内、そして市内の方の利用も受け入れてるそう。一番小さいスタジオの場合、なんと24h/770円で利用ができるんだとか! 創作場所”難民”の私にとっては朗報すぎる!

前編の記事では、AIR ディレクターの小田井真美さんに、この施設の特徴についてお話を聞いた。小田井さんはスタジオの立ち上げから、仕組みづくり、イベントの企画や運営を行っている人物だ。

“つくる場所”をつくっている人

Sitakke
「さっぽろ天神山アートスタジオ」AIR ディレクターの小田井真美さん

「さっぽろ天神山アートスタジオ」が一般的なAIRと異なるポイントは、2つあるという。
地元のアーティストも利用できること、そして運営側の都合で滞在期間を定めるのではなく、利用者側であるアーティストが好きな期間に滞在できる、という点だ。この2つには、「なによりもアーティストの希望を優先することで、彼らの創作活動をできるだけサポートをしたい」という、小田井さんのこだわりが込められていることがわかった。(詳しくは前編にて!)

後編となる今回は、AIRディレクターとして、アーティストを支援する小田井さんの「アート」への思いについてお話を聞いていく。
小田井さんは一体、どういった経緯で、AIRディレクターという形でアートと関わるようになったのだろうか?

「アーティストは“友達”だから」

Sitakke
小田井真美さんと、筆者「わっか」

学生時代は、美大に通い、さまざまな作品を作っていたという小田井さん。アーティストとしてではなく、AIRディレクターとしてアートに携わることになったきっかけは何なのだろうか?

「学生の頃は、作品づくりも好きでしたけれど、展示企画を考えるのも好きだったんです。自分や友人の作品の魅力を伝えるには、どんな場所で、どんな企画で展示するといいんだろう?ということを、試行錯誤をすることが楽しくって。見よう見まねで、友人とアートイベントを開いたりしましたよ」

「次第に、作品をつくることよりも、アーティストの作品の魅力を発信するための企画づくりの方をやってみたいと思うようになってきたんです。仕事でもそんな取り組みができたらいいなぁって」

とはいえ、当時、作品をつくること以外で、アートに関わることのできる職業といえば、ほとんどが美術館かギャラリーでの仕事に限られていたといいます。

「でも、学芸員のようにアーティストを研究の対象にするのもしっくりこないし、ギャラリストのようにアーティストとマーケットの繋ぎ役に役になるのもどこか違う。自分がアーティストと築きたい関係にはフィットしなかったんです」

アーティストとは仕事仲間じゃなくて、ずっと“友達”のような、対等な関係でいたいなって。そう気づいたんです

たしかに取材中も、滞在中のアーティストたちが次々とやってきては、小田井さんに親し気な雰囲気で話しかけていく。外から部屋に戻ってきたアーティストに、小田井さんが「おかえり~」と言うと、当たり前のようにアーティストが「ただいま!小田井さん!一緒にご飯を食べよう、飲もう」とフランクに話しかけている姿を何度も見かけた。

Sitakke
小田井さんと、韓国から来たアーティスト。まるで友達同士のような微笑ましいやりとりだった。

学生時代に友人とアートイベントを開催していた時のように、アーティストとは常に対等な関係性でいたいという小田井さん。働き方を模索する中で、「AIR」の運営という仕事にたどり着いたんだそう。

「一人一人のアーティストと会話をして、自由に動きやすい枠組みをつくったり、企画を考えたりすることが楽しい。AIRディレクターとして、作品と社会が繋がる一部になれることに、やりがいを感じています」と小田井さんは笑顔で話す。

Sitakke
Sitakke

「さっぽろ天神山アートスタジオ」の立ち上げから運営に至るまで、幅広い業務に携わったという小田井さん。

先にも紹介したように、このスタジオでは、従来のAIRの在り方に捉われない様々な取り組みが行われている。
たとえば、運営側の都合に合わせるのではなく、アーティスト側の希望する滞在期間をできるだけ優先し、自由に泊まれる仕組みもそのひとつ。これも、小田井さんのいう、「アーティストとは友達のように、対等な関係でいたい」という思いのあらわれだろう。

Sitakke
筆者・ わっか

私自身、大学でアートを学んでいるなかで、たまに悩むことがある。
それは、他人と物事を進める上で、相手と対等でい続けることってすごく難しいんじゃないか、ということだ。
たとえば授業で、たった15分の映像を、10人で作ったのときでさえ、モヤモヤするようなことがたくさんあった。

仕切ったり、お願いしたりする中で、パワーバランスって、気づかないうちに生まれてしまいがちだと思う。だって、物事を進める上では、その方が早かったり、楽だったりするから。

そういう流れに対して抗いながらも、「いまの仕事が楽しい」と笑顔で話す、小田井さんの姿は純粋にかっこいいと思った。

いま名前があるものでは、自分の納得のいく「相手との関係性」を構築することができないならば、自分にピッタリのやり方をゼロから作り上げていく。小田井さんのその取り組みそのものが、すごくクリエイティブなことだと私は感じた。

小田井さんにとっての「アート」とは?

Sitakke

最後に、「もし自分が聞かれてもちょっと困るだろうなぁ」と思う質問を投げかけてみた。
けれど、小田井さんのように、これだけ本気で物事に向き合っている人だからこそ、どのように答えるのか、とても気になったからだ。

「小田井さんにとってアートとはなんですか?」

生きることです」小田井さんがさらっと言い、私はドキリとする。

「心の支えでもないし、目標でもない。私にとって、大事なことは、友達とワイワイできることなんです」と笑顔で話す小田井さん。さらにこう続ける。

「美術的視点で『アートとはなにか』と言うと…私にとっては、世の中に対する“文句”なのかな。でも、その文句にはこうなったらいいな、面白いなっていう願いも込められていると思うんです」

「現状に不満があるからこそ生まれる妄想が、アートなんだと思います。“幸せ”じゃなくたっていいんです、なにか満たされないものがあってこそ、人生だって、アートだって、面白くできる」

本物の言葉を食らうと、頭にガツンと響きます。

小田井さんのまっすぐな思い、これまでの時間、作り上げた場所、繋いだ関係、それら全てが彼女にとってのアートであり、「生きる」という言葉に集約されている。

”アートとは生きること”。
文字で起こすにも少しビビっちゃうくらい、いまの私には口にするのが難しい言葉だ。

「わかる!」という自信を持ちきれないし、「わからない」という責任も持てない感覚に少しだけ苦しくなる。

インタビューを終えると、酒盛りに

インタビューを終えるとすっかり夜になっていた。

Sitakke
施設内には、アーティスト同士が交流しながら食事をするための大きなテーブルがあった。これも小田井さんのいう“友達”ならではの取り組みだろうか。

広間ではアーティストたちが酒盛りを始めている。

集まっていたのは日本、韓国、ドイツのアーティストたち。
「おいでよ」「飲みなよ」と誘われ、最初は戸惑いつつも、私も気が付けばウイスキーで乾杯。

Sitakke

「死ヌヨ」とお墨付きの激辛ラーメンをご馳走になり、英語といろんな国の言葉をちゃんぽんにしながら、互いの作品や、日本のアニメの話で盛り上がり、すっかり満腹。

Sitakke
激辛ラーメンに言葉を失う小田井さん

小田井さんの「アーティストとは友達でいたい」という思いが生み出した、オープンな空間と、アーティストとの交流をこの身で体験し、”生きること”に少しだけ触れることができた気がする。

お金がなかったらアートは楽しめないの?
とんでもない、答えは「NO」だ!

大学を卒業し、新たな一歩を踏み出す、この春。
さあ、私はどのように生きていこうか!

***

※2024年1月時点の情報です。最新の情報は施設のHPをご確認ください。

◆さっぽろ天神山アートスタジオ
〒062-0932 札幌市豊平区平岸2条17丁目1番80号(天神山緑地内)

文・取材:Sitakke学生ライター講座受講生 わっか
編集:Sitakke編集部 ナベ子

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