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「今年のアカデミー賞はホンモノ。まごうことなき傑作」「『良かった』の一言では済ませたくない」「想像を絶する臨場感」『オッペンハイマー』を日本の観客はどう受け止めた?

  • 2024.4.6
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第96回アカデミー賞にて作品賞など最多7部門を制した、鬼才クリストファー・ノーランの最新作『オッペンハイマー』(公開中)。3月29日に日本公開を迎え、初日3日間の興行収入は3億7800万円を記録し、最終興収は25億円以上と予測されるなど、その勢いはとどまるところを知らない。シリアスな題材ながらも、日本におけるノーラン監督作の興収トップ3に入る見込みだ。

【写真を見る】『オッペンハイマー』には「20世紀最高の物理学者」と評される、アインシュタインも登場する

MOVIE WALKER PRESSの公式Xで実施中の「#オッペンハイマーみたキャンペーン」には、劇場で鑑賞した観客からのコメントが多数寄せられており、注目度の高さがうかがい知れる。本稿では投稿されたコメントを紹介しながら、『オッペンハイマー』を日本の観客がどう受け止めているのか?を探っていく。

クリストファー・ノーラン監督に絶大な信頼を寄せるキリアン・マーフィー [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
クリストファー・ノーラン監督に絶大な信頼を寄せるキリアン・マーフィー [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

オスカー受賞も納得…3時間を感じさせないクリストファー・ノーランの演出

オッペンハイマーの頭脳と心を五感で感じる作品を目標としたクリストファー・ノーラン監督 [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
オッペンハイマーの頭脳と心を五感で感じる作品を目標としたクリストファー・ノーラン監督 [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

まずはクリストファー・ノーラン監督の演出を評価する、

「3時間があっという間の大傑作でした!俺たちのノーランがやってくれた!」

「人間ドラマが中心なのに、ノーランの演出により緊迫感がすごい」

「ノーラン自身の映画人生も込められた到達点のような作品で、都度挟まる演出やワードから、メメントを始め過去作とのつながりや世界への問いを感じました」

というファンのアツい声はもちろん、

「まごうことなき傑作。演技、映像、音楽、構成どれをとってもすばらしい。今年のアカデミー賞はホンモノでした」

「すごいものを見てしまった感でしばし放心。疲労と様々な思考がぐちゃぐちゃになる新感覚」

との感想も。

オッペンハイマーの主観シーンはカラー、客観シーンはモノクロ映像で構成された [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
オッペンハイマーの主観シーンはカラー、客観シーンはモノクロ映像で構成された [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

『インターステラー』(14)や『ダンケルク』(17)を例に挙げるまでもなく、ノーラン作品は臨場感に優れているが、それを裏付けるかのように

「追体験させられるような驚異的な映像と音声だった」

「これは映画館で見るべき映画。没入感がすごくて長尺なのにあっという間だった」

「想像を絶する臨場感に度肝抜かれた。圧倒的な音響と映像美で原爆がいかに壮大で恐ろしい物であるかを改めて思い知らされた。鑑賞中は興奮と恐怖で身体が震えた。人類が今も晒されている危険を改めて思い出させてくれる作品」

との声も上がっている。とにかく、ノーランの演出力に圧倒されたというコメントが目立った。

ピューリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの評伝が基になっている [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
ピューリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの評伝が基になっている [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

冷静ではいられない向き合うべき映画

パイプの握り方でオッペンハイマーを表現できると考えたというキリアン・マーフィー [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
パイプの握り方でオッペンハイマーを表現できると考えたというキリアン・マーフィー [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

やはり気になるのは、主人公である天才科学者、オッペンハイマーが「マンハッタン計画」に参加した原子爆弾の開発者であること。第二次世界大戦、冷戦、赤狩りと激動の時代を通してオッペンハイマーの栄光と没落を描く物語には、様々な意見が飛び交っている。

「見終わった後のモヤモヤ感。なんか悔しい気持ちになった。それでも、こんな気持ちにさせる俳優の演技やノーラン監督の映し方は最高でした」

「重く苦しく胸が締め付けられる。切なく儚く、けれど美しい。複雑な感情。壮絶で濃密な3時間、すごい映画です」

「個人的には『良かった』の一言では済ませたくない。作品通して多くの色んな意見が上がってるのも納得」

という声は、日本の観客の複雑な心情を物語っている。

「ホラー映画のように心臓の鼓動が速くなる。映画としての興奮と共に、世界を破壊し終わらせてしまう恐怖を感じました。心臓に悪い、でも決して目を逸らせない」

「非常に複雑で難解な映画だが、日本人として、この世界に生きる人間として、受け止めるべき大問題作」

「人間は、同じ無数の人間の頭上から核爆弾を産み落とすという、恐ろしく、愚かな生き物である。そんなことをまざまざと見せつけられた」

との声も。いずれにしても、冷静ではいられない、そんな映画であることは間違いない。

キリアン・マーフィーはノーラン作品『バットマン ビギンズ』の主演オーディションを受けていた [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
キリアン・マーフィーはノーラン作品『バットマン ビギンズ』の主演オーディションを受けていた [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

クリストファー・ノーランとキリアン・マーフィーのコンビは最強

キリアン・マーフィーは第96回アカデミー賞で主演男優賞を受賞 [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
キリアン・マーフィーは第96回アカデミー賞で主演男優賞を受賞 [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

役者の演技に関しては、賛辞の声が数多く上がっている。とりわけ、ノーラン作品の常連で、オッペンハイマー役でアカデミー主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィーには下記のような賞賛のコメントが寄せられた。

「終盤のオッペンハイマーの表情がこの映画の肝。ノーランが惚れ抜いたキリアンの青い瞳がものすごく活きていて、キリアン以外にこの役を演じられる人はいないと思った」

「それにしてもキリアン・マーフィーの演技がすごかったな。特にとある方が亡くなったシーンのところはすごかった」

「つくりたいけど殺戮したくない二律背反な描写と演技は流石だった」

クリストファー・ノーラン監督は、観客がオッペンハイマーと同じ視点を共有するため、彼が主観となるカラー場面は一人称で脚本を執筆した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
クリストファー・ノーラン監督は、観客がオッペンハイマーと同じ視点を共有するため、彼が主観となるカラー場面は一人称で脚本を執筆した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

ノーラン監督だから実現できた豪華キャストのアンサンブル

アメリカ海軍将校ルイス・ストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr.がアカデミー賞助演男優賞を受賞した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
アメリカ海軍将校ルイス・ストローズを演じたロバート・ダウニー・Jr.がアカデミー賞助演男優賞を受賞した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

ほかにも、アメリカ原子力委員会の委員長でのちに水爆実験を巡ってオッペンハイマーと対立するルイス・ストローズ役を演じたロバート・ダウニー・Jr.、オッペンハイマーの妻キティ役のエミリー・ブラント、「マンハッタン計画」を指揮したアメリカ陸軍将校のレズリー・グローヴス役のマット・デイモン、オッペンハイマーのかつての恋人ジーン・タトロック役のフローレンス・ピューなど豪華キャストが顔をそろえている。それだけに登場キャラクターが多く、

「登場人物が多くて、時系列もバラバラに展開するので事前の情報収集がお勧め。栄光も没落も淡々と描かれており、見る者に考えさせる余韻が与えられた感じ」

との意見も。ここでも述べられているが、ノーラン作品らしく過去と現在を行ったり来たりする時制の乱雑さも特徴であり、

「矛盾に満ちた人間という存在をオッペンハイマーという歴史的人物の栄光と凋落を通じて描いた作品。歴史詳しくない人は予習しないと登場人物とシーン転換の多さに翻弄されるかも」

という声も上がっている。

オッペンハイマーの妻キティを演じたエミリー・ブラント [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
オッペンハイマーの妻キティを演じたエミリー・ブラント [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

悲劇を繰り返さないために知っておきたいことも

ピューリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの評伝が基になっている [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
ピューリッツァー賞を受賞したカイ・バードとマーティン・J・シャーウィンの評伝が基になっている [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

最後に、これが最も肝心のポイントかもしれないが、唯一の被爆国、日本で生きる観客としてどう感じたか?という意見は、やはり無視できない。

「被爆国だから思うところある方もいるかもしれないが、一度この作品に触れてみることも必要なのかもしれません」

「反戦映画であり決して原爆を讃えるようなものでない。原爆を扱うのが多少なり禁忌になってるのかもしれないが当時の世代の人の話が聴けなくなっていく先にこうやって色んな角度から伝わっていくべきです」

という声に代表されるように、悲劇を繰り返さないために原爆のルーツを知ることも必要なのかもしれない。

「後世に語り継がれる名作だと思う。核兵器がなくなることを切に願う」

「正直オッペンハイマーのことは何も知らなかった。何故、彼が原爆をつくるようになったのか、その後、彼の身に何が起こっていたのか知ることが出来てキャスト&スタッフに感謝。次世代が歴史を学ぶ時に併せて鑑賞する意味があると思う」

という、本作を観る意義について考えさせられる意見も寄せられた。

【写真を見る】『オッペンハイマー』には「20世紀最高の物理学者」と評される、アインシュタインも登場する [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
【写真を見る】『オッペンハイマー』には「20世紀最高の物理学者」と評される、アインシュタインも登場する [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

『オッペンハイマー』は3時間の大作で、観客の胸に多くのことを語りかけてくる。その豊潤さこそが、アカデミー賞受賞という成果につながったのだろう。稀有な映像体験から、あなたはなにを感じるか?ぜひスクリーンに向き合って、体感してほしい。

65mmのモノクロフィルムは監督の要望に応えてコダック社が開発した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.
65mmのモノクロフィルムは監督の要望に応えてコダック社が開発した [c]Universal Pictures. All Rights Reserved.

文/相馬学

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