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意外な展開に引き込まれる…オーメンシリーズは何が特別なのか? 映画『オーメン・ザ・ファースト』徹底考察&評価レビュー

  • 2024.4.8
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© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.

全世界を恐怖に包み込んだレジェンド・オブ・ホラー「オーメン」、その“はじまり”の物語。映画『オーメン・ザ・ファースト』が公開中だ。1976年に公開された名作ホラーの正当な続編にして前日譚。悪魔の子・ダミアン誕生にまつわる秘密を描いた本作のレビューをお届けする。(文・村松健太郎)【あらすじ キャスト 考察 解説 評価】
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【著者プロフィール:村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。

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ホラー映画というジャンルは他のジャンルと比べてもキャラクターや映画全体のコンセプトを引き継ぎやすくシリーズ化しやすいと言える。

古くは“吸血鬼ドラキュラ”(『魔人ドラキュラ』(1931))、“フランケンシュタインの怪物“、”ミイラ男“や”狼男“などの映画黎明期のいわゆる”ユニーバーサルモンスターズ“。時代を下っても『悪魔のいけにえ』(1974)シリーズのレザーフェイス、『ハロウィン』(1978)シリーズのブギーマン、『13日の金曜日』(1980)のジェイソン、『エルム街の悪夢』(1986)のフレディ・クルーガーなど、それぞれ少しずつ形を変えながらスクリーンを賑わせ続けている。

近年でもゴーストフェイスが登場するミステリー要素を強めた『スクリーム』(1997)シリーズや、“ジグソウ”が殺人ピタゴラスイッチを構築する『ソウ』(2004)シリーズなどがある。逆にそのコンセプトを控えめにしてユニバース化した“『死霊館』(2013)シリーズ”が目下展開中でもある。

これらのシリーズ化されたホラー映画の多くはメインキャラクターの続投はない。と言うのも、たいていの場合、その時々のメインキャラクターは映画内で殺人鬼に殺されて退場してしまう場合が多いからだ。

そんな半ば“メタ的”な事情もあって、ホラー映画がシリーズ化された場合、殺人鬼のキャラクターなど一部のコンセプトを引き継ぐ形で展開されることが多い。

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『オーメン』シリーズもまた“666という呪われた数字のあざを持つ子供”という存在を前面に出してシリーズ展開された。

他方『オーメン』シリーズは1970年代前後に一世を風靡した“オカルト映画(反キリスト的映画)”の系譜に連ならなる一本でもある。

1968年のロマン・ポランスキー監督の『ローズマリーの赤ちゃん』辺りから始まり、1974年にはウィリアム・フリードキンによるエポックメイキングな一作『エクソシスト』が公開され、ブームは本格化した。

その後、『エクソシスト』は制作陣を変えてシリーズ化。続き物と言える3作目までと、プリクエル(前日談)の4作目『エクソシスト・ビギニング』(2004)があり、さらに昨年には1作目からの直接の続編というコンセプトの『エクソシスト信じる者』(2023)が公開された。

この『エクソシスト信じる者』だが、ここから始まって3部作にするという構想がある。とはいえ『エクソシスト信じる者』は批評・興行の両面で北米地区だけでなく海外市場でも苦戦してしまったので今後の情勢は不透明な部分がある。

『オーメン』の1作目は1976年の公開なのでブームの中では後発組と言えるが、恐怖(悪と言い換えてもいいだろう)の根源が“666という呪われた数字のあざを持つ子供”というコンセプトが新鮮で、結果としてこのジャンルを代表するシリーズに成長した。

その後の『オーメン2/ダミアン』(1979)と『オーメン/最後の闘争』(1981)の3作目までは明確に続いたストーリーを持ち、続くTV映画(日本では劇場公開された)の『オーメン4』(1991)、リメイク版(2006)、ドラマ版(1976)と“オーメン”シリーズ(=ブランド)は50年近くに渡って映像化され続けている。

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全ての“足場”となる『オーメン』1作目を手掛けたのは、この後『スーパーマン』(1979)や『リーサル・ウェポン』(1987)などの娯楽大作を手掛けることになるリチャード・ドナーで、その後も製作総指揮などに名を連ねている。

主演は『ローマの休日』(1953)や『アラバマ物語』(1964)などの名優・グレゴリー・ペック。『ローマの休日』であのオードリー・ヘップバーンとロマンティックな恋物語を展開した2枚目俳優が、同じローマで『オーメン』ではバリバリのホラー映画を披露しているのはどこまで狙った話なのか分からないが、何とも皮肉なキャスティングと思える。

また“ホラー映画と言えば印象的な音楽”という不文律があって、本作でもジェリー・ゴールドスミスが手掛けた音楽は非常に印象的で、なんと翌年発表の第46回アカデミー賞で作曲賞を受賞している。

『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)から『エクソシスト』(1974)、に続くオカルト映画大作として『オーメン』は世界的に大ヒットを記録した。

余談だが日本では『オーメン』というそのままのタイトルで公開されたが、良くこの邦題で通したと思う。“オーメン=omen”という言葉が前兆を指し示す言葉であることがどれだけ定着していたかわからず、意味すら分からずに映画を見た人も少なくないだろう。

“エクソシスト”も宗教用語から来ているが『オーメン』はそれ以上によくわからない言葉であったのではないだろうか。

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さて、そういった事情を乗り越え、世界各国で大ヒットした『オーメン』だが、国や地域、そしてそこに住む人々次第で受け取られ方には違いがあったと思われる。というのも、これらの“オカルト映画”が“反キリスト的”な論理に基づいて物語が展開されているからだ。

これらの作品について恐怖の根源となる存在に“悪魔”というものが登場するが、この存在への潜在的な恐怖感はキリスト教圏(聖書圏と拡大解釈しても良いかもしれない)で育った人たちの心の底に刷り込まれたものだと言える。

逆に言えばそういった刷り込みがないキリスト教圏以外の観客の多くは、“悪魔”と言われても本気で恐がるのは難しい。それは“悪魔もの”が抱えている大きなウィークポイントだろう。

そんなこともあって、それぞれのオカルト映画は“反キリスト”的な描写を込めつつも、もっとシンプルに恐怖を焼き付ける戦略をとることになった。

『ローズマリーの赤ちゃん』ではミア・ファロー演じる若い妊婦が悪魔の子供を宿してしまったという恐怖心=不安を前面に出すことで、万人受けする恐さを押し出した。

『エクソシスト』で言えば悪魔に取り憑かれた少女が罵詈雑言を発し、頭部が180度回転するなどのショック描写(ディレクターズカット版ではスパイダーウォークもあった)で、悪魔に対する本源的な恐怖を共有しない人々をもシンプルに怖がらせた。

『オーメン』もまた宙づりになる乳母、避雷針で串刺しになる神父、落下したガラスで切断された生首などのショッキングなシーンによって人々を驚かせた。

一説にはスタジオ側から宗教色を薄くするように言われたという話もあるし、監督のリチャード・ドナーが超自然的な描写を排した演出を心がけたという話もある。

『オーメン・ザ・ファースト』でもその手法は踏襲されている。

修道院を舞台にした“反キリスト”的なストーリーが展開する一方で、ショック描写はわかりやすいものが続く。串刺しや宙づりなど1作目を想起させるシーンが続くのはある種のファンサービスと言ってもいいかもしれない。また、“666という呪われた数字のあざを持つ子供”の誕生に陰謀論を絡めたのも巧い展開の仕方と言えるだろう。

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映画『オーメン・ザ・ファースト』は物語前半では旧来のオーメンシリーズと同様に、“前兆”を描くひたひたとした恐怖の物語が展開されるが、物語の後半では“畏れ”を人々の心に宿すために“666という呪われた数字のあざを持つ子供”を巡る教会側の急進的な一派による陰謀が展開される。

あまり言うとネタバレに繋がってしまうが、その陰謀とは聖書に書かれている地獄の物語などの恐怖譚だけでは、もはや人々の信仰を繋ぎ留められないと感じた一派が、意図的に(=人工的に)恐怖を創り出し、そのことで人々の信仰心を取り戻そうというもの。この設定はいささか突飛ながら、本作をオカルトホラー一辺倒ではない、ユニークな陰謀論映画にしている。

これにネル・タイガー・フリー演じるヒロイン・マーガレットが陰謀の謎解きを進めるという、宗教的な知識や下地がなくても楽しめるサスペンスフルな展開が続く。

その上で宗教的というよりかは“より生理的”に恐怖心、不安感を高めるストレートなショックシーンを織り交ぜることで、日本人(=非キリスト教文化圏の人)であっても分かりやすくなっている。

“666という呪われた数字のあざを持つ子供”=ダミアンについて予備知識のない、本作で初めて『オーメン』シリーズに触れる人や悪魔という存在に恐怖心を抱けないでいる人たちにとっても『オーメン・ザ・ファースト』は楽しめる良質なホラーである。

敢えてこの『オーメン・ザ・ファースト』に関して難点を上げるとするならば、あまりにも第1作目の『オーメン』にダイレクトに繋げてしまったために今後のフランチャイズの展開が難しくなったことぐらいだろう。

(文:村松健太郎)

【作品概要】
タイトル:『オーメン:ザ・ファースト』
原題:The First Omen
監督:アルカシャ・スティーブンソン「Channel ZERO:ブッチャーズ・ブロック」
製作総指揮/脚本:ティム・スミス『シン・シティ 復讐の女神』、『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
プロデューサー:デビット・S・ゴイヤー
出演:ネル・タイガー・フリー/ビル・ナイ/ソニア・ブラガ/ラルフ・アイネソン
全米公開:2024年4月5日
4月5日(金)全国劇場にて公開
© 2024 20th Century Studios. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

 

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