1. トップ
  2. エンタメ
  3. 旅人・三浦春馬とアジアの街をさまよい歩く。

旅人・三浦春馬とアジアの街をさまよい歩く。

  • 2024.4.5

旅先で出会って、今後の人生で2度と会うことはないだろう----。そう感じた「出会い人」は、その時の自分を正直にぶつけられる相手になり得る。ドラマ「tourist ツーリスト」で三浦春馬が演じる天久真(あめく・まこと)は、アジアの街を訪れた3人の女性たちを受け止める、そんな存在だ。東南アジア特有の湿気が画面中に漂う極彩色の風景の中で、(第2話台北編中の最後の一部を除き)真はブラック&ホワイト、もしくはグレイの服を着ている。無彩色の彼はビビットカラーの街中でむしろ目立っているけれど、鮮やかなエスニックカラーに身を包む女性たちにとっては、安心感のあるニュートラルな人物に映る。

©Paravi

女の人は自分を幸せに見せるのがうまいから。

第1話バンコク編で真が出会うのは年上の女性・さつき(水川あさみ)。さつきはTVプロデューサーという仕事にも恋にもどこか限界を感じて満足できず、どうにでもなれ!という自暴自棄な気持ちを抱え、もう一人の自分と対話をしながら、旅の時間を過ごしている。そんな時に、盗難に遭ってお金を失くした真を「買う」と、旅のパートナーに指名。観光名所の寺院や、夜市の賑わい、チャオプラヤ川沿いのそぞろ歩き、街の片隅にある賭博場となった家屋など、ふたりが訪れる場所のバンコクらしい魅力が伝わってくる。どこか死生観の漂うバンコク編。前世を信じるか?という会話や、市場でさつきは骨壺を買ったり......。タンブンという功徳を積んで現世や未来で幸せになる、というタイの思想を真と共有しながら、ふたりは短い1日を一緒に過ごす。

バンコク名物のトゥクトゥクで街を走るふたり。余談ですが、フィガロジャポン24年7月号(5月20日発売)はバンコク大特集です。

さつきが元気を装い、幸せを演じていることに最初から気付いている真は、この旅の後に2度と会うことがないからこそ、さつきの感情に踏み込み、紐解いていく。空港で再会したふたりは、まるで浄化されたように気持ちよくそれぞれの行先に向かう。旅の出会いの思い出を、自身の人生の一部としてきちんと整えて。

上手に諦めるのはカッコいい。

第2話は台北編。ふつうの幸せを手に入れるために、それを保証してくれそうな地味めの男性と結婚を決めた25歳のホノカ(池田エライザ)が、女友だちと3人でバチェラートリップとして訪れた台北。食べすぎでお腹を壊したホノカは九份に行くことができず、ひとり置き去りに。明日に帰国をひかえ、退屈を紛らわせようとホテルを抜け出し、冥婚の赤い封筒を拾ってしまって追われている真と出会う......。

街中の噴水にはまってしまったふたりは、着替えの服を買いにお店に入り、試着室で恋心が高まる。

「tourist ツーリスト」は、全編通して異国の市井の風景を見せる観光ムービーの役割も果たしているけれど、台北編でいえば冥婚など、その国独特の風習に触れて、文化を伝えてくれているのもおもしろい。そこが真と女たちのショートストーリーのきっかけにもなっている。台北編でのキーワードは解放。朝焼けに包まれたビルの屋上で、真の探し人が描いた風景を発見するシーンは心がふわっと軽くなる。猜疑心の強い真が、透明感に満たされる場面でもある。そして、ふつうの人生で幸せになるために、ふつうに結婚しようときれいに諦めて進むホノカを、カッコいい、と表現する真の言葉は、多くの女性たちの慰めになるに違いない。

人生を、記憶を、上書きする。

第3話はホーチミン編。恋愛結婚し、子どもを産み育て、そして離婚に向かう女性が主人公。夫婦関係のいちばん楽しかった記憶を辿り、夫(バカリズム)がいまの恋人と訪れているホーチミンまで追いかけて来てしまったカオル(尾野真千子)。クラブで酔っ払って一緒に踊った真をまったく覚えていない状態で翌日再会し、夫と過ごしたかつてのホーチミンの思い出を真とデートして上書きしていく。その途中で夫の恋人(成海璃子)と遭遇、彼女が纏っていた目も覚めるような美しい緑のアオザイをきっかけに話しかけ、カオル自身もアオザイを購入する。ベトナムでは祝いの場で着るともされるアオザイが、最終的にはカオルの記憶を「上書き」ではないカタチで昇華していく----。ホーチミン編の真は包容力が増して、女性のエスコートも手練れになってきている。良き、旅の道連れに進化しているのだ。

フランス領だったからこそ生まれたおしゃれなサンドイッチ、ベトナムのバインミーを遊歩道でほおばる。

3編とも、同じ場面をちょっぴり短縮して真からの視点で女性たちを観察した独白の入ったバージョンが追加されているのがユニーク。時に覚めた目線で、時に愛をもって女性たちを眺める真の心情が語られていて、インタラクティブな人間関係がメッセージされている構成がおもしろい。「tourist ツーリスト」の中の三浦春馬演じる真は、ピュアな青年ではない。諦観を持っていて、感情に支配されることなく、意地の悪いところもある。人探しという名目で自分探しをするために旅をしている。他者との関係を積極的に求めていないはずなのに、結局、他人と絡み合う運命を持った人物だ。そして、「tourist ツーリスト」は、上空から街を眺めるのではなく、その街を訪ね歩き、暮らす人たちのテンポで描いている点にシンパシーを感じられる。旅という非日常で起きる出来事や他者との出会いは、日常とのコントラストで考えられがちだけれど、決してそれだけではない。自分の中に積み重ねられていくその思い出で、人生の次の一手を考えるきっかけになることさえあるのだから。

三浦春馬の真は、出会う人たちに自身の運命と向き合うことを促してくれる。

240403_tourist.jpg

「tourist ツーリスト」●監督/山岸聖太、スミス、横尾初喜●2018年、日本製作ドラマ●本編244分+特典映像68分●Blu-ray ¥10,560発売:Paravi販売:TCエンタテインメント©Paravi

元記事で読む
の記事をもっとみる