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【増田先生最終回】いじめ・不登校・無気力・落ちこぼれ・吹きこぼれなどで揺れる日本の教育について

  • 2024.4.3

「あんふぁん」でコラムを書き続けて、10年間にもなります。考えれば、ずいぶん長く書かせていただいたものだと思います。

最初は、2013年度の「新入学準備号」から始まり、2年目が「1年生のママたちの質問箱」、3年目以降は「困ったら増田先生に聞いてみよう『放課後職員室』」になりました。始まった頃は、入学の不安や友だち関係の不安など、それほど複雑な問題はありませんでした。しかし、徐々に複雑な問題が出てくるようになりました。特に、学びに関する質問、無気力に関する質問、発達障害に関する質問などが多くなりました。

そこで、今回の号が最後になるにあたって、今の学校教育の問題や私自身が考えていることを書きたいと思います。

1.「いじめ」問題について思うこと

出典:あんふぁんWeb

今の学校教育で一番問題なのは、まずは「いじめ問題」ではないかと思います。この原稿を書いているさなかの3月19日に、大阪での「いじめ自殺」についてのニュースが入ってきました。これは、2022年2月に大阪府門真市の市立中学校3年の男子生徒(当時15歳)が自殺した問題について、市教育委員会が記者会見を開き、「複数の同級生によるいじめと自殺の因果関係や、学校の対応の問題を指摘する第三者委員会の調査報告書」を公表したというものでした。

報告書によると、男子生徒は1年生の時に同学年のSNSのグループに「死ね」などと連呼する動画を作成・拡散されたとのことでした。3年生になると、匿名で質問を投稿できて数日で消えるアプリで「Sine」「Uzai」などと投稿されたとのことでした。

男子生徒は1~3年時の学校のいじめに関するアンケートに「ラインなどで、いやな事を言われる時がある」などと、いじめをうかがわせる回答を度々していたし、いじめに関わった同級生らは20人にも上っていたとのことでした。

中学生ともなると、なかなか「いじめられている」ということは言えないものです。なぜなら、「自分がいじめられていることが分かると親が心配する」と思ってしまうからです。また、いじめられている自分自身を認めると、「自分はダメな人間なんだ」と、自らが認めてしまうことになるからです。それは、思春期の中学生にとっては、耐えられないことなのです。こうした複雑な感情が入り交じるために、いじめがなかなか明らかにならないのです。

また、教師の多忙化により、児童・生徒のちょっとした変化になかなか気付けないことも一つの要因になっていますし、いじめが巧妙になっていることも、いじめの発見を遅らせる要因になっています。

2.「不登校」「無気力」について

次に問題なのは、「不登校」「無気力」です。小中学生の不登校児は30万人に迫り、過去最多を更新中です。2023年10月、文部科学省は2022年度版の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」を発表しました。それによると、不登校中の小中学生の人数は29万9048人(前年比22.1%増)に達して過去最多となり、不登校の要因は「無気力や不安」が51.8%と過半数を占めました。

文科省は、こうした不登校児が増えた原因について、コロナの影響で学校へ行く機会が減って友達や楽しい思い出が作れず、生活リズムも崩しやすくなったからだろう、 と見立ててるようです。しかし、私はコロナが一番の原因ではないと分析してます。

いまの子どもたちは、学びの有用感を喪失していたり、学校に息苦しさを感じているのです。「学校スタンダード」と言われる細かい決まりがどの学校にもあり、筆箱の中身までが学校で決められていたりします。

そうした息苦しさを感じると同時に、学び自体の面白さが失われているのですから、学校に対しての忌避感が広がるのも当然なのではないかと思っています。

ここで注目すべきデータを紹介したいと思います。警察庁発表の「自殺者数」データによると、小中学生の自殺者は、06年度には95人でしたが、22年度は160人にまで増加しました。その中には、不登校から復学していた児童も少なくなかったのです。

一番多い自殺の動機について、文科省は「不明」と発表しているのに対し、警察庁は「学校問題」と明記しています。ある報道では、自殺した不登校経験者のうち約75%の子どもが再登校していたそうです。親の期待に沿おうとして復学を決意したが、結局耐えきれなかったのかもしれません。不登校は子どものSOSであり、自分の命を守るためのギリギリの選択なのではないかと思えてしまうのです。

ここから見えてくるのは、日本の学校がすでに子どもたちに合ったものではないのではないだろうか、ということです。つまり、制度疲労を起こしており、ちょっと手を加える程度では何も変わらないのではないか、ということなのです。

3.「落ちこぼれ」「吹きこぼれ」の問題について

「おちこぼれ」という言葉は、すでにご存じだと思いますが、今から5年ほど前に経済産業省の官僚が、「吹きこぼれ」という言葉を使い始めました。理解度が早いがゆえに、授業がつまらなく感じる生徒のことを、「吹きこぼれ」と表現するようになりました。そして、理解の早い子が遅い子に教えることで、自分の理解が深まり、クラス全体の平均点が上がるというメリットを認めつつも、「吹きこぼれ」の子どもたちにとっては、ずっと社会奉仕をさせられることになると言っているのです。その処方箋が、ICT教育だとも言っているのです。

私は「人に教えることで、学びが深まる」という意味を、もっと大切にすべきだと思います。それは、他者の間違いには、何らかの理由があることを知ることになると同時に、問いと答えの間(ま)にこそ学びがあることを知ることにもなると思っています。

現在、「問いと答えの間をいかに短くするか」に大きな価値観を持たせているように感じます。問われたことに素早く答えることができる子どもが優秀だと思われているように思います。これからの社会は、AIやChat GPTが発達し、知識量では人間は勝つことができなくなると思います。しかも現代社会においては、さまざまな解決困難な問題が山積みです。そうしたことを考えるにあたって大事なことは、問いと答えの間(ま)をしっかりと考え、出来るだけの最適解を求める力なのです。これは、「落ちこぼれ」「吹きこぼれ」に関係なく、全ての子どもに身に付けさせたい力だと思っています。

4. 終わりに

未就学児や小学生の親御さんは、これから先、社会構造の大きな変化や教育の変化を目の当たりにすることでしょう。そうしたことにあたって大事なことは、問いと答えの間(ま)を、一緒に考えてあげることなのだと思います。そのための学びが、親にも必要になってくるのは間違いありません。この号で、「困ったら増田先生に聞いてみよう『放課後職員室』」は、終わりになります。こうした悩みに答えることが出来なくなるのは残念ですが、今まで「参考になる」「新しい見方が分かった」といって読者のみなさんの声に支えられてここまで続けてこられました。本当に、ありがとうございました。心からお礼申し上げます。

出典:あんふぁんWeb
出典:あんふぁんWeb

増田修治先生

出典:あんふぁんWeb

白梅学園大学子ども学部子ども学科教授。

1980年、埼玉大学教育学部を卒業後、埼玉県の小学校教諭として28年間勤務。

若手の小学校教諭を集めた「教育実践研究会」の実施や、小学校教諭を対象とした研修の講師なども務めている。

「笑う子育て実例集」(カンゼン)、「『ホンネ』が響き合う教室」(ミネルヴァ書房)など、著書多数。

【近著】

「子どものココロが見えるユーモア詩の世界 -親・保育者・教師のための子ども理解ガイド-」(ぎょうせい、1980円)発売中。

出典:あんふぁんWeb
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