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「大人が見ても楽しめる」『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』プロデューサー・谷上香子、単独インタビュー

  • 2024.4.3
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©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

『映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よ』が現在公開中。かつての相棒“スイセン”を仲里依紗が務め、おしりたんていの過去に迫った内容となった。今回は、『おしりたんてい』のプロデューサーである谷上香子さんにインタビューを敢行。子どもから大人まで楽しめる、今作の制作秘話を語っていただいた。(取材・文:タナカシカ)
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©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

――テレビアニメ『おしりたんてい』(NHK Eテレ)は2018年から放送が開始され、今年で6年目となります。まずは、今回の企画経緯についてお聞きできればと思います。

「映画は元々、『東映まんがまつり』というお子さん向けのオムニバス映画のなかの1本として短編映画を3作作っていたんです。

そろそろ『おしりたんてい』で長編を…ということで、せっかくやるならテレビとは違うものをやろう! という話になり、テレビアニメよりも対象年齢を上げることにしました。

テレビとの差別化という理由としては、自宅で気軽にみられるテレビアニメと比べて、映画は行くだけでお金と時間がかかりますので、テレビとは違うという付加価値をつけたかったんです。

TVアニメ放送が6年目を迎えて、当初、視聴者だったお子さんたちも一緒に成長しています。中には『おしりたんてい』を卒業したお子さんたちがいますので、もう一回、『おしりたんていってこういうところもあるんだ』と思ってもらえたら、また、小学生のお子さんが、ちょっと背伸びして見たいと思ってもらえるように、映画としての面白さを追求できればと今回の企画を立ち上げました」

――今作の脚本を制作するうえで、原作者のトロル先生とはどういったどういった会話があったのでしょうか。

「映画は、『映画おしりたんてい カレーなる じけん』(2019)以外、すべてオリジナルの脚本なんです。いつも、『こういう映画をやりたいです』ということを初めに先生に説明して、良い反応をもらえたら、脚本家の方と監督とストーリーを練り上げていきます。

ある程度できたところで、もう一度先生に、こんな感じで作っています。と企画をお伝えする、という流れで制作しています。今作ですと、当初は、『ボロボロになって、それでも依頼人を守る! というおしりたんていを見たいんです』という説明をしました。それを先生も面白いとおっしゃってくださって、『じゃあそれをどういう事件にしようか。依頼人はどんな人がいいか』とシナリオ会議を進めました。

会話を重ねていく中で、『おしりたんていの過去を知るミステリアスな女性を依頼人にしたいんです』と先生にお伝えしたら、トロル先生から、いつものシチサンの髪型ではなくて、10年前のふわっとした髪型の学生時代のおしりたんていのイメージを出してくださったんです。

それから、かつての相棒“スイセン”というキャラクターとおしりたんていの二人ペアのイラストを描いてご提案頂いたものを見たライターさんのイメージが膨らんでストーリーが広がり・・・と、キャッチボールのような感じで進めていきました」

©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

――谷上さんから、トロル先生へ映画製作にあたり何か相談などはされましたか?

「10年前のおしりたんていって、どんな感じだったんだろうな。というところは、やっぱり先生にしか分からないので、こちらから質問をしました。あとは、ブラウンとおしりたんていがどうやって出会ったか。ということと、スイセンとおしりたんていがどういうロマンス展開になっていくのかというところですね。予告編でも写っている衝撃のキスシーン(?)は、先生から頂いたアイデアをふんだんに使わせていただきました」

――その衝撃のシーンは、私も試写で見たときに「まさかそんなことがあるとは!」と、かなり驚きました。

「あははは。本当ですよね。私たちもびっくりしました(笑)『こんな機能があったんだ!』と(笑)でも、それを元に、美しいシーンにしようと考えました。

あの場面に合う素敵な音楽を、高木洋先生に作っていただいて、実際に映画では美しいシーンになっていると思います。あの時の先生からもらったラフは、入場者プレゼントに入れさせていただきました。ぜひみなさんに見ていただきたくて!」

――まさかトロル先生からのアイデアだったとは…知ることができてよかったです。入場者特典で、制作段階のラフを見られるとは激レアですね。

「激レアです! アニメの制作のために先生が描いてくださったラフを、今回初めてこういった形でお見せすることになりました。『アニメの制作にトロル先生がこういう風に関わっているんだ』とイメージできるんじゃないかなと思います」

――今回、おしりたんていのかつての相棒・スイセン役を仲里依紗さんが担当されています。どのようにしてキャスティングされたのでしょう。

「今回、オリジナルのキャラクターであることと、物語の中のドラマを引っ張る非常に重要な人物ということがあり、“スイセン”役をどなたにお願いするか、時間をかけて悩みました。『おしりたんてい』で植物がモチーフになっているキャラ自体初めてで、さらに二面性があるミステリアスな女性なので、私たちもかなり作り込んでいかないとスイセンを掴みきれなかったんです。

シナリオが出来上がって、コンテが上がってきて、ようやくこういう人物かなと掴めてきた時に、『これは仲里依紗さんしかいない』と思ったんです」

――仲里依紗さんとスイセンは、何かリンクする部分があったのでしょうか。

「そうですね、“スイセン”は、過去と現在で、自分の内面を表現する際に、外見やスタイル、表情を変えています。対して仲さんも、人生のシチュエーション毎に、見た目のスタイルや髪型が変わったということを、(この映画の)インタビューでおっしゃっていて、スイセンを理解して表現していただいたのが仲さんでよかったなと改めて思いました」

©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

――今回、おしりたんてい史上初となる植物がモチーフのキャラクターが多数登場します。スイセンをはじめ、キンモク先生や、ビッグフラワー財団のタワーのデザインなど、今回、植物をモチーフされた理由をお聞きしたいです。

「これまで『おしりたんてい』では、動物のキャラが多かったんです。だから今回も、動物のキャラクターというイメージだったんですけど、トロル先生から初めにスイセンのイメージをいただいて、植物がいいんじゃないかというご提案をいただきました。今回はマンハッタンをイメージした、“ハッタンタウン”という都会が舞台ということもあり、今まで出てきたことがないキャラクターがいてもおかしくないなと納得しました。

それを脚本家の先生にお伝えしたところ、キンモク先生というキャラクターのご提案があり、そうすると財団の人も植物関係にしよう、という感じで作られていきました。ビッグフラワー財団のタワーは、植物の中でも臭くて大きなことで知られる“ショクダイオオコンニャク”をモチーフにしてるんですよ。

マンハッタン=高層ビル、摩天楼! というイメージがあったので、『ショクダイオオコンニャクだ!!』みたいな(笑)それで、このタワーのイメージを受けて“ビッグフラワー財団”という名前にしました」

――それを聞いて、また見たくなりました(笑)

「是非是非(笑)タワーが開くシーンが見どころです」

――今作で初めて、植物由来のキャラクターが出てきましたが、『おしりたんてい』シリーズは、人間や動物、魚や虫をモチーフにした様々なキャラクターが登場します。こういった色んなキャラクターが、同じ世界で共存していることに、種で括らない多様性を感じました。考えすぎかもしれませんが、こういったメッセージはあるのでしょうか。

「この世界を作ったのはトロル先生ですが、多様性のある世界ということはアニメを作る私たちも非常に意識しているので、注目して観てくれていてすごく嬉しいです。

私個人としては、事件がたくさん起こるし、ダメな大人がいっぱいいる世界だなと思っているんです(笑)

だけど、絶対にお互いを否定し合わないですし、キャラクターたちは“多様性”などを特別意識していないと思いますが、自然と自分の在り方や生き様みたいなのを出していて、他の人と種類が違おうが、体が大きかろうが小さかろうが臭かろうが、周りの人もまったく気にしていないんです。そこは私たちも大事に考えるようにしています」

©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

――今まで様々な作品をご担当されてきた谷上さんですが『おしりたんてい』を制作する際に大切にしている・意識されていることはありますか。また、日頃どのような事からインスピレーションを受けていますか。

「原作のお話をアニメ化する時もありますが、『おしりたんてい』では、アニメオリジナルの話が多いんです。毎話、謎解きやクイズ要素が必ずあるので、そこで、常に新しいクイズの形を探しています。リサーチに関しては、やっぱりお子さんが面白いと思うものは何かな、ということを常に考えています。

例えば、ボルダリングが面白いという話が出た時は、異なる色の持ち手の中で、特定の色を登っていけばゴールに着くというボルダリングの要素を取り入れたクイズを作ったり、トリックアートをモチーフにして、目の錯覚を使ったクイズを作ったりしてきました。

あとは、最近は小学校でもプログラミングを学んでいることを知って、プログラミングを元にしたクイズやってみようかとか、そういったクイズが出てくるお話はどういうストーリーが良いかなと、謎解きの部分から物語を広げていきますね」

――普段から、アンテナを張って様々な要素をもとに制作されているんですね。少し踏み込んだ質問をさせていただきますが、コンプライアンスが厳しい今の世の中で、主人公がおしりということに苦労されたことはありますか?

「元々、おしりたんてい本人は、非常に上品な人物なので、そんなに苦労しているところは実はあまりないんです。『下品なことはやめよう』という風には心掛けていますが、それはコンプライアンスが厳しいからではなく、『おしりたんてい』という作品性を追求した結果です」

©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会

――親御さんたちが、子どもと一緒にそういう考え方を共有できたらいいですね。お子さんと行く、お父さんやお母さんでも楽しめるようにと、今作で工夫した点はありますか?

「やっぱり、ストーリーにドラマをしっかり作るところと、ミステリー作品として楽しんでもらえるものを作る、というところはすごく意識しました。

一番の視聴者層は子どもなので、テレビアニメの方は子ども向けに作っているんです。でも、映画に関しては、振り切って、大人が一人で映画館に行っても『楽しかったな』って思って帰ってもらえるように、『おしりたんてい』の存在を知らなくても、一本の映画として『面白かった』と思ってもらえるものを作ろうと考えています。掘り下げるところは堀り下げて、ミステリー作品としての動機、キャラクターの葛藤、といったところをきちんと作ることに気をつけました」

――個人的に、アクションシーンや背景の作り込みが丁寧に描かれていると感じたのですが、こういった描写は、先ほど谷上さんがおっしゃっていた、『大人が一人で見に行っても、面白いと思ってもらいたい』というところにつながるのでしょうか。

「そうですね。アクションや細かいところの作り込みは見どころです。今作は、贋作のすり替えが事件の中心になっているので、作中に出てくる絵画は制作スタッフがかなり時間をかけました。色んな名画をモチーフに、『おしりたんてい』ならではの作品として落とし込んでいます。例えば、『落穂ひろい』を『落ちヒゲひろい』という名前の絵画にしたり、ゴッホの『ひまわり』を、5本の『タンポポ』にしたり」

――見切れている絵画も全て実際にあるものだという発見、“ハッタンタウン”の美術館も“メトロポリタン美術館”の大階段を忠実に再現されていたので、すぐに気が付くことができました。こういった点で、広い世代をターゲットにされているこだわりを感じました。

「本当によく観てくださっていますね。実際、具体的な場所をイメージして作りました。今作は、20年代のニューヨーク「マンハッタン」を参考にして、ハッタンタウンを作りました。なので、『自由の女神も出したい、最後にこの自由の女神はおしりたんていの必殺技を喰らうかも!!』と話したり(笑)

『おしりたんてい』は架空の世界で、テクノロジーも一昔前ではあるんですが、都合よくせずに、リアルなところもちゃんと残しています。そういった点が特に大人が見ても楽しめるようになっていると思います」

――作り込みが素晴らしかったので、何度も一時停止したと思いながら拝見させていただきました。

「ありがとうございます。作り込みは非常に意識しています。でもそれはやっぱり原作のトロル先生が、1ページ1ページ、すごくこだわって作り込まれているからですね。『おしりたんてい』の原作ファンの方は、小ネタなどの書き込みが隅々まであるところがお好きだと思うので、今作でもそういったところを大事にしています」

――では最後に、これから映画を心待ちにしている方達に、特に注目してもらいたいシーンや、本作でしか見られないポイントを教えてください。

「今回は、“相棒”がキーワードになっていて、今の相棒であるブラウン、かつての相棒であるスイセンが登場します。スイセンは有能な探偵であるのに対して、ブラウンが焦って落ち込んでしまうシーンがあるんですけど、この二人の相棒同士が出会うシーンが見どころです。

ブラウンが成長する姿が、映画ならではで、観ている人の心に響くんじゃないかなと思います。是非、ブラウンの目線になって、応援しながら見ていただけたらなと思います」

(取材・文:タナカシカ)

【作品情報】
原作:トロル
監督:セトウケンジ 脚本:高橋ナツコ 成田 順 音楽:高木 洋
声の出演:三瓶由布子 齋藤彩夏 櫻井孝宏 杉村憲司 池田鉄洋 小西克幸 中村まこと 渡辺いっけい
ゲスト:仲里依紗 津田健次郎 二又一成
キャラクターデザイン・作画監督:真庭秀明 製作担当:末竹 憲 編集:田公紀 録音:澤村裕樹 音響効果:中原隆太
美術デザイン:増田竜太郎 美術監督:東 美紀 色彩設計:森 綾 撮影監督:則友邦仁
制作:東映アニメーション
製作:2024「映画おしりたんてい」製作委員会
配給:東映
上映時間:71分
©トロル・ポプラ社/2024「映画おしりたんてい」製作委員会
3月20日(水・祝)より全国絶賛上映中!

 

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