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住む部屋によって髪質が変わる? パリで体験した「粘土ヘア」の悲劇。

  • 2024.3.31

どこに住んでいても何だか引っ越しの多い私は、パリでも結構いろんな区に住んできたと思う。

同じ区の、ひとつ隣の通りに引っ越したこともある。ちなみに引っ越しが好きなわけではなくてむしろすごく嫌いなのだけど、いつも何らかの理由で引っ越さなければならなくなってしまうので、つい心の中で引っ越しの準備をしてしまうようになった。なるべく物に縛られたくはないし、いつでも身軽に苦しまず引っ越しができるよう、ミニマリストでもないのに持ち物は少なくしてしまうし、物が少ない状態をうれしいと思ってしまう。

それが美容の方針にもあらわれてしまうのか、いつからかとにかく肌と髪がきれいであればほぼOKと考えるようになってしまった。いつでもどこでも手に入るものでスキンケアをして、メイクができなくても満足できる心があれば環境に左右されることはなく、強くいられるのだ。

自分に満足できて、心強くいられるのは最高だ。

しかし、「肌と髪さえきれいであればほぼOK」の人間が、「肌も髪も全然きれいじゃなくてなんにもOKじゃない」状態になってしまったら......?

もともと丁寧なスキンケアや多彩なメイクに頼っていないぶん、拠り所がなくなってしまうのは想像に難くない。そう、フランスの硬水とは日本の軟水により満足いく肌と髪を保っていた人が、そのすべてを一気に失う危険性をはらんでいるのである。

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photography: shutterstock

多くの人が、フランスにきたとたんに「肌が乾燥する」「髪がごわつく」といった悩みを抱える。硬水との闘いはスキンケアやヘアケアや掃除や料理と、生活全般にわたると思う。しかし私の場合は長いこと「まあ肌は乾燥するがそこまでいうほどでは」「髪はぎしぎしするのはするけど日本にいたときだって大して髪質はよくなかった」と、いま、このように書いてみると自分をごまかしごまかしやってきただけなのではという気がしなくもないが、とにかく「よく言われるほど」には気にならなかったというのが本音だ。

それがある時から、本当にある部屋に引っ越した途端に、自分の髪が「粘土」になったのではと思えるほどねっとりするようになったのだ。「粘土」だなんておおげさだ思う人もおられるかもしれないが、実際のところ限りなく「粘土」に近づいた状態だと言うほかなく、おまけにこれ以上粘土にはなれないだろうと思われた状態からさらに更新して日に日に粘土風味を増してくるのである。触るとなにやらベトベトするし、そのいやな感触がしばらく手に残ってしまうほどなのだ。櫛もうまく通らず、髪を乾かすときだって普通ならドライヤーの風にさらさらとなびくはずの髪が、冬の冷たい風に時折ゆれる干大根のようになってしまう。私たちはこれまで、干大根を風になびかせるためにせっせとヘアケアを続けてきたのだろうか?否。そんなはずはない。

髪の毛が粘土と同じ手触りであることがこれほど生活の質に影響を与えようとは、実際に経験してみるまでわからなかった。肌荒れもずいぶんダメージはあるが、「髪が粘土」はそれとはちょっと質の違うボディブローのようなダメージを日常に与えた。特にどうしようもなくなって髪の毛をまとめるときに、大切にしてきた自分の髪を「汚くて邪魔なもの」と感じるようになったのがきつかった。

この問題を解決するにはシャンプーやトリートメントやシャワーヘッドなどいろいろな方法があるけれど、それらすべてにもそれぞれの問題点に突き当たってしまい、すんなりとはいかなかった。今回はひとまず蛇足になるのでそれらについては割愛しようと思う。

とにかく私がまず不思議に思ったのは、これまでたくさんの区に住んだけれどこんなに「粘土」になったことはなかったということだ。そうして知人に相談するうちに、パリの水は場所によって違う場所から引いてきているということを教えてもらった。不勉強で恐縮だが、私はそのことを教えてもらうまでてっきりパリの水は全部同じセーヌ川から引いているものだとばかり思っていた。

パリ市水道局のサイトには、住所を入力するとどこから引いてどのように処理・貯水されている水なのかを知ることができるサービスがある(https://qualite.eaudeparis.fr/)。私はこのサイトでいままで引っ越しに引っ越しを重ねた自身の歴史をたどるかの如く調べまくったのだが、同じ区でも、少し通りが離れているだけでも水源は違う場合があるとわかって、目が覚める思いだった。サイトでは、「住んでる場所によって違うのは違うんだけど、どの水も最高にワンダフルだよ!」というように説明されているが、粘土と化した私の髪を考えればそんなこたあないだろと思わざるを得ない。

髪質との相性もあると思うけれど、髪がひどい手触りになるといわれるパリでもまったく水が髪に影響しない部屋もあった。しかし何区が最高で、何区が粘土だった、と言ってしまうといまそこに住んでいる人やこれから住もうと思っている人の気持ちを害してしまうかもしれないのでそれはここでは書かない。そもそも、同じ区でも同じ水源とは限らないようなので「何区が最高」とは一概に言えるものではないだろう。

ただ、もうひとつ大きな疑問であるのは、最低最悪の「粘土ヘア」を生み出した部屋に、私は以前も住んでいたことがあるのである。一度住んで引っ越し、また事情があって同じ部屋に引っ越してきたわけだ。しかし不思議なことだけど最初に住んでいた時にはまったく粘土とは縁のない快適な日々を過ごしていた。それがまた舞い戻ったらこのありさまなので、どうしてそんなことが起こるのかわけがわからない。ついでに、紹介しておきながら無責任なようだが、前述したパリ市水道局のサイトで調べると同じ水源なのに、この部屋の水は最高だったがこっちの部屋の水は最悪だった、ということもあった。これからパリへ引っ越しを考えている人には、便利だとか治安がいいとか住む場所の決め手はさまざまだと思うが、「水」もなかなか重要項目であるということをお伝えしておきたい。

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